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鮭様大好き♡秀吉絶対ぶっ潰す!  作者: みたらし丹後
最上家細うで繫盛記
27/66

26.賽は投げられた

〇岡田弥太郎〇

 うん? 朝です。ここは一体全体何処でしたか? ・・・思い出せません。

 そういえば。誰かに担がれて寝床に入ったような気がします。


「おはよう。弥太郎。昨夜は良く休めたようで。重畳(ちょうじょう)です。」

 はっ!っと飛び起きる。

 そこには。目の下に(くま)をつくられた姫様と。何かの書状を冷や汗を()きながら、読みふける助左衛門様がいた。


「こ・・これは! 失礼をば! この弥太郎! 一生の不覚。」

 姫様に。土下座をする前に、制される。


「何言ってんだか。顔洗っておいでなさい。不覚なんてないです。そもそも昨夜私が、お酒を勧めたせいなのですよ。」

 とてもそれは、(あで)やかな。視線で私をかばって下さいます。


「はい。楓様? 」


「よくお分かりですね。楓です。今滋野様はお休み中ですよ。」

 とても尊い笑顔を。私ごときに。勿体ない。勿体ない。

 末の妹のお光の半分の歳である。楓様に懸想(けそう)※1したなど。口が裂けても言えません。


 私ごときに。手ぬぐいと。房楊枝(ふさようじ)※2を手ずから。与えてくださります。

 

「朝餉前に。大切な話があります。大叔父様には既に伝えてあります。」笑う姫様のその笑顔が(まぶ)しくて、直視できません。


「はい。直ぐに済ませます。」

 姫様。(たと)え、お伝えできぬ赦されない。思いであっても、いつまでも弥太郎は、お慕いいたします。



〇氏家楓〇

 大崎の爺さんから「ワシ頑張りすぎて。精魂尽き果てたから、寝る。お前が差配してみろ。」と言われて現在に至る。

 大叔父様は爺さんの書面を見て。青ざめたり、興奮したり、怒りの表情をしたりと。色々と忙しいご様子。

 そして四枚目を読むに至り。「なっ! なんじゃとお! 」と驚愕の声を上げた。


 書面を置き。こちらを向く。

「楓わかっておるのか? こんな決断など。」

 驚きと。戸惑いの表情をしながら。こちらに話しかける。


「はい。承知の上です。滋野様はこのままでは。庄内しか最上家の支配下にできぬ。」と(なげ)いておられました。

 極めて冷静に返事をする。


「確かにな。この書面を読ませていただいて。あのお方の恐ろしさを実感した。まるで今孔明のようなお方じゃ。最上家にとっては千載一遇(せんざいいちぐう)の好機であると思い知らされた。」

「しかし、何故にお前が死んだことになり。名を変え女を捨てにゃならんのだ? 」


「大叔父様。この戦国の世の武士階級に於いて。女子(おなご)というものは子を作る為の道具でしかありません。滋野様の神算鬼謀(しんさんきぼう)※3を発揮するのに。この女の体が(かせ)となっております。私はそれをやりきれぬ思いでおりました。」

「よい機会なのです。滋野様にも大叔父様と同様の思いやりの言葉を頂き。静止されました。しかしあの大軍略家様を世に知らしめる事が出来ないことは。罪であると考えます。」

「滋野様には、この楓の意地を通させてもらいました。大叔父様この楓を誉めてくださいませ。」

 手をつき深々とお辞儀する。


「お前というものは。・・・あい分かった。ようやった。ようやったな。楓。」

 大叔父様は、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら。私の頭をやさしく撫でてくれた。私の目からも涙が溢れる。


「人の口に戸は立てられぬものです。このことは大叔父様と御父上とお母上のみに。他は父上が信用能(あた)うと思われた方のみでお願いします。」


「承知した。それでワシは何をすればよいのかな? 」


「ありがとうございます。先ずはこの書面に花押(かおう)※4を、お願いします。そして私の新しい着物の新調にお付き合いを。明後日(みょうごじつ)には羽黒衆の調略をお願いします。」

 ニコニコしながら用事をまくし立てると。大叔父様が、我が意を得たりと。


「いや正に。退屈する間もない。ありがたいな。」

 矢立(やたて)と書面を取り。花押(かおう)を入れ始めた。


 私は四枚目の書状を大叔父様より受け取り。油紙(あぶらかみ)(くる)み赤い紐で縛った。


「只今。戻りました。」顔を洗い。歯を磨いて。さっぱりした様子の弥太郎が部屋に戻ってきた。


「弥太郎。先ずはこれを。」三枚の書面を渡す。爺さんの最高傑作だ。

 弥太郎はそれを受け取り。読み始める。見る見る間に額から脂汗(あぶらあせ)(にじ)ませ。懐から懐紙を取り出し。汗を拭く。更に読み進めると。滝のような汗に変わる。目をカッと見開き。あの糸目が消えた。


 書面三枚を読み終え。顔面蒼白になった弥太郎が。「ふうぅぅ」と大きく息を吐いた。


「今。お家の一大事とわかりましたね。」

 コクコクと頷く、弥太郎。驚きで、声が出ないらしい。


「父定直より。旅中の差配を全て任されております。弥太郎。これより主命を申し付けます。謹んでお聞きなさい。」


「はは! 」

 手を付け深々と頭を下げる弥太郎。


「朝餉が終わり次第。山形に向かいなさい。父上にその書面三枚とこの書面一枚を届けるのです。こちらは、父母への私信です。」

 油紙(あぶらかみ)を赤い紐で(くる)んだ書面を見せる。

 先ほどの三枚を受け取り。油紙で(くる)み始める。


「大叔父様。」


「うむ。弥太郎よ。これを。」

 大叔父様は懐から革袋を一つ取り出し、弥太郎に渡す。

「ここにはな。小粒金十粒(約38万円)が入っておる。遠慮なく使え、そして一刻も早く(ふみ)を届けよ。これはお前の戦よ。岡田家の栄枯盛衰(えいこせいすい)も。その働きにかかっておることを努々忘れるでないぞ。」


「はは! 朝餉を取る時間勿体なく。直ぐに出立(しゅったつ)いたします。」


「いけませんよ。しっかりと食と水は取りなさい。こちらのお女中に握り飯を頼んでおきました。腹が減っては戦はできません。これから雨も降るでしょう。気を付けて懸命に励みなさい。」

 油紙に包んだ三枚と一枚を渡す。

 弥太郎は。震える手でそれを受け取った。


◇◇◇


『ようやった。楓。80点だぞい。』


「え~。100点じゃないの? 」


 朝餉が終わり。齋藤家の家人に庄内の街中を見て回る。と伝えて大叔父様に背負ってもらい。仕立て屋に向かっている最中である。

 大叔父様は、雨が降り出す前に到着したいらしく。無言で急ぎ歩きである。空がどんよりと曇り。今にも泣きだしそうだ。

 弥太郎は早速出立した。


『気にするな。初めての差配でワシから80点とか。ありえない快挙とおもってよいよ。』


「でも聞きたい。何が足りなかったの? そして起きてたのね。」


『足りなくない。むしろやり過ぎたんじゃよ。』


「???何それ。わけわかんないよ。」


『弥太郎じゃ。お前は気を使って送り出したつもりじゃろが。あんなに優しくするとな。おそらくあ奴一睡もせずに。一気に山形まで、駆け抜けるよ。一日半で到着する。』


「えっ!」


『あの若さじゃ。万一はないと思うが。疲労して峠で足を踏み外したなら。この目論見全てぱあじゃよ。』


「・・・返す言葉もないよ。」


『まあそう(へこ)むな。時に主君は、無神経を装うことも大事なんじゃよ。』


「肝に銘じておくよ。」


『楓お前はよくやった。おや着いたようじゃよ。』


 齋藤家の家人に教えてもらった。呉服屋である。若狭屋(わかさや)についた。こじんまりとした。店構えで、入り口に「呉服物」と書いた木の看板がある。


 私を背から降ろして。手をつなぐ大叔父様。

「はい。御免なさいよ。」のれんをくぐり中に入る。商家の御隠居様が、堂に入ってきた。


「はい。いらっしゃいませ。」三十代後半と思わる。ほっそりとして小ざっぱりとした。男性が応対してくる。


「実はですな。この子は私の孫なんじゃが、快活な子でな。羽黒山の五重塔を詣でに参ったのですが。どうしても男物(おのこもの)の服が欲しいとせがんで来ましてな。」


「左様でございましたか。お孫様の願いとあっては。それは断れませんね。」ニコニコしながら。接客してくる。


「その通りで。折角ですから。しっかりとした物を揃えてあげたいと思いまして。庄屋の齋藤様に伺いましたところ。こちらのお店を教えていただきましてな。」


「そうですか、齋藤様に。それはありがとうございます。」

 丁寧に頭を下げてくる店員。


直垂(ひたたれ)(はかま)をお願いしたい。紋は九曜紋(くようもん)でお願いできますかな。」


「それでしたら。引立烏帽子(ひきたてえぼし)も併せていかがでしょうか? 昨今流行りの烏帽子です。」


「よさそうですな。それでお願いします。」


「ただお子様のお召し物とは言え。紋付となりますと。お値段のほうが・・・。」


「そうですな。これで足りますかな? 」

 懐から革袋を出し。中身を見せる。大叔父様。

 中には小粒金が、ぎっしりと詰まっている。


「これはこれは。大変失礼いたしました。今解き済みの生地と反物(たんもの)をお持ちします。おーい。お客様にお茶をお出ししておくれ。」上客と分かると。態度変わるよね。


 その後。採寸と柄合(がらあ)わせを済ませ。金に物を言わせて。二日で仕上げてもらうことになった。

 

 そして昼近くに雨脚が弱くなったので、齋藤家に戻った。


 夕餉の後。爺さんと大叔父様が、羽黒衆の調略の算段である。


「齋藤家の炊き出しの通達が、朝なされましたね。明日には、庄内中に広がります。」

 扇子を広げて自分の顔を(あお)ぐ爺さん。ほんと扇子すきだよね。この爺さんは。


「はい。予定通りですな。」

 ちょっと悪い顔をする。大叔父様。めっちゃかっこいい。


「羽黒衆ですが、明日の段階で。首領か首領格が、焦りを見せているようでしたら。相当な切れ者です。士分(しぶん)取り立てだけでなく。里ごと調略しましょう。」

 爺さんの実力至上主義(じつりょくしじょうしゅぎ)は、徹底している。


「承知しました。」


「さて(さい)は投げられましたな。ルビコン川を渡ったぞ。」


「そのるびこん川とやらは? 」

 叔父様が不思議そうな顔をする。そりゃカエサルなんて。知らないだろうし。でも可愛い。


「南蛮の(いにしえ)の将が、その名の川を渡って。立身したのですよ。」


「なるほど。天下分け目の富士川の戦い※5ですな。」


「ほうほう。助左衛門殿は源平合戦を。中々の物知りであられる。いや。恐れ入った。」


「そうおだて下さるな。照れますわい。」

 頭を掻きながら。顔を赤らめる大叔父様。超可愛いのですけど。


※1 懸想 異性に思いをかけること。

※2 房楊枝 竹で作った昔の歯ブラシ。

※3 神算鬼謀 人知の及ばないような、すぐれた巧みな策略のこと。

※4 花押 署名の代わりに使用される記号・符号のこと。

※5 富士川の戦い 1180年10月平氏が大敗した合戦。実質上の源平の決戦。


弥太郎はロリ。楓は枯れ専。いろいろ大変な方たちです。


次回投稿は03/09の予定です。

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