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鮭様大好き♡秀吉絶対ぶっ潰す!  作者: みたらし丹後
最上家細うで繫盛記
21/66

20.鬼助左

〇氏家楓〇

 帰ってきた翌日の朝。朝餉前にお清と家人に、手伝ってもらい。新しい自室の元納戸部屋に、前の部屋から、身の回りの物を移動した。

 お清は丁寧に雑巾で、箪笥(たんす)や化粧箱を拭いてくれる。


「姫さま。だいぶ臭いが抜けましたね。あとで香り(かおりぶくろ)をお持ちします。お部屋の方は、(にお)い抜きをしておりますので、ご不便ですが、しばしご辛抱のほどを。」

 申し訳なさげに、私に話すお清。


「ありがとね。お清。助かったよ。う~ん不便はないね。」


「そうおっしゃっていただくと、助かります。では朝餉までごゆるりと。」

 そう言って挨拶すると、お清は部屋を退出していった。


『ええ子じゃの。あの娘。』


「そうだね。お清は私の姉さんみたいな存在だよ。ところで昨夜の滋野様って。奥さんの。」


『そうそう。婆さんの実家な。ほらワシ長野県民じゃん。無意識に、方言でるかもしれんし。この時代の信濃滋野家は、実権のない状態でな。裏を取られても、問題ないからの。名を使わせてもらったのよ。』


「なるほどね。確かに大崎は警戒されそう。」


『その通りじゃよ。最上家の本家は、奥州斯波氏(おうしゅうしばし)だが。その一族が大崎を名乗ってるからの。ワシの先祖は、違う大崎氏だが。近頃。最上領民と大崎領民との間で、水争いがあったらしいから。大崎を名乗ることは、デメリットしかないの。』


「だね。それじゃ。よも姉ちゃんのお使いの滋野善盛(しげのよしもり)様。今後ともよろしくね。」


『うむ。苦しゅうない。』


 しばらく二人で笑った。


◇◇◇


 神棚に、よも姉ちゃんのお神札(ふだ)を、祭ることになった朝。いつまで時間が、経っても朝餉の準備ができていない。未だに居間の外の廊下を、せわしなく動く、家人の衣擦(きぬず)れの音が聞こえてくる。


『爺さんこれって。さっきの600年ぶりの朝餉のせいなんじゃないの?』

 お茶を飲み終わった。爺さんに訊ねる。


「そうじゃろな。」

 飄々(ひょうひょう)と答える爺さん。

 

『あれに何の意味があったのか、分からないんですけど。』


「あれか。あれは、定直殿のよも姫への。期待度を量る為に、試してみたのよ。禍福(かふく)の福が欲しければ、ひたすら祈り、祭れとな。その神に対する信用を信仰へと、昇華(しょうか)させようと思ってな。」


『ふ~ん。それで今のところ、上手くいってるわけね。』


「もう一押しじゃな。神棚にお神札(ふだ)を祭るときに、サプライズを計画しとる。これで定直殿だけではなく、家中の信用と信仰を一気に掴む。」

「楽になるぞ。動きやすくなる。何事も神のおぼし召しで通るからな。どんなキテレツな事をしても。疑われることが、なくなるからの。」


『ちょっとびっくり。爺さん結構策士なんだね。』


「ひょひょひょ。誉めてもなんも出さんよ。ただ雅子さんが他行中なのが、残念じゃが。まあそれは別の手を打てばいいしな。」

 爺さんと一人会議をしていると。居間の襖がすっと開き。50代前半のがっちりとした。中年の男性が入ってきた。


「楓おはよう。調子はどうかね?今朝の飯遅くないか。腹が減ってかなわん。」

 大叔父の氏家定道(うじいえさだみち)さん。父定直の叔父さんである。


「お初にお目にかかります。(それがし)四方那草姫(よもなくさひめ)様の御使(みつか)いである。滋野善盛(しげのよしもり)と申します。楓殿の御身(おみ)を借りて顕現(けんげん)しております。」丁寧に手をついて、挨拶する。


 一瞬びくりとする大叔父さん。

「やっ!これはこれはご丁寧な挨拶。恐悦です。ワシはこの家の当主。氏家定直殿の叔父にて、ここにお世話になっております。氏家定道と申す。」

「定直殿から話を伺っております。氏家家と楓に福とご加護を授けてくださる。大神様の神使いであられるとか。こんな爺いに、ご丁寧な挨拶は無用ですぞ。恐れ多いことです。はい。」

 

 大きな体で、小さく(かしこ)まりながら、挨拶する大叔父様。超可愛いんですけど。右頬の刀傷の後が、とってもキュート。


「われの前では、遠慮も恐縮も要らぬものです。鬼助左(おにすけざ)殿。」ニッとほほ笑みを見せる私な爺さん。大叔父はかつて「槍の鬼助左(おにすけざ)」の異名を持った。勇将であったという。


「いやいや。勿体なきお言葉。この老骨恐縮してしまいますぞ。」大叔父様は嬉しそうに、恐縮する。


「どうぞ。上座へ。誰かある!」上座を指し示しながら。人を呼ぶ私な爺さん。


「はい。」通りかかった女中が、それに答える。


「すまぬが、茶を二杯お願いします。」


(かしこ)まりました。」すすすっと衣擦れの音を立てながら。去っていく女中。

「さて、朝餉までの間。茶でもいただきながら、鬼助左衛門(おにすけざえもん)殿の勇敢な戦働きのお話を、お聞きしたいものですな。」


 大叔父は子供のように、目を爛々と輝かせながら、こちらを凝視している。


◇◇◇


「でな!滋野様。ワシは先代の殿の手綱を任されてな。襲いかかってくる敵を槍で、突いて突いて突き崩して、首級(しゅきゅう)を数え切れぬほど上げたのですわい。後に先代様に[誠に助左衛門は全身これ肝なり!]と褒めたたえて頂いたことが、今でも忘れられん。」

 大叔父様が、ややオーバーリアクションで、武勇談を語る。

 

 かれこれ30分は聞いただろうか。

 その間。私な爺さんは、適度な相づちと、適当に大叔父様を誉めて、持ち上げる。

 心地よいのか、更に熱を帯びて、語りだす大叔父様。


「さてもさても。叔父上。ご機嫌よろしいようで、何よりです。」

 父上がそう語りながら。居間に入ってくる。


「やっ!これは年甲斐もなく。はしゃぎすぎたようですな。定直殿。」

 恥ずかし気に頭を掻く大叔父様。可愛い。


 その父の後に、お八重を筆頭にして、朝餉の御膳(おぜん)を運んでくる。お膳を運んでくる侍女や女中が、10人を過ぎた辺りで、大叔父様と私の顔色が変わる。

 更にお銚子と盃が載った膳まで、運ばれてくる。


「なんとまあ。豪奢(ごうしゃ)で、たまげた。」大叔父様が、感嘆と驚きの声を挙げる。


 私の前に十六客の御膳。それには魚の煮しめや煮アワビ。山鳥のつみれ汁や山菜や筍など。海の幸、山の幸が山盛りになり。お銚子と盃がこれでもか。と載せられている。

 

 父上と大叔父様にはそれぞれに、お膳が五客づつ。それでもこの時代の朝餉にしては。かなり豪勢である。


「叔父上。滋野様は人の身に戻り。実に600年ぶりの朝餉だそうですよ。」父がニコリとして、大叔父様に話す。


「なんとも。600年とは。」大叔父様は放心している。


「滋野様。粗末な朝餉なれど、心を込めて用意致しました。どうぞご相伴(しょうばん)くださいませ。」父が私に向けて慇懃(いんぎん)(こうべ)を垂れる。


「わっはっはっは!!これは!!(おびただ)しき!実に結構!」

 立ち上がり。私な爺さんは、大笑いをする。

 きょとんとする。父上と大叔父上。


「伊予守殿。誠に嬉しい。信義(しんぎ)とは神宜(しんぎ)に通じるものでありましてな。古来の人と神との繋がりは、このような互いの信義で結ばれていたのですよ。我らもそのように繋いでまいりましょうぞ。」

 居間の奥に鎮座してある神棚に向け。二拝。二拍手。一拝。


「短い時間に、これほどの馳走。四方那草姫(よもなくさひめ)様もお喜びです。朝餉の後に家人全員をここに。皆に福を授けてくださるそうです。」


「はい。(かしこ)まりました。感謝します。」

 父上と大叔父上が、私に頭を下げた。


「では、御馳走に相成る。」

 膳に手を合わせて、軽く一礼する。


「お八重殿をこちらに。」


 程なくして、お八重が来た。


「お八重殿。聞いていると思うが。われは滋野善盛(しげのよしもり)と申します。この度の(おびただ)しき馳走の差配。感謝する。」


滅相(めっそう)も。ございません。そのお言葉勿体のうございます。」

 恐縮して手をつくお八重。


「素晴らしき堪能を頂いた。この楓殿での身体では、全て食すること(あた)わず。」

「われには、これとこれの2膳を。」それぞれお八重に指さして示す。

「これとこれは。丁度良い。この後の祭りの御奉納に使いましょうぞ。」

「あとは家人の皆で、分けてくだされ。痛んでは勿体ないのでな。いわゆる神からの下がりもの。縁起物(えんぎもの)です。」


「殿様。」

 お八重が、父上の顔を伺う。父はゆっくりと頷く。


「滋野様の御意思通りにしようぞ。」


 豪勢な朝餉が、家人にも配膳され。朝から(うたげ)(もよお)された。

次の投稿は02/26の予定です。

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