19.奇貨居くべし
〇氏家楓〇
『手っ取り早く銭を増やす手段として、銭10貫の予算内で、今のベストは何かの?』
爺さんが、私に問いを投げかける。
「う~ん。椎茸栽培かな。」
爺さんに作ってもらった脳内データベースの検索をかけてみた。今は3月。クヌギの原木に菌糸を植え込む時期は、2~3月がベストらしい。季節がマッチしている。
『確かに原木に、菌糸を打ち込む時期は、申し分ない。だがその菌糸の確保は?原木の乾燥は?椎茸に集るナメクジの対策は?』
「なるほど。今年の椎茸は準備だね。」
『乾燥椎茸は江戸時代に人工栽培が、確立されるまで、天然ものだけだったからの。今年は10月に天然椎茸を手に入れて。菌やクヌギや栽培場所の確保に専念しようかの。』
「そうだね。じゃあなんだろね?」
う~んと思案しながら、考える。
データベースの出羽の勢力を地図と、リンクさせる。
今の最上家の勢力は、最上郡の山形城を中心とした。ほんの僅かな領地しかない。
周りには、北に天童氏。北西に寒河江氏。山形城の直近に中野氏。酒田湊を含む庄内は、大宝寺氏。そして南に伊達の米沢城がで~ん!と鎮座している。
「前に父上は、15万石ないと言ってたけど。実際は10万石あるかないかだよね。これ。」
内陸で、近くに湊がない場所。ただ近隣に、金、銀、銅などの鉱山が結構ある。
金銀を抽出していない粗銅が、そこそこ手に入りそうだ。
「灰吹法かな。」
とボソリと呟く。
『よく分かったな。ご明察じゃ。』
爺さんは嬉しそうに、正解を告げてくる。
『今は1536年。灰吹法が日本に伝来したのが、1533年の石見銀山らしい。そして1542年に生野銀山から全国に広まってしまう。稼ぐなら今のうちなんじゃよ。灰吹法が広がるまでは、粗銅の価値はかなり低かった。』
「えええ!?あと6年しか稼げないじゃん!早く始めようよ~。」
私が慌てると。
『まあ落ち着け。生野銀山は兵庫県にある。ここら(東北)まで広がるのに、後15年はかかる。』
「なんだ。安心したよ。」ホッとする私。
『楓。灰吹法に必要なもの。言ってみ。』
「えーと。粗銅。鉛。木炭。骨灰か木灰。炉に鉄なべ。鞴。・・・あと何?」
『一番肝心なもの。抜けておるよ。人じゃ。4歳児のお前がやるつもりだったのか?』
「あっ。」
『運が良いことにお前さんは、最上家の宿老。氏家伊予殿の娘御。人を集める。材料を集める事に苦労せん。振り出しで10貫文を持っていること。相当恵まれてる事に、あぐらをかくなよ。慢心したら、足元すくわれるぞ。』
「そうだね。心に刻み込むよ。」
『良々。上出来じゃ。では人の確保はな。』
◇◇◇
2日後の朝。お城に登城前の、父の部屋を訪ねた。
「何?人を用意してもらいたい?」
父定直殿に、人の伝手の無心をする。
「はい寄進していただいた。銭10貫を元手に、大きく生産を行います。四方那草姫様にはご了承を頂いております。」
「ふむ。それは滋野様にも?」
「はい滋野様の発案で、ありますよ。」
「あい分かった。で。どの口入を望むのかな?」
「はい。腕のたつ者を一名。手が器用で、機転の利く者を一名。そして鉛と粗銅に、通じている商人への紹介を。」
「ふむ。」父は口元のヒゲを撫でながら、少し黙考する。
「なんとかなりそうだ。楓。四方那草姫様も滋野様もワシは信用しておる。だが家人と贔屓にしている商人を使うとなるとな。触りでよいから、何をするのか、教えてくれ。」
「はい。父上のお考え。もっともであります。やることは灰吹法と言うもので、日本には3年前に、西の石見銀山に伝来しております。簡単に申しますと。粗銅から金と銀を取り出す。唐と南蛮の技法です。」
「なんと!それを能うならば、凄い事になりそうじゃ。粗銅が金銀に化けるとは。」
「はい。酒田湊より、唐の商人が、粗銅を買いあさるのは、その灰吹法にて、荒稼ぎしているからです。」
「そのような唐栗が、わかった。先ず腕の立つ者は、弥太郎がよかろう。あ奴は若いが、鹿島新當流の遣い手だ。」
用人の岡田弥太郎。いつもニコニコしたような、糸目の若いうちの家人。話したことは、何度かあるけど。物腰の柔らかいお兄さんって感じ。鹿島新當流の達人とは、イメージが合わない。
「そして茂助だ。楓こちらへおいで。」
スッと立ち上がった。父がこちらを手招きしている。後をついて行く。居間について、父が上を向く。
「あれをご覧なさい。」
そこには見事な神棚が、祭らていた。
『これは、凄い。見事な大社造りの神棚じゃわい。千木から棚板に至るまで、精密な造りをしておる。相当な値段じゃろ。定直殿奮発し過ぎじゃわい。』爺さんが興奮気味に解説してくれる。
「こ・・これは素晴らしい神棚です。滋野様も<見事な大社造りの神棚感謝いたす。四方那草姫様もお喜びになるであろう。>と申されておられます。」
「それは重畳。」父は嬉しそうに頷く。
「相当なご出費では、なかったでしょうか?」
「いやいや。これは買ったのではない。茂助に、造らせたものだ。あ奴が、道具と材料を一日で揃えてな。一日で造ってしまったよ。」
うちの下男の茂助。30過ぎの小柄な男だが、そういえば昔。竹とんぼの仕組みを話したら。即作ってくれた。
『とんだ、拾い物じゃわい。』『ああそうだ。楓かわるぞ。』
「父上。滋野様が神棚のお礼と。四方那草姫様のお神札を祭りたい。とのことです。代わります。」
〇氏家定直〇
楓がうつむき、一瞬震える。さっと顔を上げると。顔つきが変わっている。神棚を見上げて、大きく頷く。
そして、おもむろに。
「見事であります。伊予守殿。姫神様も大変お喜びです。」
「はっ!恐悦至極にて。」深く礼をした。
「ついては、朝餉の後。神棚に姫神様のお神札を祭りましょう。おめでとうござりますな。これにて氏家家の治める。領地の秋の大豊作は、決まりました。」
福の神のような、満面の笑みにて、滋野様がおっしゃった。
ありがたい。ありがたや。
「感謝の念しかありませぬ。」自然と涙が顔を伝う。そして手をつき、礼を述べる。
「うんうん。よかったな。よかったな。」
我が子を慈しむように。尊い笑顔で頷く、滋野様。
「ついては、祭りの前に、草に付いた朝露を集め、それで念入りに墨を擦ってもらいたい。あと縦5寸に横1寸の木札を1枚。お願いしたい。」
「楓殿には。許可頂いた。人の身で600年ぶりの朝餉よ。楽しみぞ、よしなに頼む。」
「畏まりました。」
いかん!朝餉を豪勢なものにせねば!
〇氏家楓〇
「朝餉と祭りの準備が整うまで。お待ちくださりませ。」
父が慇懃に頭を下げて。居間から退出した。その後侍女や女中などの家人が、行ったり来たりしているのが分かる。
爺さんが表に出た私は、お清の煎れた。お茶を涼しい顔をして、飲んでいる。
『大豊作なんて、大風呂敷広げて、大丈夫なの?』
「何な。神域で、話はついとる。落とし前の一つじゃよ。それより、茂助と言う下男。」
『だね。運がいいね。私たち。』
「神棚を見れば分かる。相当な腕前と、創造性を持ってる。宮大工にでも、指南を受けたかもな。あれは我らの鬼札の一枚になる。楽しみじゃわい。どの様に仕込もうかのう。とんだ技術者に化けるかもな。」
『そうだね茂助は、私たちの奇貨だね。』
「そうじゃ。奇貨居くべし。だな。」
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次回投稿は02/24の予定です。




