呼ばれて落ちた思い
「美味しいねぇ。お天気も良いし。最高だねぇ」
クレープを買った後、公園に移動してベンチに座り、買ったばかりのクレープを頬張るリコ。その隣に座るミクは困った顔をしている
「こんなにたくさんのクレープ……食べきれるかな……」
一つに決められず、リコの押しに負けてクレープ三つも買ったミク。手にいっぱい持ったクレープに、どう食べようか悩んでいた
「甘くて美味しいのは、別腹だから大丈夫、大丈夫」
生クリームが溶けはじめて、慌てて食べ始めるミク。甘いクリームに美味しそうにどんどん食べ進めていく
「そういえば、ミクちゃん、絵本はどうしたの?」
とクルミが、ミクが手ぶらなのに気づいた。口元に生クリームをたくさんつけて、ミクが答えた
「調べるといって持っていかれました。お昼に返すと言っていましたが……」
「ゴメンね。大切な本なのに……」
「いえ、お母様が見つかるのであれば……」
「あっ……イチゴが……」
食べていたクレープに乗っていたイチゴが地面に落ちて、慌てて取ろうと手を伸ばすミク。イチゴはコロコロと少し転がって、リコ達から少し離れていく
「……あれ?」
イチゴを取りリコ達の方に振り返ると、ベンチに座っていたはずのリコ達が居なくなっていた
「リコさん?クルミさん……モモカさん……」
ベンチに戻って辺りを見回しても、リコ達どころか人がいる気配がなくなった公園に、一人きりということに気づいて、またベンチの付近をキョロキョロと見渡していく
「どこ行ったの?」
しょんぼりとベンチに座って一人、リコ達が帰ってくるのを待ってみる。まだたくさんあるクレープを食べていると、少し離れた場所にある大きな広場に人影が現れた
「あれ……リコさん達かな?」
そう思い、人影に近づいていく。近づいていくにつれ、少しずつ誰かの声が聞こえてくる。歩くのを止め、声に聞き入っていると、声は唄声に変わっていく
「うた……このうた……。お母様の!」
うたの正体に気づいて駆け寄ろうとした時、なぜか体が動かなくなった。足を動かそうとしても全く動かせられない
「なんで……動けない……」
近寄ろうとまた体に力をいれるが、やはり動かない体。苦しみながらも、まだ見える人影の姿を確認すると、本を持ち唄う女性の姿を見た
「あれって、お母様の本……」
「あれ?ミク、どうしたの?」
リコ達の目の前で、クレープを持ったまま動かないミクがいた。リコの声を聞いた瞬間、ミクはフラッと倒れてしまった
「ミク!」
慌てて駆け寄るリコ達。木陰に隠れて見ていた女性隊員も慌てて本部に連絡を取りはじめる。ミクに近づき、息をしているのを確認し、ホッと胸を撫で下ろ
「急いで本部に帰らないと……」
モモカがミクの体をゆっくりと起こしそうとミクに触れた時、ミクが目を覚まし、うっすらと目を開けた
「ごめんなさい、大丈夫です……」
モモカの力を借りず体を起こすと、手元に落ちたクレープに気づいた
「ごめんなさい……クレープ落としてしまって……」
「そんなのいいよ!それより、急に倒れて……」
しょんぼりと話すミクにリコがそう話し返していると、ミクが目を擦り、ウトウトしはじめた
「眠い……です」
モモカに支えられ眠りはじめたミク。リコがおんぶをして本部に戻ろうとした時、ミクがまた目を覚ました
「あの……」
「何?どこか痛い?」
「いえ……。あの……お母様と会ったんです。うたと本が……」
と言うと、寝息をたてて眠りはじめたミク。話を聞いたリコとモモカが不思議そうに目を合わせていると、隠れていた女性隊員が、ミクの確認のため駆け寄ってきた。尾行されていたことに、気づいてなかったのか戸惑うリコ。一方、クルミは、険しい表情でミクが話した内容に、考え込んでいた
「とにかく、急いで本部に戻って、ミクから話の続きを聞かないと……」