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未完成な本と唄の続き

 人里から少し離れた森の中、周りとは少し雰囲気の違うお城が建っていた。しばらく雨の日が続いていたが、今日は天気の良い日。その嬉しさからか、お城の中では明るい声が響いていた


「お母様!やっと見つけました!」

 少し重たい部屋の扉を開けると、ベットに座っていた女性に声をかける女の子。バタンと勢いよく扉を閉めると、長い髪をなびかせて、女性のもとへ駆け寄っていく

「あら。もう見つかったのね」

 声に気づいて振り返り微笑む女性。走ってきた女の子に抱きしめられて、勢い余って二人一緒にベットに倒れこむ

「絵本を読んでいたのですか?私も一緒に読みたい」

 倒れた勢いで足元に落ちた古い本に気づいて、女の子が拾おうとする。だが、一足先にお母様という女性が、本を取り洋服棚の上に置いて片付けてしまった

「ダメよ。これはあなたは読んじゃいけないの」

「えー?どうしてですか?」

 女性がベットに戻ると、不機嫌そうな女の子の頭を優しく撫でて微笑む

「そうねぇ……。もうちょっと背が伸びたら、教えてあげるね」

「お母様の意地悪!」

 返事を聞いて不機嫌になった女の子に、優しく抱きしめた女性。優しく暖かい温もりに、家中を探し回っていた疲れが急にきて、ウトウトと女の子が眠りはじめた



「……あれ?お母様?」

 しばらくすると目が覚めて、少し寝ぼけつつ辺りを見回すと、いつの間にか出ていったのか、部屋には一人っきり。電気はついておらず部屋も真っ暗。夜になっているのか、窓から見える外も暗い。慌ててベットから降りて、少し重たい部屋の扉を開けた

「誰もいないの?」

 電気はついているが、人気のない家の廊下に、独り言が響く。恐る恐る部屋を出て、明るい廊下をウロウロと歩いていく。誰ともすれ違わないまましばらく進むと、少し扉が開いて光が漏れていた部屋の中を、そーっと覗き見ると、突然部屋の中へと走りだした


「お父様!お母様は?」

 姿を見るなり大声で叫び、駆け寄っていく。部屋の中には、声に気づいて驚いた顔をしている初老の男性と若い男の人が二人がいた

「さっき、少しご用があってお出掛けしたよ」

 若い男性に抱きついた女の子に、返事をする男性。その返事を聞いて、女の子が顔を少しあげ不満そうな顔をしている

「えー?私も一緒に、おでかけしたかったな……」

 不満を言い続ける女の子に、困った顔をする男性。二人の様子を見ないように、初老の男性は、窓際に移動して外を見ている

「ほら、もう少しお休み。起きたらきっと、帰ってきているさ」

 と言うと、部屋の片隅にいた女性のお手伝いさん二人を呼ぶ。お手伝いさん達に諭されて、男性から離れると、手を繋いで一緒に、部屋の入り口へと歩いていく

「……おやすみ、お父様」

 寂しそうな顔で手をふり、扉を閉めた。急に静かになった部屋で、はぁ。と一つため息が響いた

「本当に良いのですか?何も伝えなくて……」

 何も言わず、様子を見ていた初老の男性が問いかける。側に来た男性は、少し困ったように笑い答える

「仕方ないよ。そう願っていたから……」



「ねぇ、お母様どこ行ったか知ってる?」

 部屋へと戻る途中、お手伝いさん達に問いかける女の子。聞いてきた質問に、お手伝い達は、顔を見合い少し悩んでいる

「い、いえ……。私どもは存じておりませんが……」

「そうなんだ……。またお唄、歌ってほしかったのに……」

 しょんぼりしていると女の子の部屋についたのか、部屋の扉を開けると、電気もつけず一目散にベットに潜り込み、少しだけ顔と手を出して、部屋の入り口にいたお手伝いさん達に手を振る

「おやすみなさいませ」

 と、お手伝いさん達が頭を下げ部屋の扉を閉めると、真っ暗になった部屋。すぐに眠くなってまたスヤスヤと寝息をたてて眠りはじめた



「あれ?まだ夜?」

 再び目が覚めると、まだ部屋は真っ暗。そっとベットから降りて、カーテンを開けると外もまだ暗い

「お母様……お父様……」

 そーっと部屋の扉を開けると、眠る前と同じ電気がついた静かな廊下。誰かいないかと恐る恐る一人歩いていく

「また誰もいないの?」

 いつもは必ず誰かいるはずの家。綺麗に片付けられたリビングやキッチン、寝室などを見て回わり、大声で叫んでも誰の返事も聞こえないまま家の中を見て回った。まだ外は暗いが、誰かいないかと庭にも出ていく



「あっ!お母様!」

 庭にあった外灯に、薄暗く見えた人影に声をかけ走っていく。声に気づいた人影も、振り返り微笑んでいる

「おはよう、起きたのね」

 声のする方に走り抱きつく女の子。また勢いよく抱きついて、女性が胸元に抱え持っていた何に顔をぶつけた

「……お母様、また本を持ってるの?」

 おでこを触り、少しよろけて痛そうな顔で話す女の子に、女性がクスッと笑い、持っている本を見つめる

「そう、あなたに渡そうと思って……。少しだけ思っていたより早くなっちゃったけど」

「えっ?私にですか?」

「そうよ……」

 と言うと、暗かった庭が急に明るくなった。ビックリして女の子が辺りをキョロキョロと見回すと、二人をポツポツと小さい光が灯している。風も吹き荒れ、枯れ葉が二人の周りを舞う。目をつぶり強い風に耐えていると、さっきまで目の前にいたはずの女性の姿が消えていた


「あれ?……お母様?」

 辺りを見渡して探してみると、足元には女性が抱えていた本が残っていた。慌てて本を拾うと、なぜか明るかった庭も暗くなり、人がいる気配もなく、強かった風も収まっていた。誰かいないかと、また探しに行こうと振り向いた時、聞き覚えのある歌声が聞こえてきた


「お母様の唄が聞こえる……」

 どこからか聞こえる歌声。聞こえる方へと暗闇の中、ゆっくりと歩きはじめた時、急に歌声が消えた。聞こえていた歌を、思い出しながら歩いていると、急に立ち止まり、首をかしげた

「……あれ?お母様のこの唄の続きって……なんだっけ……」

 と呟いた時、突然目眩がおきて倒れた女の子。顔の側に落ちた本が見えて、取ろうとゆっくり手を伸ばす

「お母様の本……」

 あと少しで本に触れようとした時、力尽きて動かなくなった女の子。しばらくすると、足音をたてず、近寄ってきた女性。動かないままの女の子を見つめながら、ポツリと呟いた

「やっぱり少し早かったかしら……でも、あなたならきっと大丈夫よ」

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