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エルフの旦那の反省と魔術師の嫁の後悔  作者: さつき けい


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5・夫婦のすれ違い


 タミリアが、ギードに遠征の話をすることが出来なかったのは、ヨメイアの誘いが急だっただけではなかった。


「ギドちゃん、子供たちがいなくなってからますます過保護になっちゃって」


最初は守られるだけの存在だった気弱なエルフ。


今では防御結界を得意とする国の実力者として名を馳せ、王太子に恩を売り、神の一柱をその身に降臨させる。


本人は滅多に他者を攻撃することはないが、主を守る眷属は黙っていても動く。


タミリアは、ギードにはもう自分という護衛は必要ないと思った。




「それに、いい年齢としのくせにって言われても、私はまだまだ強くなりたいもの」


タミリアはまるで子供のようにぷんすかとお怒りである。


「は?、ちょっと待ってください。


誰がそんなことを言ったんです?」


スレヴィが聞き捨てならない言葉に眉をしかめた。


 タミリアは同年代に比べて鍛え方が違う。

 

確かに子供は成人し、タミリアはすでに四十の声を聞いていた。


しかし鍛錬を怠らない引き締まった筋肉、ギードによって管理された健康的な生活で肌や髪は生まれ持った美貌を保っている。


「さあ、誰だったかしら……。


でもたぶん王都でだったと思うから、少なくとも半年前ね」


もしかしたら、それはギードも聞いていたかも知れない。


いや、タミリアがその言葉に不快感を覚えたことは間違いなく察しているはずだ。


「もしかしたら、それが原因かも」


シャルネはじっと考え込む。




「半年前って、ギドちゃんが眠るようになったのはその後じゃない?」


タミリアはシャルネに「そうかも」と答えながら、それが何に繋がるのか分からない。


「タミちゃんの年齢に関して誰かに言われたとしたら。


いつまでも若い容姿のギドちゃんは『お似合い』の夫婦になろうとするかも知れないと思ったの」


そのために魔力など惜しむギードではない。


 スレヴィがハッと顔を上げた。


「ケット・シーの幻惑魔法……。


確か、ギード様の眷属に元ケット・シーの長老がいらっしゃいましたね」


スレヴィの言葉にタミリアは頷いたが、シャルネは首を横に振る。


「幻惑魔法はケット・シーの種族魔法のはずだわ。


それをハイエルフとはいえ、ギドちゃんに発動出来るかしら」


「あー、ギドちゃんになら出来るわよ」


タミリアがサラッと答え、シャルネは驚く。


「ギドちゃんは眷属たちから魔法を教わってるもの」


主があまりにも弱いため、眷属たちが自分の得意とする魔法を教え始めた。


お陰で、ギードはエルフの精霊魔法と自身の土属性魔法以外の属性魔法も習得している。


「習得は魔力さえあれば出来るでしょうが、発動には大量の魔力が必要になりますよ」


呆れたようにスレヴィがため息を吐く。




 この世界では、誰でも魔法を覚える事が出来る。


ただ、それを発動するための魔力は、その魔法との相性や種族で使用量が異なるのだ。


どんなに強力な魔法を教わっても、それに見合う魔力がなければ使うことは出来ないし、種族固有の魔法は他の種族では何倍もの魔力が必要とされる。


「……ギード様なら、出来ますね」


眷属との魔力共有が可能であるギードは、最上位精霊を含む六眷属分、およそ無限に近い魔力量が使用可能だ。


「それじゃ、ギドちゃんはタミちゃんと『お似合い』と言われるために幻惑魔法を覚えたの?」


そして毎日、気力を消耗してまで使って、それを回復するために寝ていると。


魔力は無限でも、魔法を使う集中力は気力を消耗するのである。


 シャルネは心底呆れた。


何故なら、おそらくその幻惑魔法はタミリアには効果が無いからだ。


タミリアは夫の変化は「眠るようになった」ことくらいしか気付いていない。


「男って、本当にバカね」


それでもギードは満足していたに違いない。




 だけど、今、夫婦にとっては致命的な危機となっている。


スレヴィはタミリアの話からだいたいのところは理解した。


その上でギードの現状を話さなければならない。


「タミリア様。ギード様は今、引きこもっておられます」


タミリアが予告もなく自分から離れた日から、ギードは徐々に気力を失っていった。


「どういうこと?」


タミリアは、シャルネとスレヴィを疑いの目で見る。


「ご自分からは誰とも会わず、話さず、お部屋から出ることもなくなったそうです」


昨日はとうとう寝床から起きることもしなくなったという報告を聞いた。


そんなスレヴィの言葉に、タミリアは苦笑いを浮かべた。


「そんなはずないわ」と。


「ギドちゃんが危ないなら、誰かが伝えてくれるもの」


スレヴィは「失礼ながら」と申し訳なさそうにタミリアを見る。


「夫婦間の連絡用の指輪をご使用なさっていないようですが」


「あー」


どちらかが死ぬまで外れない指輪だが、タミリアは魔法で外部からの魔力を遮断している。


ギードから何度か連絡が来たようだが、タミリアは受信拒否していた形だ。




 でも、ギードが拗ねたくらいで何か不都合が起こるだろうか。


「え?」


シャルネとスレヴィが顔を見合わせる。


そしてタミリアに揃って厳しい顔を見せた。


「ギードさんのこと、心配じゃないの?」


「あのままでは、いずれ病気になってしまいます」


二人の言葉にタミリアは首を傾げるばかりだ。


「ギドちゃんはそんなにヤワな性格してないわよ」


仕事もあり、子供たちとも連絡は取れる。


自分ひとりいないくらいでギードの生活が変わるとは思えない。


タミリアは二人に笑顔で話す。


 その全く心配していない様子に、スレヴィはこれ以上は無駄だと感じた。


「そろそろ戻りませんと」


そう言って、使用した茶器を片付け始める。


シャルネはここでの話を他の者たちに話しても大丈夫かを確認し、立ち上がった。


「タミちゃん。


余計なお世話かも知れないけど、たまにはギードさんに連絡してあげて」


他人に対しては腹黒いと言われるギードでも、家族には優しい。


「そうね」


頷くタミリアを心配気に振り返りながら、二人はシャルネの領主館へと移転して行った。




 タミリアはギードに連絡を取ろうと指輪の魔力遮断を解除した。


だが、何故か素直に使う気になれない。


そうこうしているうちに、数日が経過する。


 ある夜、タミリアは自分の部屋でパチリと目を覚ました。


「はあ、最近夜中に目を覚ますのよねえ」


以前は一度寝ると朝まで起きることなど無かった。


ギードにも「何があっても起きないよね」と笑われたほどだ。


タミリアは、年齢を感じるようになって気落ちすることが多くなったなと思う。


 先日のシャルネの話を思い出す。


「ギドちゃんは変わらないものね」


国王と同じように、羨ましいという気持ちがないわけではない。


嫌味というわけではなく、一般論として、人族の女性からすればエルフの美しさは憧れだ。




 ゴロゴロと寝床の中で寝返りを繰り返す。


小さな窓から入る月明かり。


樹海の森からは遠く魔獣の動く音や吠えるような声が時たま聞こえた。


部屋の中は暗闇が濃く、気になり始めると何かがそこに居るような気がしてますます眠れなくなる。


タミリアは怨霊や形が不定形なものが苦手だった。


 しかし、ふと暗闇の中に懐かしい気配を感じた。


「ギドちゃん??」


ギードは闇属性のハイエルフである。


影から影へ、闇の中に潜り移動することが出来る。


「ねえ、ギドちゃんなの?、そこにいるのは」


一か月ほど連絡を拒否していたとはいえ、家族のことを忘れたことなどない。


夫に対しても嫌いだとか、飽きたという感情はない。


ただ強くなるために、一時的に考えないようにしていただけだった。


タミリアは、いつものように包み込む優しい森の気配に、いつの間にか目を閉じていた。



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