第3話 あの子のために
次の日、教室で流星が話しかけてきた。
「将人、職業どうだった?」
「俺は修行士っていうやつだった」
「修行士?聞いたことねえなぁ」
「ああ、俺もよくわからん。そういうお前は?」
「俺は槍使いだったよ。ダンジョン攻略用の職業みたいなもんだな笑」
職業について話していると、担任が教室に入ってくる。
「みんな自分の職業は確認したな?今日からさっそく戦闘科とサポート科に別れて授業を受けてもらう。」
俺の職業はよく分からなかったが、担任に戦闘科に行かされた。。戦闘科を選んだのは20人。
クラスが30人だから、比率は2:1といったところだろうか。どうにもぴったりすぎる。おそらく何らかの方法で生徒の職業を知っており、それを元にクラスを決めたのだろう。
1時間目は座学。学科関係なくクラスみんなで受けた。内容はダンジョン内の過ごし方や、そこにいるモンスターの生態などだ。
2時間目からは学科ごとに別れ、実技だ。まず武器で戦う者と魔法で戦う者に別れた。俺はどっちも適正はないが、魔法は使えないので武器を扱う方に行った。
それぞれの武器ごとに講師がいて、俺はとりあえず剣を選択した。
訓練が始まったが、適正がある者はすぐに使えるようになっているのに対し、俺は全く使えるようにならなかった。
…あの子に強くなるって言ったのに、これじゃだれも守れやしないな…
そんな俺の近くで、1人圧倒的な強さを見せていたのがあの噂の少女ーー上条冬香だ。
その実力は教師にも引けを取らないほどで、 他の生徒とは明らかに動きが違う。
その日の放課後、俺は少し落ち込みながら流星と帰路についていた。
「将人、どうしたんだ?珍しく落ち込んでるじゃないか」
「俺の職業で何が出来るのかが分からなくてな…」
「おいおい、まだ始まったばっかりだぞ?そんなんで落ち込んでちゃお前らしくないな」
「まさかお前に励まされる日が来るとはな…屈辱的だ」
「酷くない!?お前の中の俺は一体どんな存在なんだよ…」
「はは、すまん冗談だ。でもありがとな。もっと頑張ってみるよ」
「おう!」
流星と別れて家に帰った俺は、ナビに話しかけてみる。
『なあ、強くなるにはどうすればいい?』
『あなたには【ダンジョン生成】の能力があります。それを活用してみたらどうでしょうか』
ダンジョン生成か…そういや昨日は結局試さなかったな
「ダンジョン生成」
《特殊能力【ダンジョン生成】の発動を確認しました。プライベートダンジョンに繋がるゲートを開きます。》
そう声が聞こえると、俺の前に人が1人入れるくらいの扉が現れた。
扉を開けると、そこは周りが石の壁で囲まれた部屋だった。部屋の中には武器がいくつか置いてある。
『ナビ、ここはなんだ?』
『ここはプライベートダンジョンの入口です。
この部屋は安全地帯となっており、魔物は入ってきません。このダンジョンは現実世界とは別の次元にあるので、疲労は蓄積しますが、食事、排泄は必要ありません。また、ダンジョン内にいる時はいつでもこの場所に転移することが出来ます。この部屋にいると、ケガなどは徐々に回復します。』
『めちゃめちゃ便利だな。しかし俺は武器を使えないんだ。どうやって強くなればいいんだ?』
『あなたの職業は【修行士】です。修行をすれば武器を使うことも、魔法を使うことも出来るようになります。』
『修行ってのは具体的には何をすればいい?』
『能力には取得条件があります。それをクリアすれば能力を取得できるようになります。』
『そうか、ならまずは【剣術】を手に入れたい。
どうすればいい?』
『かしこまりました。』
そういうと、俺の前に半透明の板のようなものが現れた。
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《能力》【剣術】
取得条件:素振り[0回/5000000回]
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「は?」
500万回だと?多すぎやしないか?
『あなたは修行士です。他の人よりも多くの能力を取得できる代わりに、一つ一つの入手は困難になります。』
「やるしかないか…」
俺はここで剣をひたすら振り続けた。
…数時間後
「はぁ、はぁ、ずいぶんやったが、そろそろか?」
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《能力》【剣術】
取得条件:素振り[13405回/5000000回]
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嘘だろ…?まだ1万回程度だと?
「おいおい、これはきつすぎないか?」
いつクリア出来るかも分からない課題に、俺は諦めかけた。
だがそんな時、また昔のことを思い出した。
…そうだ。俺は強くならなきゃいけない。あの子にそう約束したんだ!
俺はまた立ち上がり、剣を振り続けた。
……もう何日たったのか分からない。俺は剣を振り、寝て、起きて剣を振る、そんな生活を続けた。
こんな無茶が出来るのは【忍耐】を持っているおかげだろう。途中から腕に変な痛みを覚え、何度か腕が上がらなくなることもあったが、おそらくこの部屋にいる効果だろう、すぐにケガは完治していく。
ひたすら、ただひたすらに剣を振り続ける。だんだんとコツを覚え、剣を振るスピードは速くなっていった。
何日、何ヶ月、どれだけ振り続けたのだろうか。
ついに、《取得条件を満たしました。【剣術】を取得します。》
その声が聞こえた直後、俺は今までの精神的疲労がどっと来たのだろうか。意識を失った。