手加減してくれないと・・・
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いつものように、ルーティーンに従い会社へ行く。
予定を確認すると今日は一人らしい。客先を確認し必要な部材を揃え車に乗った。
2件目が終わり時計を見ると14時を回っていた。
「何か腹に入れるか・・・」
コンビニの駐車場が満車だったのでコインパーキングに車を入れアンパンとコーヒーを買って近くの公園のベンチで食べた。
公園には沢山の母子がいた。みんな幸せそうに遊んでいる。俺の夢見た世界だ。
だが未来を託せる子供はもういない。俺が見ることが出来ない未来の世界を見てくれる子供はもういなんだ。こんな世界・・・・
食事が終わりコンビニのゴミ箱にゴミを捨てている時、エンジンが唸りを上げていた。ふと見ると高齢の方だった。
あ~あ、これコンビニへ突っ込むやつや・・・俺には関係ないし、どうでもいいか。
その場を立ち去ろうとした時、子供を抱っこ紐で抱えイヤホンで音楽を聴きながら母親が車の前にさしかかる。
お前もお前の家族も大事なものを失ってから気付けばいいさ・・・
本当にどうでもよかった・・・
だが体が動いてしまった。
「あぶない!」
叫んだが聞こえていない。正面から母親を突き飛ばすのと同時に俺は車の下敷きになった。
初めは痛かったが徐々に痛みを感じなくなり意識が朦朧としてくる。
何で助けたんだろう・・・・赤ちゃんが居たから?・・・赤ちゃんに罪はないもんなぁ・・・
でも、これでやっと雛ちゃんのところへ行けるよ・・・・迎えに行けなかった俺を許してくれるだろうか・・・・
ここはレッドさんが避難用に用意した秘密基地だった。今はマーベア含め救出した村人とここで生活をしていた。
「あれから1ヶ月経ちましたが、レッドさんの消息は分かっていません」
「そうですか。クラリスさんも少し休んで下さい」
「ですが、モッチョさん・・・・」
「大丈夫ですよ。レッドさんが生きている証拠がここに・・・」
小さなベッドに妖精が横たわっている。
「もしも、レッドさんが死んだのであればティアさんも妖精界へ戻っている事でしょう」
「でも、あの日からティアさんは眠りについたままです」
「ですね。でもここにティアさんは居ます。私はレッドさんが戻ってくると信じていますよ。あとはフェミリアさんに任せて休みなさい」
「分かりました」
部屋から出るとミリアが待っていた。
「みんなの様子はどう?」
「任されたウッドと、月花は両親がいるから外に出てくるけど、他は駄目ね。あの日から部屋から出てこないわ」
「そう・・・・」
あの日、レッドさんの技はレッドさんを中心に半径1kmを焦土と化した。負のオーラが混じったことで、威力が倍増し村は消滅、魔物が住み着く場所になってしまった。
今後その場所での村の再建は不可能だろう。
だが幸いなことに、こちら側に犠牲者は1人もいなかった。いや正確には1人か・・・
ミリア、マーベアと跡地を捜索したが手掛かりは何一つなかった。
「私がもっと早くケイの企みに気が付いていれば・・・・」
「あなたはよくやったわよ。自分を責めない事ね。私は彼の為に何もできなかったのよ。あなたが羨ましいわ」
「シドニー、ブリタ、オリガ隊から何か報告は?」
「無いわ。ここの警備は私達に任せて、あなたは少し休みなさい」
ミリアの言葉に甘えることにした。
部屋に戻り調査資料に目を通す。
ケイはレッドさんを討ったことによりオクタガーディアンの幹部に昇格、王都に宮殿を与えられ生活しているが、レッドさんの最後の技を見て恐怖が植え付けられたのか宮殿から一歩も外に出てこないようだ。密偵の報告では毎日喚き散らし精神が病んでいっているようだと。
「いい気味ね・・・、いつか私が裁きを下すわ。裏切りには相応の対価を・・・」
レッドさんの技により消滅した村を調べるも、レッドさんの遺留品は何一つ見つからなかった。装備の欠片すら見つからなかった。
多分だけど、レッドさんの装備には実験段階のOB機能改良版が載せられていたのでしょう。それをテストせずぶっつけ本番で完全開放した結果だと思われるわ。
――他に何か手掛かりはないの?私が気付いていないだけかもしれないわ。もう一度レッドさんの足跡を辿りましょう。私は諦めないわ。
(シドニー、ブリタ、オリガ聞こえる?)
(((はい、フェミリア様)))
(悪いんだけど、もう一度情報を集めてくれるかしら)
(((承知しました)))
(私はレッドさんがあれくらいで死ぬとは思えないのよね)
(((我ら全員そう思っています)))
(そうよね。もう一度最初から洗うわよ)
(((りょ)))
「マーベア、あなたに聞きたいことがあるの。今良いかしら?」
「あぁいいぜ。聞きたい事ってルルさんの事だろ?」
「あら、分かっているのなら早いわ。ルルさんについて知っていることをすべて教えて」
「分かったよ。ルルさんに確認取れなかったから、すべて俺の推論だぞ?」
頷き促した
「俺がルルさんを初めて見た時、お前たちが茶化してきたこと覚えてるよな?」
頷く
「あの時俺は運命を感じたんだよ。オイオイ、変な目で見るな、続きを聞け。運命ってのは彼女が親父の妹にそっくりだったんだよ。お前も名前位は知っているはずだぜ?」
「その時たしかルナマリアって、あのルナ姉の事だったの!?」
「そうだ。俺達と一緒に城から脱出したんだが、途中追手が迫ってきて二手に分かれたんだ。その後の消息は分からず終いさ。その時彼女は子供を抱えていたんだ・・」
「まさか、その子供がルルだっていうの?」
「だから言ったろ。俺の推論だって。子供の名前はルーテシアって言うんだ」
「あなたの従妹になるのね。父親は誰なの?」
「魔科学研究所所長シャギア・ニースだよ。今はバンドー国王やってるがな。親父を罠にはめて殺し、邪魔者の俺を殺せばめでたく・・・いや既にバンドー国王だったなワハハッ」
「笑い事じゃないでしょあんた・・・。あとひとつ教えて。ビャクエンはルーテシアを知っているの?」
「知っているも何も、ビャクエンはルナマリア叔母さんの護衛兼執事だったからな」
「そう、ありがとう。大体分かってきたわ」
「俺にも教えてくれよ」
「筋肉馬鹿は筋肉鍛えていなさい。気が散るから話しかけないでね!」
みんなの情報と合わせると・・・・シャギアはルナ姉と結婚したおかげで王族の仲間入りした。そして前国王を殺し、村をエサに逃げ出したマーベアをおびき出して殺そうとしたが、死んだと思われていたルーテシアがいた。シャギアは王の地盤を固める為、正当な王家の血が必要だったと・・・ルーテシアを王女にし、すべての罪をマーベアに擦り付けて終了ね。
なぜビャクエンはシャギアについているかしら・・・これは本人に聞くしかないわね。
あと、ルルさんが今どこで何を考え、今後どのように動くのか見極めなければね。
場合によっては私がルルさんを殺すしかないわ・・・いえ、これもシャギアの罠かもしれないわ。疑心暗鬼にさせ内部崩壊を狙っている?どちらにせよレッドさんがいなければ何もできない自分が情けないわ・・・ほんとうに・・・・
「お願い・・・・早く・・・早く帰って来てよぉ・・・」
涙があふれてくる。
私を泣かせるなんて・・・ゆるさないから・・・
「お・・・おい・・ミリア・・・。すまねえな、俺が不甲斐なくてよ・・」
「あんたのせいじゃないわよ!気晴らしに稽古に付き合いなさいよ」
「おう、いいぜ!その方がお前らしくていいぞ」
「はぁ?これが私らしい・・・・いいわ、少し本気でやってあげる」
「え、あ、いや・・・ほどほどでお願いします」
「図体デカいわりに、ちっさい事ばかり言ってないで行くわよ」
「いやね、ほんとに手加減してくれないと、ほら死んじゃうかもしれないでしょ?」
「うっさい!ほら行くわよ」
その後、秘密基地地下訓練場で凄惨な稽古が行われた。内容は言うまでもなかった・・・
「ふぅ、スッキリ!この辺にしておくわ。後片づけお願いね」
ミリアが訓練場を出た後には、ボロ雑巾のようなマーベアが横たわっていた。
「あぁ、俺・・・・生きてて・・良かった・・・」
のんびり書いていきます




