思いの結晶
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翌日いつもの様に夢から覚め、支度をして仕事へ向かう。
「今日も先輩とですね。ラッキー」
「そうだな」
この日は色々とトラブルがあり客先からのクレーム処理に奔走し、精神的にも疲れた。
「今日はアンラッキーでしたね。あのクレーマーにあたるなんて・・・」
「世の中、いろんな人がいるからしょうがないさ」
「そうですね、俺帰ります。先輩も週末だからって遊ばないで、ゆっくり休んでくださいよ」
「あぁ、お前もな」
休みが嫌いだった・・・・余計なことを考えてしまうから。
家に帰り、俺はいつの間にか子供が生まれてから触っていなかったPCの電源を入れていた。無意識だった。なぜ電源を入れたのだろう・・・
「は、はは、まだ壊れていなかったよ。さすが自作ってかぁ」
こいつも捨てなきゃな。俺にはもう必要がない。
「その前にクランのメンバーに最後の挨拶しておくか」
俺がリアルの友人を集めて作ったクラン、hope(希望)
初期メンバー10名で最盛期には200人を超えていた。レイド組とPVP組のトッププレイヤーが集まっていた。しかし20年もすれば生活が変わる。結婚して引退するもの、40代で始めた人は60代になり攻略組について行くのが辛くなり引退していき人は減っていった。俺がインしなくなり約5年どれだけの人が残っているのだろうか・・・
「こんばんは!お久しぶりです」
キーボードで打ち込みクランリストを開く。オンラインは8名だった。ほとんどが知らない人達だった。
「あれ、もしかしてレッドさん?久しぶりです」
KanaBonさんだった。BigJunさんのリアル嫁だ。
「カナちゃん久しぶり。今日は引退のあいさつをしようと思って」
「そうなの?もったいないよぉ。久しぶりなんだから少しやってみれば?私が案内してあげるよ」
リアルも知っている人なので、無下に断れなかった。
「そうですか、なら少しだけお手伝いお願いできますか?」
「もちろんよ。攻略組トッププレイヤーだったレッドさんを案内できるって光栄よ。ちょっと待ってて旦那呼ぶから」
「いや、そこまでしてもらわなくても」
打ち込んだが反応が無い。別室でテレビでも見ている旦那を呼びに行ったのだろう。
ログにログインBigJunが流れる。
「おぉ、久しぶり。どれくらい・・・4年?ぶりかな」
「5年ですね。クランほったらかしですいませんでした」
「良いよ、気にしないでくれ。あんな事があったし誰も責めないよ」
クランの初期メンバーには子供のことをメールで伝えてあった。
「それに、私たちは歳を取ってしまってゲームについていくことが出来なくなりつつある、世代交代だよ。レッドさんが居たときは早期攻略していたけど、お子さんが出来てinしなくなってからは、私も後発のトレース組さw」
「BigJunさんならまだまだいけますよ!僕といつもどっちが真のタンクか争っていたじゃないですかw」
「思い出すね。今は妻と何かやるときにしかタンクは出荷していないよ。今は大抵DPSだねw」
「そうなんですか・・・なんかさみしいですね(´;ω;`)ウゥゥ」
「そうか?意外とDPSも良いぞw通常のダンジョンなら気楽に行けるよw」
「まぁそうですけどwそれと随分人が減りましたね・・・」
「そうだね、20年以上も続くと、新作も沢山リリースされ、そちらに人が流れて今は人も減ったよ。昔は他のクランよりも早く強くを念頭に活動していたから設備も人も巨大になりすぎたよ。心無いものは過去の遺物と言うだろうが私たちには大切な思い出が詰まっている、ここにある物すべてにね、そうだよね?」
「そうですね、この調度品作るための素材集めで学校休んで24時間張り付いたことも、・・・そういえば会社辞めた人もいましたねw」
「そうだったねw私たちの思いの結晶だよ、ここは。だから人が減ってもなかなか引退できなくて続けてしまっているのだけどねwこうなったら最後の一人になるまでやってやろうかとwwww」
「応援しますよ!ww」
そう、だからインしなかったのだ。インすれば思い出が蘇ってくる。みんなと冒険した記憶が・・・
「あなた!話してばかりじゃ進まないじゃない。今日中に月にまで連れて行ってあげましょうよ」
「月ってあの月ですか?」
「そうよw拡張で行けるようになったのよ。息できないとか言わないようにねwww」
「あれですね、古代の超文明のあれで何とかって運営の奥の手ですねw」
「そそwwwwwwwwwいつもの手よ」
「大草原過ぎですよカナちゃんwwwww」
久しぶりに本心で笑った気がした。あぁやっぱりここは良いなぁ。気の合う仲間と好きなことが出来る。
「あなたもねwメモ出来る?必要なお使いクエ教えるから、それを終わらせてからPT組みましょう」
「ちょっと、待ってください」
メモの準備をする。
「はい、お願いします」
カナちゃんから20個もクエをメモらされた。多いな・・・
「カナ、今日中は無理じゃないか?5年分のストーリークエはさすがに終わらないだろ。それにスキルが統廃合されて、新しいスキルも習得しなければいけないし。」
「へぇ、結構変更されたんです?」
「そうなんだよ。2人以上での合体技とかヒーロー戦隊っぽくなってきたんだよ。笑えるだろw?スキルリスト見れば見慣れないものというか、知っているスキルの方が少ないと思うよ」
スキルリストを見るとその通りだった。
「うっわwまず覚えることから始めないと・・・もうファンタジーじゃなくなってますねw」
「だろwww他にも変更された部分がいっぱいあるから確認しておくと良いよ」
「それもそうね。なら日曜までにしましょうか?」
「そうしてくれると、自分としても助かります」
「じゃぁ、明日も休みでしょ?19時集合でいいかしら?」
「はい、それまでにダンジョン攻略前まで終わらせておきますね」
「じゃ、あたしたちは落ちるね。また、明日(‘ω’)ノ」
「はーいノシ」
クエ内容を確認すると安定のギルド長達からのお使いクエだった。最終的に20クエどころではなく派生するクエを含めても200は越えていた。
クエ内容はとにかく読まないでやっつけ仕事でこなしていった。
「ふぅ、大分片付いたな」
外が明るいので時計を見ると昼の12時だった。
キッチンから音がする。兄貴が起きたみたいだな。俺も何か食べよう。
「兄貴、おはよう」
「おう、おはよう。珍しいなお前から話しかけてくるなんて」
「そうかな、なんでだろうね」
カップ麺を食べて部屋に戻り3時間ほど眠ることにした。布団に入ると寝すぎてしまうので机に突っ伏して寝た。
「・・・・レ・・・・・
・・・・レッ・・・・・」
何か聞こえる・・・・
「・・・・・レッ・・・
・・・・・レッド!」
急に鮮明に聞こえ飛び起きた。
のんびり書いていきます。




