出発の日
45
王都へ到着するなりモッチョ氏に呼び出された。待ち合わせ場所のラウンジへ向かう。
「おまたせ。何かあった?」
「レッド様、例の件ですが難航しております」
何のことだ?
「例の件って何だっけ?」
「8英雄の事です。約8000年前に建国したのは分かっているのですが、どこから来たのか、何を成したのか一切不明なのです」
この外郭大陸が出来たのが8000年前だとぉ・・・
リアル1日がこの世界の4日だから・・・最低でもリアル2000年経ってるのか・・・
「初代国王の名前とかも分からないの?」
「えぇ・・調べさせていた部下に何やら尾行が付きましたので、こちらとの繋がりが知られると問題かと思いまして、しばらく距離を置くように指示しました」
「大事になったな・・・名前すら公表しないのはおかしいよな?」
「ですね。英雄と謳われるのなら名前が出てもおかしくないのですが・・・、一つ収穫があったとすればバンドーを建国した英雄の通り名だけは分かりました」
「教えて」
「隻腕の大剣使い、だそうです」
「!、モッチョ氏、ありがとう。これで確信に変わったよ」
「何がです?」
「中央に大陸は必ずある、という事さ」
そう、隻腕の大剣使いは俺がプレイヤーだったとき、中央大陸にあったギルドのギルドマスターの別名だ。名はマッシュだったはずだ。初心者だったときに、こいつから散々お使いやらされて、事あるごとに「ここは、俺に任せて先に行け」とか言ってクソ雑魚と戦いながら偉そうにしていたやつだった。多分悪い奴ではないけど、お使いクエ出すおじさんのイメージが強い。それが国王ねぇ・・・なんにせよ理由があるのだろう。
「左様ですか」
「となると、装備品の流通も考えないとまずいかもしれないな」
「なぜです?」
「流通の少ないものは目立つし、今まで作られた事の無い商品が・・つまり新しい技術で作られたものは目立つだろ?」
厳密には古い技術なんだけどね。
「そうでした・・私としたことが迂闊でした」
「レジェンドまでなら何とか大丈夫・・だと思うがレアまでにしておいた方が良いな」
「かしこまりました」
「高みを目指すと敵が増えるってホントだな?こっちは普通にやってるだけなんだけどな」
「ですな、世界が変われば、人も変わりお金の流れも変わる。敵が増えますね」
「困るよな?」
「困りますね」
2人で笑った。
「で、今後英雄の件で動くことは控えてくれ」
「分かりました。では銀行と服飾で稼いでおきますよ」
「それ順調?」
「えぇ、もちろんですとも」
「あと、ガイア王国首都までの予定は?」
「ダンジョン含め、日程は組んであります。あとは出発日ですかね」
さすがモッチョ氏!
「出発日もモッチョ氏に任せるよ。いつにする?」
「2日後では如何でしょうか?」
「それでいこう。いつも悪いね」
「いえいえ、楽しんでやっていますので」
2日後、港にシリカたちが見送りに来ていた。
「おじちゃんも行っちゃうの?」
カイがギブソンさんに駄々をこねているようだ。
「そうですよ、仕事ですからね」
「嫌だよ、一緒にいてよぉ、行かないでよぉ」
泣きまくりである。
「やれやれ、困りましたね」
「カイ、ギブソンさんを困らせないで」
シリカさんにも手に負えないようだ。
「では、カイ君おじさんと約束しませんか?」
「グズッ・・どんな?」
「カイ君が次に会う時までに、きちんと学校に行って勉強をしていれば」
「していれば?」
「そう、そうしたらおじさんの弟子にしてあげるよ」
「ホントに?」
「あぁ、ほんとだよ」
「分かった、勉強頑張る。だから絶対だよ!嘘ついたら許さないからね。だから、絶対に帰ってきてよぉ・・・」号泣
ギブソンさんがカイを抱きしめながら
「心配しないで下さい。絶対に戻ってきますから」
船が出港する。
「ギブソンさん、カイに好かれてますね」
「ですね。私は独身なのですが、子供がいたらあんな感じでしょうかね」
「だと思いますよ」
「だとしたら、結婚も良いかもしれませんね」
「なぜ、独身で?」
「いつ死ぬかもしれない冒険者ですからね。残される人を考えたら、私には勇気が出ませんでした」
まぁ、そういう考えもありますよね。
「でも、残される人の為にも死ねないって力が出る時もあるかもしれませんよ?」
「そうですね。それを今日感じました。気づくのに時間が掛かってしまったようですね」
ギブソンさんは確か50代だったよな・・・遅くはない!シリカさん若いし何とかなるはず。
「今からでも遅くありませんよ?次にカイと会うときにシリカさんに結婚を申し込んでみたらいいじゃないですか。諦めたら先は無いですよ」
そう、諦めたら時間は止まったままになってしまう。
「そうですかね?」
「そうですよ!」
「ふふっ、あなたは不思議な人だ。モッチョ様がついていく理由が分かりましたよ」
「そうですか?」
「そうですよ。私も歳ですが頑張ってみますよ」
「僕で良ければ応援します」
「ありがとう」
握手をした。
みんな幸せになって欲しいと思う。
のんびりと書いていきます。




