情報って大事
28
日が沈みかける前にバンチへと到着した。凡そ船には6時間程度しか乗っていなかったのに、地上に降りた今でも地面が揺れている感覚が残っていた。みんなも同様な感覚が残っていたようだが、モッチョ商会の者たちは何事も無かったかのように忙しそうに動いていた。
「さすが一流の商人だよな。船なんかものともしていない」
「そっすね、ミンクちゃんの商会だけあるっす」
「いや違うから!モッチョ氏の商会だから!」
すかさずツッコむと、テヘヘッ見たいな顔をするウッド。
「あんまりミンクちゃんミンクちゃん言って墓穴掘るのは良いけど、俺を巻き込むなよ?」
「あの夜の事は絶対に話さないっすよ!リティ姉に凄まれても絶対に口を割らないっす!」
いや、リティに凄まれたら絶対口割るよねと思ったがウッドを信じることにした。
船を降りてこれからどうするのかと思いモッチョ氏を探すとフラフラと歩くモッチョ氏を見つけた。
「モッチョ氏、どうした?足でも挫いた?」
モッチョ氏に駆け寄ると。
「いえ・・・少し酔ったようで面目ないです」
いや、良いよ!これでこそモッチョ氏だよ。すぐさまシズクを呼んで治癒魔法をかけてもらった。
「いやはや、魔法の掛かりにくい体質なのですが、シズクさんの治癒魔法は凄いですな。流石レッド殿のお仲間、感服しております」
魔法の掛かりにくい体質とかあるのか?商会のトップだから拉致され秘密を聞き出そうと魔法をかけられた場合、レジストする様に事前に防御魔法かけていたり薬でも飲んでいるのだろうか?まぁ治ったから良しとするか。
「治ってよかったよ、モッチョ氏。ところでこれからどうするんだ?」
「今日は遅くなりましたので宿を取ろうかと思っています。うちの系列であれば無料で宿泊できます」
任せてサイコーモッチョ氏!
「じゃ、任せていいかな?」
「もちろんです」
モッチョ氏に案内されて着いた先には、いい意味でヤバイ宿屋だった。
「これ、セレブ用?」
「うーん、我が商会の宿屋では中の下と言ったところでしょうか」
「はぁぁ、さいですか・・・、俺たち泊っていいの?」
これで中の下って、上ってどんなん?
「もちろんです」
まぁ女子組はとても喜んでいたからいいかな。
チェックインはモッチョ氏に任せ待っていると、すぐにボーイさんがやってきて全員が一緒に過ごせる大部屋に案内された。その部屋はとても大きな大部屋だったのだけれどロイヤルスイートというものでしたよ。
「レッド・・・ここ凄いな」
「だろ?みんなモッチョ氏に感謝しろよ?」
「もちろんにゃ」
みんなのソワソワが落ち着くころに夕食というか夜食の時間になった。その頃には地面が揺れている感覚も無くなっていた。
「みなさん、食事の準備が整いました。VIPルームへお越しください」
モッチョ氏の秘書フレサンジュさんが迎えに来た。みんな空腹だったので急いでVIPルームへ向かう。部屋というか広間を見渡すとバスケットコート2面ほどあり天井も高い体育館みたいな場所だった。そこにはテーブルが並び各料理ごとに担当のコック居て取り分けてくれる立食スタイルだった。
すぐさまお腹を満たしたかったのだけど、モッチョ氏からモッチョ商会メンバーの紹介をしたいという事なので互いに自己紹介する事になった。もちろんウッドは我先に自己紹介を済ませ料理を堪能していた。ウッドは後で説教確定だな。
秘書1:フレサンジュ・ダークエルフ
秘書2:ライラ・人族
護衛1:ガイ・ドワーフ・暗黒騎士
護衛2:ギブソン・人族・ナイトエッジ
料理人:リック・人族
メイド長:ミランダ・人族
メイド他5名
番頭:ジンライ・獣人族(鳥:フクロウ)
使用人他5名
計17名
商会メンバーの自己紹介が終わった時、自分の心配が杞憂だったなと思った。道中の安全もナイトエッジと暗黒騎士が居るのであれば十分すぎるだろう。現状この世界では上級冒険者の扱いであり、更にその上の上位ジョブの情報はあまり入ってきていないことから最強と言ってもいいだろう。モッチョ氏の財力があるから出来る事だな。
その後、俺達も各自自己紹介を終わらせ、それぞれ食事に舌鼓を打っていた。俺は食事もそこそこに早速情報収集することにした。まずはガイさんとギブソンさんだ。何故かと言えば彼らは上位ジョブ職に付いているので、その所得方法の調査だ。現在中央大陸の情報は無いので、こちら側でのジョブ取得情報を調べるためだ。
「ガイさん、ギブソンさん、初めましてレッドです」
「おう、若いの、モッチョ氏と繋がりがあるってことは有望株ってとこかね」
ガイさんはドワーフらしい体格をしており人族で言うと50代くらいだろうか。
「有望かどうかはわかりませんが、精一杯頑張ろうと思っています」
「そうか、がんばれよ、ワハハハ。してお主の仲間にエルフの戦士がおるようだが大丈夫なのか?」
「あれ、ドワーフの方はエルフと仲が悪いというのは本当なんですか?」
「仲が悪いというか、苦手なだけじゃ。あんな細い体で戦士として戦えるのか?」
「僕よりも勇敢ですよ。相手によっては僕よりも強いですよ」
「なんじゃと・・・そこまでとは。考えを改めんとな・・」
「そうですよガイ、人は見かけによりませんから。私もあなたと組んだ時、それ言ってきましたよね?人族でそんな華奢な体で攻撃できるのか?なんてね」
シーフ上位ジョブ:ナイトエッジのギブソンさんが会話に入ってきた。
「そうじゃったか?そんな昔のことなんざ覚えとりゃせんわ、ワハハハ」
笑ったと思ったら、ジョッキを一気飲み。豪快だな。
「ガイさん、ギブソンさん、一つ伺いたいのですが」
「なんじゃ」
「なんですか」
「上位ジョブの取得方法です」
「冒険者なら知っているでしょう?」
勿論知っている。その方法は5国の首都にある転職の間にある英霊の石碑に触れることでクエというか試練が発生する、だ。しかし、これだと転職の間を管理しているギルドに自分たちの個人情報がバレてしまう。ある程度までならいいが、最高ランクになったらどうなるか・・・
「えぇもちろんです。5国以外に石碑の情報って聞いたことありますか?」
もしギルドが管理していない、秘密の石碑があれば金を払ってでもやる価値はあると思っている。
「ねぇなぁ・・・、ギブは知ってるか?」
「私も知りませんね」
「そうですか、ありがとうございます」
やはり、無いか・・・あとでモッチョ氏に依頼をかけとくか。
「いいってことよ。お前も遠慮せずに飲め」
「そうですよ、若者が遠慮とは、よくありませんね」
ジョッキになみなみとビールが注がれる。
「では、いただきます」
「いい飲みっぷりだな!ワッハハ」
「若者はそうでないと」
ちらっと他のメンバーを確認すると楽しくやっているようだ。
「レッド殿、食事はお気に召しましたかな?」
そこへモッチョ氏がやってきた。モッチョ氏が目配せすると2人はテラスの方へ向かった。何をするのかとみていると、テラスの安全を確認していたようだった。安全を確認できたことでモッチョ氏に案内され一緒にテラスへ出た。
「レッド様、今後の予定ですがどういたしましょう」
ホントそれな、どうしますかね。
グラスの首都経由の場合は一旦北西へ北上し首都へ入り、その後、首都から南東に南下し船に乗らなければならない。首都に行かず南下すれば、より早くランドへ行ける。
・・・・決めた。
「モッチョ氏、首都へ行くのは後回しにしようと思う。何か問題ありそう?」
「いえ、私もそれであれば無駄が少ないだろうと思いましたので」
「だよね。じゃ、ここで3日滞在して、俺とウッドが製作したものを流通させてくれ」
「わかりました。」
「それと、アンコモンとレア作っても大丈夫か?」
「!!!!、もちろんです。ただしレアは1品でお願いします。」
「なぜレアは1品なんだ?たくさん作れるが?」
たくさん作れば稼げると思ったので確認する。
「現在市場にレアランクの装備は極稀に流通する程度です。それがいきなり大量に流通すると価格の下落と出品者の素性を調べる輩が沸いてきますので、今は1品だけということでお願いします」
「そういう理由があったんだな、了解したよ。それと俺の貯金っていくら位になった?」
「少々お待ちを・・・、えっーと現在1億と1千万くらいですね。お渡ししましょうか?」
うほ、いいね。
「いや。それにしてもすごく稼いだよね。今後銀行というものを考えているのだけれど相談に乗ってくれるか?」
「はい、ギンコウとは?」
「簡単に言うと、お金貸しだね。少し違うのは貸すだけではなく、お金を預かる事もするんだ。そして預金されたお金は商会で運用して利益を出して、預けてくれた人には利子をつけて返還する。その利率は貸すよりも低く設定すれば利益しか出ないっしょ?」
難しい利率などは分からないのでモッチョ氏に丸投げすれば良いのだ。モッチョ氏に任せれば何とかしてくれるでしょう。あと、この世界には保険も無いだろうから、今後は保険事業も合わせてやりたいな。それは、また別の機会に相談しよう。
「ふむふむ・・・なんと・・・それはおいしそうですな」
「だろ?この世界に銀行はないからな。一山どころじゃないかもな」
「ですな、手始めにグラス首都のみで試験運用して、一応不測の事態を考えて100億もあれば行けると算段します」
「それ、任せてもいい?融資の審査とか結構大変だと思うけど?」
「もちろんでございます。自称大陸一の商会の情報網は伊達ではありません」
「おぉ、頼もしい!」
「して屋号は?」
早いよ!もう名前考えるの?俺は色々と考えるが、ふと手に持ったビールを見て閃いた。
「やる気満々だねモッチョ氏。じゃぁ恵比寿・・エビス銀行で」
こういうのは勢い大事。
「かしこまりました。それでいきましょう」
「それと、ウッドにも製作用に違う名前用意できるか?」
「容易いことです。うちの商会で別名義を登録していただければすぐです」
「そっか、あとでウッドと相談して決めてくれるか?」
「わかりました。燃えますな!」
「燃えるな!」
熱い握手をして不気味な笑顔の2人がそこにいた。
のんびりと書いていきます。
読んでいただいている方に感謝。




