アユに叱られそうじゃ
27
ベリアル、ナー爺、アース、アユ、ディー、サキュちゃん、レディが進む先にガブリエル親衛隊の天使族が待ち受けていた。どういう組み合わせになるのか見ていると自然と対戦相手が決まっていたかのようにペアになり7組が距離を取って散開していった。散開した後も動きが無く、いつ始まるのか様子を見ていると、
「さて、儂の相手じゃが・・・・やはり貴方でしたか。」
「久しいのぅナーガよ。いつぶりだ?」
ナーガの前に立つのは、体には白い衣、スキンヘッドで顎からモミアゲにかけて見事な髭を生やし、一対の翼を持った偉丈夫だった。身長はナーガの2倍程だろうか。
「お久ぶりです、ヤーキェル様。最後にお会いしたのは我が種族の生活が安定したころでしたので、凡そ7000年前でしょうか?」
「おぉ、そうか、そんなに経つか。で、お主は何故儂の前に立っておる?」
「何故と言われましても、ご存じでしょう?」
「お主ごときが儂の相手になるとでも思っておるのか?」
「私を、あの頃の私だと思わんでください。あれから何年経っているとお思いですか?それに私はルシフェル様に鍛えられておりますゆえ、決して油断なさらぬよう・・」
ナーガが頭上に手をかざすと金色に輝く錫杖が現れた。
(ん?あれって俺が作ったやつじゃね?いつか渡そうと思って渡し忘れた・・・。似ているだけだし違うよね、いやだってほら俺の収納にあるからって・・・ない・・・どゆこと?)
(レッドさん、申し訳ありません。レッドさんが瞑想しているときに渡しちゃいました)
俺の心の声を聴いたのかメーティスからtellがきた。
(え、あ、そうなの?でもほら俺の収納って俺だけがアクセスってゆーか・・・)
(それなんですが、私達と糸で繋がってますよね?その回路を上手く使って私とレディさんで解析して共有できるようにしたんですよ!ってアブな。こちらも戦闘に入りましたので、また後程~)
(いや、俺の心の声を聴いたり、収納についてもプライバシーってものがね・・・隠し事出来ないじゃん・・・)と頭を抱える俺ガイル。
ナーガが武器を構えると、ヤーキェルと呼ばれた者も手に持っていた枝を横に振り払うと同じく金の錫杖に変化した。
「さてお主の錫杖は耐えきれるか!」
ナーガの2倍はある巨体からヤーキェルが錫杖を叩きつけるように振り下ろす。
ガキィーーーン
甲高い金属音が鳴り響く。
「互角か?どこで手に入れた?ルシから貰ったのか?」
「まず、ルシと呼び捨てにしないでいただきたい。そしてこの武器は我らが紅の王からの頂き物です。それと互角だなどと思わないでいただきたい!」
ナーガは体格差を物ともせずに、すぐさま錫杖を弾き返しヤーキェルの腹部に突きを繰り出す。
「甘いわ!グフッ・・な・・に・・」
寸前で受け流すつもりでいたようだがナーガの突きの速度が急激に上がったため受け流しが間に合わなかったのだ。
「格下相手と思っていると手痛いしっぺ返しを喰らうことになりますよ?」
「お・・の・・れぇ!」
怒髪天、いやスキンヘッドだからそうではないか?頭頂部から上がる湯気で、そう見えてしまっている。
「儂の怒らせたな!見るが良い、そして恐怖せよ」
徐々にヤーキェルの体が金色に変化し、同時に魔力も高まっていった。
「ですから、油断せぬようにと言っておりますじゃ」
ナーガは戦闘中だというのに身動きせず変態しているヤーキェルに錫杖を振り下ろす。
「グガッ、卑怯な!下劣な種族め!」
「これは、殺し合いなのですじゃ!卑怯も種族も関係ありゃーせんのじゃ」
「我が万全であれば貴様など羽虫を潰すようなものだ。だから待つが良い!」
「貴方様には助けて頂いた恩もあるので待つとしますじゃ。ですがこれでチャラにしていただきますのじゃ」
ナーガは錫杖を地面に刺し目を瞑った。
「待たせたなナーガよ!始めようではないか」
1分と経たず準備が終わったようだ。その声と同時に2人は錫杖を構えた。
「この勝負儂の勝ちですじゃ」
「何を言うか!まずは儂の魔法を喰らうが良い!」
ヤーキェルの錫杖から極大の雷がナーガに向かって放たれた。
「ですから、貴方様の魔法は儂には効かんのですじゃ」
雷があたる瞬間、ナーガの周囲に砂煙が舞い受け止めた。
「では、これならどうだ!究極魔法サンダーブレーク!」
ヤーキェルが指先を天に向け魔力を放出すると、空から無数の雷が錫杖に注がれた。先ほどナーガに放った雷よりも何十倍の威力が集約された錫杖を振り下ろす。
ドンッ!
振り下ろされた瞬間地響きと空気の振動なのか分からないほどの衝撃が起こる。
「先ほども言った通り効きませんのじゃ」
今回も同じくナーガの周りを覆う砂煙が受け止めた。それもそのはず、雷は土に弱いのだ。属性の相関図を理解していれば、そんなセリフなど出てこないはずだ。
「なぜだ!究極魔法だぞ!我が神より授かりし魔法、負けるはずがない」
「貴方様は偉大で強かった。だからですじゃ」
「意味がわからん!」
「分かりやすく説明しますじゃ。あの時代に貴方様に勝てる人はおらんかった。我らは常に戦わねば生きていけんかった。更にはルシフェル様の御創りになった迷宮で切磋琢磨し、ルシフェル様の魔力を頂き更に磨きをかけたのじゃ。生き残るために出来ることは何でも行ったのじゃ。貴方様はそのような努力をしたことは?」
問われたヤーキェルは何を言われているのか理解できていないようだった。
「無いでしょうな・・・絶大な魔力と強靭な体を持つあなた達は、あの時代では無敵だった。戦いと言われるものなど無かったでしょう。すべて指先一つで完結する蹂躙。力が拮抗する仲間との切磋琢磨もなく仲良しごっこですからね」
「貴様!我を愚弄するのか!」
「いえいえ、とんでもないですじゃ。ただ自分よりも強い相手と戦った経験の差を言いたかっただけです」
「ええぃ、我より強いガブリエル様には何度も稽古をつけて頂いておるわ!」
「命の危険のない稽古をいくら行っても儂等には届かんと何故わからんのじゃ」
「ぬぬぬっ、もう手加減などせん!我が最大奥義によって消滅するが良い!」
ヤーキェルが錫杖を地面に突き立て、複雑な印を結び始めた。
「これでお主も終わりだ!ガブリエル様より頂いた究極奥義ゴールド・サンダー・・・」
「すべてを貫き石化せよ!大螺旋アースストームジャベリン!」
ナー爺の詠唱が終わるよりも前に魔法が発動しヤーキェルを串刺しにし石化させた。
「じゃからこれは殺し合いなんですじゃ。そんな悠長に宣言して技を出す馬鹿がどこにいるんですじゃ」
勝負は最初にナー爺が錫杖を地面に刺した時に決まっていたようだ。1分無い時間にナー爺はすでに魔法を設置していたのだ。その設置魔法に気が付かない時点でヤーキェルの敗北は決定してのだ。
恐るべきはナー爺の設置魔法だけではなく、それを隠すほどの隠蔽魔法も同時に展開していたことだ。
「命までは取らんが一生その中で暮らすがいい。7000年ほど経てば石化も解けるじゃろうて。ほっほっほ、ちと甘すぎるかのぅアユに叱られそうじゃ」
ナーガ族の陣営から勝利を称える雄叫びが上がるが、ナー爺が視線をこれから戦う仲間に向けると雄叫びが瞬時に掻き消えた。そう、勝利の雄叫びは残り6人が勝利して初めて挙げるものだ。だから今はその時ではないと。
久しぶりの投稿です。




