私の記憶
12
「私はメーティス。これは私の記憶」
声色はレディであったが、雰囲気が変わった。
「あなたはレディじゃないの?」
サーラが問いかける。
「今話している私は開放された私の記憶。レディと呼ばれる私にお願いして借りているの」
そう言って自分の体を眺め、小躍りや体の感触を楽しんで、レディの時とは別人のように表情豊かになっていた。
「で、メーティスさんでしたっけ、レディの体を乗っ取ってどうするつもり?」
再度サーラが問いかける。
「そう急ぐでないサーラ殿、別に乗っ取るつもりはないじゃろう。のう、メーティスよ」
間にナーガが入る。
「あら、ナー爺久しぶり。自由に動けるって素敵ね。つい嬉しくてはしゃいじゃった、テヘッ」
「うむ、久しぶりじゃのう、儂らが旅立った日以来じゃ。してメーティスはこれからどうするつもりなのじゃ?」
「うん、それなんだけど暫くこの体を借りることになる、かな」
「ちょっと冗談はやめて!私達の軍師を返しなさいよ」
それを聞いたミリアが間髪入れず答える
「まぁまぁ、続きがあるようじゃから最後まで聞こうではないか。そうであろうメーティス?」
「うん、今レディさんは私と父とルシフェル様の膨大な記録を処理していて表に出ることが出来ない状態なの。それで私の記憶という人格に体を貸してくれることになったの。これは強制して奪ったのではなく、レディさんが私の願いを聞いて貸してくれたの」
「で、その暫くというのはどのくらいなの?」
サーラが問いかける。
「うん、私だけの記憶ならレディさんの処理能力で3日もあれば終わるけど、父とルシフェル様の記録となるとすべてを終わらせるのに20日前後かかると思う」
「は?それじゃ今後の攻略はどうするっすか!レディのサポート無しだと無理っすよ」
ウッドが言うと、旅団のあちこちから賛同の声が出る。
「じゃから、試練と言ったじゃろう!レッドやレディにおんぶにだっこでは試練にならんよ!」
ナーガが語尾を荒げる。それを聞いた団員は皆黙ってしまった。
「皆さん、ごめんなさい。私のせいで・・・・」
メーティスが酷く落ち込んでしまった。
「みんな、忘れてる。レッ君はいつも一緒。目を瞑って感じて」
唐突にシズクが話す。それを聞いたサーラや団員は我に返った。
「あらら、今度は立場が逆になっちゃった。そうね、レッドはいつも私達と一緒に居るわ」
サーラが笑いながら答えた。
「うん、だから全員、序列10位以降に降格」
シズクがここぞとばかりに仕返しをする。
「はぁ?なら2~10は誰が入るのよ!」
ミリアがかみつく。
「すべて私」
平然と答えるシズク。これを機に女子組全員から大ブーイングが巻き起こった。
「ぷっ・・・うふふ、やっぱり生きているって楽しい。レディの想いが私に流れてるからかしら、私もあなた達の様にレッドさんみたいな素敵な人と恋がしたかったわ。外の世界をほとんど知らなかったし、私の記憶は16才で止まっているから・・・」
メーティスの言葉にブーイングが収まり沈黙が訪れる。
「恋ではなく愛だから。それに大丈夫、メーティスは強敵。私の知らないレッ君の情報をレディと共有している。油断はしない」
シズクがメーティスをライバル宣言する。それを聞いた女子組も「絶対に負けないわ」とか、「過去の情報よりも今が大事なんだから!」とか、騒ぎ出した。
「え・・・いいの?私はただの記憶よ・・・」
「人とは何?あなたは自分の言葉で私達と話している。もうあなたは私達と同じであり仲間。レディには抜けたところがある。あなたが補えば最強のライバル」
「・・・シズクさん、皆さんありがとう。私を受け入れてくれて、ありがとう・・・」
メーティスが涙を流しながら嬉しそうに答えた。それを見たナーガも嬉しそうであった。
「よし、今日はここでキャンプにしましょう。明日からの攻略は今まで以上にハードになるわよ、各員充分休息をとる様に!」
サーラの号令でコテージの準備が始まった。
俺の体はどうするのだろうと思ったら、シズクが馬にまたがっている俺に正面から抱きつき俺ごと毛布を巻いて包み込み幸せそうな笑みを浮かべ眠っていた。
のんびり書いていきます。




