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内なる個

5


 翌朝、準備を整え整列する。

「みんなが思っている通り、今までよりも強い気配を感じる。だから当面先頭はレッド隊、フリーダム隊、ウィンド隊で行こうと思うが良いよね?」

 皆も異議は無いようだった、と思ったら


「ロード、提案があります」

 おっと、レディからあったようですね。俺が促すと


「魔物の戦闘力を計測するので随時私の指示で入れ替わってもらっても良いですか?その入れ替わり要員にロードは含みません。ロードには力の開放をメインに行ってもらい戦闘は、ロード以外の方に行ってもらいます」


「俺は構わないがみんなはどうだ?」

 見渡すと皆納得しているようで口を開く者はいなかった。


「では承認してくれたと判断します。まずレッド隊を中心に1番隊と2番隊が左右を固めて進行しましょう。それ以降、中心はフリーダム隊、ウィンド隊1、ウィンド隊2、EXジョブ及び客人隊のローテ、左右はスカウト組のローテで回ります」

 客人隊のビャクエンが少し心配だがアークが居るから大丈夫かな。それ以外は心配無さそうだ。そして隊列を再度組み直し攻略を開始する。


 5001階から今までと違う作りになっていた。壁は黒とマグマ色のマーブルで触れるとダメージを受けるほど熱量があったが触れなければ熱を感じることもない不思議な作りであった。光量はマグマ色が意外と明るく松明や魔法を使って明るくするほどでもなかった。しかし慎重を期すため進行速度は落とすことになった。


―――ノックバックには注意しないといけないな。壁に飛ばされない位置取りを考えて・・・


「ロードよ。余計な事は考えず力の開放に注力して下さい。今後何が起こるのか不明ですので万が一の時に備えることが重要です」

 心配性の俺があれこれ考えているとレディから注意されてしまった。っていうか何で考えてること分かるんよ?

 でも、まぁレディの言うことも尤もで、俺もレディも、シズクの千里眼でさえもこの先に何があるのか分からない状況であった。多分ルシの細工だと思われるが、今の俺の力ではそれを破ることは出来なかった。だから万が一の事が起きてもすべてを覆せることが出来る力が必要だった。


「悪い。集中するよ!」

 攻略に関しての情報はレディが記憶してくれる。なので俺は何も考えず集中することにした。深く深く音や視界など五感を断ち内に籠る。

 今まで座禅を組んだことはあるが、騒音やケツ痛いなぁとか、足しびれたとかあったが今回は違った。完全に内なる個になることが出来た。これも多少力を使えることになった影響だろうか。感覚というものは無かったのだが、初めての感覚というか境地?に戸惑いながら自分と言うものを理解できた。何も見えないし自分がどうなっているのかも分からないが自分というものは確かにここにあると。

 しかし、まぁ何をすれば良いのかさっぱり分からない。今までであれば、蛇口を開いて出てくる力を自分に取り入れもう無理ってところまで飲み込んで、胃袋を大きくする感じだったのだが、何も感じることが出来なくなった今何をすればいいのやら、時間の感覚さえ分からない。ただ分かることは、このままこうしていても何も変わらないという事だ。


 1秒なのか1年なのか100年なのか分からない状況のなか、必死に何かにすがりつくようにもがいていた。もがくといっても感覚はないので外からどう見えているか分からない。でも何もしないよりはマシだった。魔力を練る感覚を思い出しながら魔力糸を伸ばしてみたり魔力を放出する感覚を思い出しながらやってみるが実際出来ているのかも分からない。そんな試行錯誤のなか普段では絶対に気付かない感覚というか振動のようなものを認識することが出来た。例えるなら肉眼では見えない埃、いやそれよりも小さな粒子が地面に落ちる位の振動だろうか。俺は必死にその方角へ行こうと意識する。強く、強く強烈に。


 すると光が見えてきた。感じたと言うのだろうか。それも違うか。五感が断たれた状態なのだが、それは徐々にはっきりと鮮明に認識することが出来たのだ。


―――これは・・・・地球だよな・・・しかも俺が知っているリアルなやつだ


 さらに振動の先に近付いていくと、俺の知っている街が見えてくる。


―――なんで今更ここへ?


 さらに近付く・・・・・言葉にならなかった。そこには自分の愛娘がいた。会いたくて会いたくてどうしようもないくらい会いたい愛娘がいたのだ。


―――雛子!パパだよ、パパはここに居るよ!

 必死に叫ぶ。手を伸ばす感じに接触できるか試したが無理だった。だったら出来ることは呼びかける事しか出来ない。だから必死に叫び続ける。しかし、叫びが届くわけもなく雛子は母親の自転車の後ろに乗った。


―――まさか・・・・駄目だ!行っちゃ駄目だ!行かないでくれ雛子!

 俺は叫び続ける。すると子供が俺の方を向いた。


―――雛子!パパが見えるか。このまま行ったら駄目だ。お願いだ!帰ってくれ!

 必死に叫ぶ。このまま進めば交通事故が起こるかもしれない。そうだ、この日は俺の心が壊れた日だ。


「ママァ、・・」


「ちょっと動かないでよ!危ないでしょ!」

 母親にそう言われ黙ってしまった。俺は必死に雛子を包み込むようにする。


「なんかあったかい・・・パパ」


「何言ってるのよ!静かにしてなさ・・・えっ」

 

 ドン、ガシャーンガガガ・・・・


―――なんでこんなものを見せるんだ・・・・

 俺は子供に会えた喜びから一転して悲しみのどん底に落とされる、と同時に運転手への憎しみが爆発する。


―――貴様ァ・・許さないぞ!

 憎しみが心を支配し、憎悪の炎が増大していく。


―――そんなにスマホが大事か!今そこで必要だったのかよ!だったらこんな、こんな世界・・・すべて・・・全部ぶっ壊してやる!

 怒りに飲まれ破壊衝動が膨れ上がる。そして何故か力の感覚が戻って来ていた。


―――これならすべて吹き飛ばせるぞ!すべての力を使って自分諸共こんな世界破壊してやる。雛子の居ない世界なんて・・・


「ダメだよパパ」


―――えっ!・・声のする方を向くと雛子がそこに居た。


「そんなことしたら駄目。私なら大丈夫」


―――だって、雛子がいなくなったらパパは・・・。そうかこの力を使って雛ちゃんを生き返らせてあげればいいのか。


「それもダメ。雛ちゃん生き返っても、パパが居なくなっちゃうから」


―――良いんだよ。パパの事はどうでも良いんだよ。雛ちゃんさえ生きていれば。


「パパ、大丈夫だよ。雛ちゃんね、またパパの子供になるから」


―――でも、それはいつなんだい?


「わからない、でも絶対パパの所へ行くの」

 雛ちゃんが駆け寄って両手をつき出す。これは抱っこしてのポーズだ。俺は雛ちゃんを抱き上げるイメージを思い浮かべると、自然に体が構築され思いっきり抱きしめることが出来た。匂い、ほっぺの感触、さらさらの髪、すべてが本物の雛ちゃんだった。もう思い残すことは無かったし、死んでも良いとさえ思った。


「ダメだってばぁ。パパには待っている人が居るでしょ?それはとても大事。だからモフモフはまた今度」

 モフモフとは抱っこした時、子供の顔や首筋を髭でコチョコチョする事だった。いつもほっぺにチューしながらモフモフしていたのだ。


「そうだな、また会えるのならパパも我慢しないとね」

 そういうと雛ちゃんも頷いてくれた。再度思いっきり抱きしめると雛ちゃんは光の粒子となって消えてしまった。それと同時に急激に地球から引き離され、太陽系、銀河系とどんどん離されていく。すでに俺がいた銀河系すら小さな星にしか見えない銀河群、そして銀河団、ボイドも越え超銀河団と。だがそれでも引き離されていった。どれだけ離されたのか分からないが宇宙の端まで来たのだろうか宇宙が一つの歪な球体になっていた。それ以外は何もなかった。何もないところに球体があるだけだった。色なども無かったのだが分かりやすく説明するなら、真っ白な空間に拳ほどの球体がポツンとあった。

 俺が球体に触れようとすると、突然動き出し体に入り込んできた。それと同時に自身の内から膨張し破裂する激痛に襲われる。体中の血管が浮き上がり、血液の流れが尋常ではないくらいに早く感じられた。血液の温度も1000℃を超えていた。


「熱い!頭が、体が破裂しそうだ・・・うがあぁーーーー」


 焼けとける体を超速再生していくので体が燃え尽きることは無かった。ただ延々と拷問とも呼べる痛みが俺を襲う。どれだけ時間が経ったのだろうか、徐々に痛みが和らいでくる。1000℃超えの風呂が1000℃の風呂になった程度か。体感では分からない誤差の範囲だったが何となくそう感じたのだ。


「絶対に死ぬわけにはいかない。俺はこれを超えるんだ・・・絶対に!」


 雛ちゃんや仲間と会うにはこれを超えなければならない。雛ちゃんに会えたからこそ生に執着出来た。会えなかったら、仲間が生きてさえいれば俺は自分がどうなろうと、死んでも良いと思っていたし、この激痛にも簡単に屈したであろう。

 焼き尽くされる痛みが和らいでくると、体の中に今までと違う莫大な魔力というか力を感じた。それは暴走することもなく安定しており力の制御が出来るようになっていた。そして雛ちゃんに会えたことで失った心のパーツが戻ってきていた。シズクやサーラ、ルル、リティス、リーズ、月花、ミリア、クラリス、みんな・・・ゴメン!ようやくだけど期待に応えられそうだ。


「これで・・・いいのか・・・」

 体の痛みも引いてきて気が抜けたのか、意識が落ちていき自分という存在が崩れそうになる。この世界にきてから眠くなることは無かった。しかし今、その眠たさを感じることが出来た。


「だめだ!意識を保たないと」

 必死に睡魔と戦う。何となく眠ってはいけないような気がした。


のんびり書いていきます。

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