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救援

O5


 絶妙なタイミングで飛び出す。


(これならいけるぞ!)

 僕は全力で走った。目標の大木まであと8mだった。しかしそう甘くは無かった。魔物が跳躍して僕と大木の間に降り立った。周りには隠れることの出来る物がない絶望的な状況だった。


「絶対に諦めないぞ!最後まで抗ってやる」

 僕は気力を振り絞り短剣を構えた。まだ体は動く、怪我は打ち身のみ、多少足の力が戻って来ていた。魔物の4つの眼が僕を捉えて離さない。とにかく意識を集中させ、魔物の動きを細かな変化も見逃さない様にするんだ。


―――来る!右前足のひっかき


 僕は紙一重でかわし魔物の右側面へ逃れた。


―――しっぽ攻撃が来る!


 地面に転がり魔物の後方へ逃れようとするが体が動かず一瞬遅れた。鍛えていたが所詮見習い、頭で理解していても体がそれについて来ることが出来なかった。それを見逃してくれるはずもなく右後ろ脚で腹部を押さえつけられてしまった。


「うあっ、く、苦しい・・・」

 魔物に体重を乗せられて身動きが取れなくなってしまった。僕は最後まで諦めない。何度も何度も短剣を魔物の足に突き立てようとするがダメージを与えることすら出来なかった。


「ちっくしょーーーーっ、諦めないぞ!絶対に」

 魔物の頭が、近付いてくる。吊り上がった口角からは久しぶりの食事を前に涎が垂れていた。近づいた瞬間に口内へ短剣を突き立ててやると思った矢先、魔物が前足で短剣を持つ両手を抑え込むように踏みつけた。ここまで来ると、さすがに諦めるしかなかった。


「父さん、ギブソン父さん、母さん、レッドさん・・・ゴメン、ここまでみたいだね」

 両の瞳から涙が自然とあふれ出した。魔物の口が少しずつ近付いてくる。ただ自分の無力が悔しかった。


「父さんは褒めてくれるかな。僕一生懸命頑張ったよ。みんなを守ることが出来たよ」

 僕は最後まで諦めないと思い、喰われて意識がなくなり死ぬまで目を瞑らないと決めた。


 魔物が僕の頭をかみ砕くため大きな口を開けた。僕の心はみんなを守り切った満足感と家族に対する申し訳ない気持ちが半々だった。でもこれが冒険者なんだ。外に出れば死と隣り合わせ、冒険者すべてに言える事だった。父さんもこんな気持ちだったのかな・・・でも何故だろう不思議と恐怖は感じないや。


 魔物の牙が届く刹那、視界の端で黒いものが動き、風が・・・穏やかな風と金木犀だろうか心地良い香りが流れてきた。


「お待たせしました、カイ様。お迎えに上がりました」

 あの世からのお迎えかな?でも喰われたにしては痛くなかったな?そんなものなのかと一瞬思ったが目の前の魔物の頭が細切れになって落ちてくるのが見えたので、そうではないと理解した。そう、助けが来たんだ。


「わたくしスカウト組エクストラジョブ隊バトルメイドのルチアと申します。お怪我はありませんか?」

 僕は声のする方を向くと、黒いメイド服に身を包んだ美しい女性が佇んでいた。自分の状況を確認するために周りを見渡す。魔物は10cm角の立方体に細切れにされており、自分の体に多少の裂傷はあるが大きなダメージは無かった。


「あ、はい、切り傷はあるようですが大丈夫です。助けに来てくれたんですね、有難うございます」

 僕は更に周りを見渡した。他に誰が来てくれたのか確認する。


「どうしました?お怪我はすぐに回復魔法をかけますね」

 ルチアさんが回復魔法を唱えると、傷がみるみる塞がっていった。それと同時に気力も戻ってくる。


「す、すごい、これが本物の冒険者の力・・・」

 僕は驚いて口にすると、


「私の回復魔法などシズク様や月花様の足元にも及びませんわ。カイ様も修練を積むことによって、この程度の回復魔法なら容易く覚えることが出来ますわ」


「それで、この魔物ですけど、ルチアさんが?」

 ルチアさんが武器を持っていないので聞いてみると、不自然に持っていた紅茶を運ぶトレーに頬ずりしながら答えてくれた。


「レッドさんに作っていただいた私だけの特製トレーがありますわ」

 よく見るとトレーの淵に、上に乗せたものが落ちないような折り曲げなどなく、触れるだけで大怪我しそうな刃がついていた。しかも魔物を切り刻んだのに血糊が一切ついていなかった。僕はこの時知らなかったが、その理由が後に判明した。武器に魔力を込めることによって刃が触れなくとも魔力の刃で斬ることが出来るのだ。力が拮抗していれば武器の性能差が現れるが格下相手にはそれで十分だった。格下相手の血糊が付くなど旅団員失格なのだそうだ。もちろんスカウト組内だけの暗黙のルールですわと付け加えられた。


「そ、それは凄そうですね」


「そうです、凄いんですよ。遠く離れていてもレッドさんの温もりを感じることが出来るんです、うふふ」

 うっとりとしているルチアさんが少し怖かった。そんなやり取りをしていると遠くに馬の蹄の音が聞こえた。


「ルチア様の速度について行くことが出来ず、遅くなり申し訳ありませんでした」

 モッチョ商会救助班の方々が馬に乗って到着した。


「はい、では後の事は宜しくお願いします。わたくしは先に<深淵の地下迷宮>に向かいます」

 そういうとルチアさんは<深淵の地下迷宮>の方角に走り出した。しかも尋常ではない速度なのにメイド服に乱れが一切起きていなかった。あれだけの速度を出せばスカートの端くらいは捲れてもいい筈だが、これが雲の旅団に属する者の実力なのか・・・。僕もあのような冒険者になることが出来るのだろうか。


 そして何事も無く<深淵の地下迷宮>で実戦訓練が行われた。安全を考慮しLv1のスライムに班で挑む形式だった。


のんびり書いていきます。

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