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魔犬

O4


 僕にはシュテルの動きが手に取るように分かった。今よりも小さな頃から相手の動きが少しだが読めることがあった。それが訓練を始めると次第に先読みが出来るようになったのだ。そのおかげで完璧なタイミングで拳を突き出すことが出来た。


 その時、不意に後方から異様な魔力を感じ突き出した拳に迷いが生まれた。


「隙あり!」

 シュテルがその隙を見逃すはずがなかった。僕はシュテルのカウンターを喰らってしまう。だけど完全ではないが受け流すことが出来た。もしまともに喰らっていたら意識を持っていかれただろう。


「つぅ・・、待ってくれ、何かがこちらに向かってきている。馬車の中に避難した方が良い。僕らの手には負えないほどの何かが来る!」

 

「何を言っている。それとも私と戦うのが怖くなったのか?」


「違うんだシュテル、そんなことを言っている場合じゃないんだよ!早く馬車の中に避難してくれっ!」

 僕がそう言うと、フィーナ達も、シュテル班のみんなも異様な気配に気が付いてくれた。だが気付いた時にはもう遅かった。その存在が僕たちの前に現れてしまった。


そいつの名はダブルドッグ、体長5mの双頭の魔犬だった。推定Lv10。僕ら見習い冒険者はLvで言うと1未満だった。それを10以上も離れた魔物が現れたのだ。絶望しかなかった。


「こ、こいつはダブルドッグ・・・・私たちの手に負える魔物ではない・・・」

 シュテルも魔物のLvを知っているのか勝てないと理解したようだ。


「だから早く馬車へ避難してくれと・・・。もうこうなったら被害を最小にして何とか馬車に避難するか、時間を稼いで助けを待つしかないよ」

 僕がそう言うとシュテルも腹を決めたようだった。


「ならば我ら貴族がお前たちの逃げる隙を作ってやろうじゃないか!皆も覚悟を決めるのだ」

 シュテルはそう言うと、エルゼ、オットー、ホセも頷き武器を構えた。シュテルは剣士見習い、エルゼは僧侶見習い、オットーは忍者見習い、ホセは魔法使い見習いのバランスの取れた班だ。


「それは駄目だ。それだと君たちが助かる可能性が限りなく低くなる。だから僕らも手伝うよ!良いねみんな。何とか時間を稼いで隙あれば馬車に逃げ込むよ!」

 フィーナ、ポム、ブランドンが頷く。フィーナは僧侶見習い、ブランドンは呪術師見習い、ポムはモンク見習いだ。そして僕はシーフ見習いの攻撃主体の班だ。


「ふん、私達の邪魔だけはするなよ。変則班はしょせん正統派の班に及ばないことを理解させてやる!」

 シュテルは盾を構えダブルドッグの注意を引き付けた。しかしシュテルだけではダブルドッグの攻撃をすべて抑えることは出来ない。Lv差がありすぎるのだ。


「片方の頭の注意をこっちに引き付けるよ!」

 フィーナが継続回復効果の魔法を近接の僕とポムにかけ、ブランドンが暗闇の魔法をダブルドッグにかけるのを確認して飛び出す。シュテルの後ろからオットーも飛び出してきた。オットーは魔物の左わき腹を、僕とポムは右頭部の首めがけて突進し、3人同時の攻撃がダブルドッグに命中する。


「喰らえ!」

「破!」

「誅」

 タイミングもばっちりのはずだった。しかし僕達の攻撃は熊の様な体毛に阻まれ内部に届くことは無かった。ただ単に僕たちが弱すぎたのだ。ダブルドッグは何事もなかったようにシュテルに攻撃を浴びせている。シュテルもダブルドッグの猛攻に耐えたのは最初の2撃ほどで、それ以降は徐々にダメージを喰らいだしていた。


「このままだとマズイ。何とか注意をそらさないと・・・シュテルが・・・」

 そう思案している間にもシュテルが倒れそうになっていた。いくら僕たちが攻撃や魔法を撃ち込んでも何事もなかったようにシュテルを攻撃していた。


「マズイぞ、お前たちも伏せるんだ!」

 シュテルがそう叫ぶと、ダブルドッグが息を吸い込み始めた。ダブルドッグのブレス攻撃が来る。威力はそうでもないが麻痺効果がある。まだ僕たちにはそれに耐えることが出来るほどの力はなかった。もし喰らってしまったら、生きながら食われることになる。


「私が貴族根性を見せてやろう!うぉぉぉシールドアンカー!」

 シュテルが盾を地面に打ち込み、魔力で巨大化させた。そのおかげで間一髪直撃を避けることが出来た。しかし・・・


「みん・・な・・済まない、もう意識が・・・にげ・・」

 シュテルは格上スキルのシールドアンカーを使用したため気力を使い切り意識を失ってしまった。それもそのはず、僕たちの年齢は多少のばらつきはあるが10歳前後。そんな子供が上級冒険者などの使うスキルなど使用すれば意識も失うはずだ。


「あぁ・・・カィ・・」


「フィーナ!」

 直撃は避けたが僕たちに耐性魔法をかけてくれていたフィーナが自身にかける耐性魔法の詠唱が間に合わなかったのだ。フィーナのもとに向かいたいが魔物がそれを許さない。


 僕はどうしたらいい・・・


――――カイ、自分が大切と思う人のために何が出来るか考えてごらん。お前ならわかるだろう?


 急に声が聞こえた・・・聞いたことが無い声だった。いや違う・・・知っているような・・・覚えていないがきっと父さんの声だと本能が訴えていた。頭では幻聴だってわかっていた。しかし、それはとても暖かく想いの込められた声だった。

 

 その声を聴いたとたん頭が急に冴えてくる。


「オットー、シュテルを連れて下がれ!ブランドンとポムはフィーナを頼む!俺があいつの注意を引き付けている間に馬車の中へ逃げるんだ」

 有無を言わせない迫力で言い放つ。そしてダブルドッグの口内へ投げナイフを撃ち込む。そこであれば多少のダメージは与えられるはずだ。

 案の定、多少ではあるがダメージを負わせることが出来た。そのおかげでダブルドッグが敵意むき出しで僕に向かってきた。でもこの時の僕には理由は分からないがダブルドッグの動きが手に取るように分かった。人の動きの先読みは出来たが魔物の動きを先読みできたのはこれが初めてだった。


(右前足のひっかきの後に、左の頭の噛みつきがくる!)


 僕は自分を信じ攻撃を避けると、魔物も驚くくらいに上手く避けることが出来た。良し、このまま攻撃を避け続けて時間を稼ぐんだ。背後では仲間たちが馬車に乗り込むことが出来たようだった。あとは僕も隙を見て乗り込めば助かるはずだ。


(今度はさっきと逆の攻撃だ。左前足と右の頭の噛みつきだ)


 さっきと同じように攻撃を避ける。しかし今回はしっぽの攻撃も加わっていた。これも事前に分かったので避けようと思ったが足がガクついて力が入らなかった。格上相手の攻撃を何度も避けられる力が僕にはなかったのだ。僕は覚悟を決めて受け流すようにしっぽ攻撃を受けた。


 全身に強烈な痛みと共に宙を舞う感覚が襲う。


「ぐはぁ・・ゲホゲッホ・・」

 落ち着け・・・状況を把握するんだ・・・。魔物はこちらにゆっくりと近づいてくる。僕は10mほど吹き飛ばされ木の根元に居る、馬車は魔物の後ろ、体は痛いが骨折はしていない様だからまだ動く、だが最初の時の様に早くは動けないだろう。


「まだだ・・・まだ諦めないぞ」

 周りを見れば大木が沢山ある。これを利用して時間を稼ぐんだ。そう考え大木の裏に隠れる。しかし魔物にとって大木など雑草のように切り裂いてくる。


 一体どれだけの木が伐採されたのだろう。周りの大木が少なくなってきた。魔物も馬鹿では無いのだろう。馬車から僕を引き離す様に追い詰めてくる。次第に隠れる木が無くなってきた。


「まだ来てくれないのか・・・これ以上凌ぐのは・・・」

 少し弱気になるが、心を奮い立たせ、集中して現在の状況を把握する。瞬時に隠れることが出来る大木はこれ一つ。あとは少し離れた場所の大木しかない。何とかアイツの気を逸らしてあそこに辿り着かないと。距離にして15m・・・近いようで限りなく遠い。今の僕の速力であそこに辿り着けるだろうか・・・

 考えても仕方ない、やれることをやらないと。僕は目くらましに使うために渇いた土を握りしめ、魔物の攻撃のタイミングを見定める。


 大木が薙ぎ払われるタイミングで魔物の頭部めがけ土をバラまき、かく乱のために進行方向とは逆の方向へ石を投げて瞬時に飛び出した。


のんびり書いていきます。

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