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魔眼

O3


 どのくらい揺られたのだろう、小一時間程だろうか突然馬車が止まるような揺れが来た。到着した場合、安全のため外から開けてくれる事になっていたが一向に扉が開く気配が無い。中からも開けることが出来るのだが禁止されていた。


「扉が開かないって事は順番待ちなのかしら」

 フィーナが少し不安げに言う。<深淵の地下迷宮>は小一時間で到着しない事はみんなが知っていた。だが商会の用意した特別製馬車に居れば安全という事も知っているので外へ出ようとする者は居なかった。


「何かあったのかもしれないが、外へ出るという選択肢はやめた方がいいな」

 ブランドンが正論を述べる。防音が施された馬車の中で沈黙して待機する。みんなの吐息や鼓動まで聞こえてきそうなくらい静かだった。いくら耳を澄ませても外から音が聞こえてくることは無かった。

 なるべく使いたくなかったが僕はいつしか使えるようになっていた魔眼を発動することにした。これは母親と同じ眼のようで魔力の色が分かるようになるらしい。そのうえ僕の眼は母よりも優れているようで物質を透過させて魔力を見ることが出来た。そのおかげで馬車を透過させて外の様子を、魔力を探ることが出来た。

 外の様子を探るとすぐ近くに4人の魔力の色が見えた。この色と配色とパターンは僕の苦手な班だという事が分かった。いつも僕にいやみを言ってくるエルゼ、オットー、ホセと、何故か僕をライバル視しているシュテルだった。半径20m以内にはそれ以外の反応は無かった。


「近くに馬車が1台いるようだ。シュテルの班だね」

 僕はシュテル班がいる方を指さす。ちょうど僕たちの馬車の前方だった。するとフィーナとブランドンが意識を集中させた。


「微かだが魔力を感じるな。だが何故シュテル班だと分かった・・・そうか眼を使ったのか」

 ブランドンが納得したように言うと、フィーナも理解したようだった。


「だけど動いている感じがしないんだよ。折り重なっているように見えるんだ。もしかしたら馬車が横倒しになっているのかもしれない。助けに行こう!」

 魔眼で視ると動いている気配がなく、一ヶ所に重なって見える。分かりやすく言うと、何も見えない真っ暗な世界に、ぼんやりと人型の光が見えるのだ。この眼を発動させると物質が見えないので動くことが出来なかった。目の前が壁でぶつかったり、崖で落ちることもあるのだ。戦闘中に発動しようものなら相手の武器が見えないから避けようがない。魔法攻撃であれば見えるのだが、避けようにも周りが見えないのでどうにもならないのだ。

 父とガイ教官が言うにはスキルを強化すればシズクさんの千里眼と同じ力が得られると言っていたけど僕には信じられなかった。周りに誰も居ない状況で発動すれば真っ暗闇、尚且つ物質が見えないので何も出来ない。自分の部屋であればある程度勝手が分かるが外に出てしまえば使いようがない。どうやって強化しろっていうのさ。


「えぇ~だってシュテル達だろ?いつも嫌味ばっかり言ってるからバチが当たったんだよ。放っておこうよ」


「俺もポムに同意だな。それに中から開けるなと厳命されている」

「私もそう思う!」

 ポムに続きブランドンとフィーナも続いた。


「だけど・・・彼らも僕らの仲間だろ?僕は冒険者として、同じ冒険者が危機にあっていたら助けることが出来る冒険者になりたい。きっと父さんや、レッドさんも助けるはずだよ!」


「ふっ、カイが言いだすと聞かないからな。どうするポム、フィーナ?私はカイについて行こうと思うが」

 ブランドンがポムとフィーナに尋ねると。


「もう、しょうがないなぁ。これ食べ終わったら行くよ」

「そうね、カイの良いところはそういうところだもんね。私もついて行くわ」


「という事だ、俺達はお前について行く。一蓮托生だな」


「みんなありがとう。外に魔物の魔力は見えないから今のところ安全だと思う」

 僕は扉の安全装置を解除して外へ出た。するとそこには横倒しとなった馬車のみが見えた。馬は衝撃の弾みで固定金具が外れそのまま目的地に向かって行ってしまったのだろう。<深淵の地下迷宮>に馬だけ到着すれば、父さんたちも何か起こったと気付いて救援部隊を寄こすだろう。救援部隊が到着するまでの間、ここで待機していれば問題ないはずだ。


 僕たちは馬車に駆け寄り扉を開けた。中には折り重なるようにシュテル班のみんなが倒れていた。


「フィーナ!みんなの状況を確認出来るかい?」


「うん、確認したけど大きな怪我は無いみたい。今、ヒール魔法をかけるわ」

 フィーナが魔法を唱えるとシュテル達の意識が戻り始めた。最初に目が覚めたのはシュテルだった。


「う、うぅん・・・。どうしたというのだ・・・、たしか馬車が大きく揺れて、そこから・・・」

 シュテルは自分の状況を確認しているようだった。


「大丈夫かい、シュテル。ひとまず外へ出てこないと下のみんなが大変だと思うよ?」

 僕が言うと、シュテルは状況を把握したようだった。


「す、すまないみんなすぐに出るよ」

 シュテルの下敷きになっていたみんなの意識も戻っていたのだ。シュテルは顔を赤らめ馬車から飛び出した。シュテルに続きエルゼ、オットー、ホセも出てきた。


「良かった、みんな無事みたいだね」


「ふん、礼は言わないよ。もともと出てはいけない決まりになっているんだ。私たちは扉を外から開けてもらったから出た。ただそれだけだ、と教官には報告させてもらう」

 シュテルがそう言うと、エルゼ、オットー、ホセもそれに同調した。


「うん、それでいいよ。悪いのは僕だから」


「カイだけのせいじゃないわ。私も私の意志でカイに手を貸したの。だから私もカイと一緒に怒られるわ」

「ふっ、私も自分の意志で動いた。だから一緒だな」

「もちろん僕も一緒に怒られるよ」

 カイの後にフィーナ、ブランドン、ポムが続けて言う。


「それも、団長と知り合いで、所長の息子だから来る余裕なんだろうな。だが俺は知っているぞ、所長とは血がつながっていないことをな」

 シュテルが痛いところを突いてくるが、僕は動じない。今までの理不尽な環境から考えたら些細なことだった。衣食住が揃った生活が出来るだけでも幸せだからだ。


「ふん、それにお前の本当の父親はダンジョンで死んでいたそうじゃないか。大した冒険者ではなかったのだろうよ。それに団長の伝説だって本当かどうか怪しいもんだな」

 自分の事を言われることにはいくらでも我慢が出来た。だけど父親やギブソン父さん、母さんやレッドさん達の悪口を言われると我慢できなかった。実際に団長の伝説は凄すぎて想像がつかなかったが僕はレッドさんを信じていた。


「それ以上言うな・・・僕の事だけだったらいくらでも言うが良いよ。でも父さんや、団長の事をそれ以上言うなら・・・」


「言ったらどうなるんだい?私は世間で言われていることを言っているだけに過ぎない。これは一般の声だよ。だからいくらでも言うよ!お前の本当の父親は心半ばで死んだ半端な冒険者で、団長はモッチョ商会によってでっち上げられた広告塔だってね!」


 僕はシュテルに向かって走り出していた。どうしても我慢できなかった。僕と母さんの為を思って旅立っていった父親や、僕の母さんの才能を開花させてくれた団長、それを利用しているかの様にモッチョ商会までも悪く言ったのだ。誰が何と言おうとも抑えられるものではなかった。


「さぁ来いよカイ!主席のお前を倒して私がトップに立ってやるさ」


「うおぉぉぉ」

 僕は拳を振り上げる。


のんびり書いていきます。

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