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O2


「今日の訓練はここまで!各自足りない分は自己鍛錬で補うように」

 ガイ教官の訓練が終わり、各自の判断で行動する自由時間となった。僕はもちろんシーフの基本形を反復練習する。考えなくても体が勝手に動くようにするためだ。


「シュテルさん、カイの奴また残って練習するようですよ。ほんと目障りですよね」

「そうよ、あの子所長の子供らしいけど、すこし調子に乗っているんじゃないかしら」

「それに団長の知り合いだからっていい気になっているのかもしれないですね」


・・・全部聞こえているから。陰口なら聞こえないところでやってくれよ。僕は聞こえないふりをして練習することにした。


「私たちは自分の事だけ考えて練習すればいいのだよ。結果はそのうち分かるはずさ」

 彼ら取り巻きの中心にいたシュテルが答える。


 シュテルは貧民街の出身ではなく、グラス共和国の建国四王の遠い親戚らしい。貴族というやつだ。未成年組の4割が富裕層からのスカウトというより親のコネで入ってきた者達だ。しかしそこは雲の旅団、間違っても実力のない者は入れないようになっていた。だから才能があるのは間違いなかった。


「それもそうね。最終的にシュテルが首席を取るのは間違いないわよね」

「ちがいない。俺達貴族の実力を見せてやりましょうよ」

「そうですね。最終的に勝つのは我々です」

 さっきから陰口を言っているのは、順にエルフで金色のロングヘアのエルゼ、ホビットで細身のオットー、同じ人族で小柄なホセだ。


 彼らが居なくなるのと同時にフィーナ、ポム、ブランドンが現れた。


「カイも大変ね。貴族様に目を付けられちゃって」

「でも流石カイだね。僕ならすぐ喧嘩になっちゃうもん」

「だな、あそこまで言われると俺でも喧嘩になりそうなもんだ」

三人が気を使ってくれた。


「みんな気にかけてくれてありがとう。でも僕は、いや僕たちはこんなことには慣れっこだったろう?」

 貧民街の人達は打たれ強かった。毎日のように搾取され蔑まされる生活を送っていたのだ。


「「「そうだった、ね」」」

みんなが笑顔になる。


「それに僕には目標がある。僕と母さんを助けてくれた父さんに追いつきたい。あの時の父さんのような強い冒険者になりたいんだ」


「そこは団長じゃないのかしら?」

 フィーナが僕に言ってきた。他の二人も同じ顔をしている。


「レッドさんはすごいと思うけど。実際に本気で戦っているところを見たわけじゃないんだよ。僕の瞼に焼き付いているのは父さんの超速戦闘なんだ」


「実際、ギブソン所長はすごいと思うが、団長の伝説は聞いているだろう、それでもか?」

 ブランドンが聞いてくる。


「伝説が凄すぎて想像がつかないんだよ。だけど父さんの強さは見たから目標に出来るんだ。なんかうまく言えないけどね」


 カイは気づいていなかった。戦闘がどんなものか知らない未成年の時にギブソンの戦闘速度についていける眼が普通ではないことに。


「ねぇお腹すいたから、今日は早めに終わらせて夕食にしようよ」

 ポムは食べることが大好きだ。冒険者になるというより、食事が好きなだけ食べることが出来るという理由で僕たちについてきている節がある。7割食事3割冒険者って感じかな。

未成年組はつい最近4人PTに振り分けられ、常に4人での行動が決められている。だから食事、風呂、就寝はいつも一緒だ。さすがに女の子も居るので風呂は別だ。


「ポムゴメン、30分だけ待っててくれないか」

 そう言うと、3人は近くに腰かけ僕の練習を見ていてくれた。もう少しで適正試験が始まる。それまでに悔いの無いように頑張ろうと思う。


 それから1週間が経過し、適性試験当日となった。


「では、これより<深淵の地下迷宮>へ向かう。付近には高Lvの魔物が出るから勝手な行動はしないように。まずはFTでマーベア王のアジトまで行き、マーベア王の用意してくれた馬車で移動し現地集合とします。馬車に乗り込んだ後は到着するまで馬車からは降りないようにすること。馬車は特注で作られているため中に居れば安全です。では行動開始」

 ギブソン所長の説明が終わると各自FTを始めた。僕たちも列に並び神樹でFTする。着いた先には馬車が20輌用意されていた。馬車の定員は5名で手綱を引く人間は無く、馬が勝手に運んでくれるようだった。


「すごいよね、馬が勝手に運んでくれるなんて。これも団長の力かしら?」

 フィーナが驚き感心していた。


「どのくらい時間がかかるんだろ・・・中に食べ物あるかなぁ?」

 ポムが食べ物の心配をしている。


「早く乗り込もう。すでに他のチームは出発しているぞ」

 ブランドンが言うとポムとフィーナも急いで乗り込んできた。


 馬車の重扉を閉めると、外の音が一切入って来なくなっていた。窓は無く堅牢な作りの上、防音までされている要人用の馬車のようだ。

しばらくすると馬車が動き出した。乗り心地は最高で振動や突き上げ感もなく船に乗っているようであった。


「窓が無いと酔っちゃいそうだけど、この馬車には何かされているのかな。気分が悪くなったりしないや」

 僕が言うと、フィーナが目を瞑った。


「そうね・・・カイの言う通り、馬車の素材か何かに清浄作用の魔法がかけられているみたい」


「すこし魔力を感じるな」

 ブランドンも続いた。


 装飾品から母の魔力を感じたがそれは黙っておくことにした。


のんびり書いていきます。

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