カイ
O1
レッドがアストレムルへ旅立ち半年が経過したあたりまで時は遡る。場所はメルム王国、いやリティスの実家の近くと言った方が分かりやすいだろう。そう秘密基地がある地下訓練場だ。そこに一人黙々と素振りを続ける少年が居た。
「カイは良いよなぁ、団長と知り合いなんだろ?俺も団長と話してみたいよ」
やや小太りの少年が呑気に話しかける。名はポム、カイと同じく貧民街の出身で、カイの幼馴染である。
「誰かと思ったらポムか。だったら直に話せば良いじゃん。レッドさんは気さくでとても優しいから大丈夫だよ」
そう答えたのはシリカの息子、カイだ。
「カイは簡単に言うけど、あの赤い閃光の団長に近づくのは難しいんだから!取り巻きが多すぎなのよ」
ポムと呼ばれた少年の後ろから小柄な女の子が出てきた。名はフィーナ、彼女もカイの幼馴染だ。
「フィーナも居たのか。そんなに大変かなぁ?僕は普通に話せるけど・・・」
「「カイは知り合いだからだよ!」」
二人が口を揃えて言う。
「そうなのかなぁ?それより二人とも練習は良いの?」
カイが二人に答えると、更に一人近づいてくる者が居た。
「君と違って僕たちには拘りがないからな。今日の課題は終わったのさ。それに前にも言っただろう、お前にシーフは向いていないと」
エルフ族で子供にしては長身、名はブランドン。彼もカイの幼馴染だ。
「ブランドン・・・でも・・・僕は父さんと同じ職がやりたいんだよ・・・」
カイに才能が無いわけではなかった。才能だけで言うなら未成年組トップだった。ただ、実の父親と、養父の職業が同じシーフ系だったため、必然というかシーフに対する想いが強くなっていたのだ。
「あぁ、分かっているさ。でも何度でも言うよ、カイにはタンク職が向いている。しかも攻撃系のタンク職、ずばり戦士だよ」
ブランドンの性格は魔法使い系という事もあり、冷静な判断が出来るし、彼本来の性格も相まって思ったことは、はっきりと相手に伝えてしまう。それはカイも分かっていて、ブランドンに悪気はないことは理解していた。
「ポム、フィーナ、ブランドン・・・申し訳ないけどもう少しだけやらせてほしい。僕もこのままじゃダメだってわかっているんだ」
「カイの好きにやってみれば良いと思うわ。でも、実戦訓練の後にはきちんと決めてよね。私達はみんな、カイについて行くって決めてるんだから」
フィーナが言うと、ポムとブランドンも頷いた。フィーナが言う実戦訓練とは半月後に行われる初期ジョブ適正試験の事で、<深淵の地下迷宮>1Fで行われる。1Fフロアには低Lvの魔物しかいなく、尚且つ群れを成すことが無いため初心者でも安心してLv上げが出来た。だが未成年の為、安全を考慮し秘密基地所長のギブソン、訓練教官のガイ、モッチョ商会蘇生部隊とウッドのフィアンセでもあり冒険者育成担当マネージャーのミンクちゃん、雲の旅団からは非番で戻ってくるスカウト組エクストラジョブ隊のルチアが付き添うことになっている。
「みんなありがとう。実戦訓練の結果には従うよ。それまでは僕の好きなようにやらせてもらうね」
そう言ってカイが素振りを始めるのを見た三人は部屋に戻っていく。そのやり取りを窓越しに見つめる二人がいた。ガイとギブソンだった。
「カイは実父と同じジョブを目指すのか。視野の広さと身体能力の高さもそうだが、持ち前の性格からタンク職が向いていると言っているんだがな・・・」
ギブソンがカイを見つめながら誰に話すともなく語ると
「ガハハッ、カイは実父の戦う姿なんて覚えとりゃせんよ。まぁそれはちょっと言い過ぎかもしれんが、覚えているのはシリカとカイを助けた時のお前さんだわい。儂が言うのもなんだが、あの時のお前はピカイチじゃったからな。だからお前を目指しているんじゃよ」
その呟きにガイが答えた。
「私としてはレッド殿を目指してもらいたいんだが・・・。中途半端に終わった私などより上を目指してほしい」
「同意だな。訓練教官としての意見じゃが、戦士をメインにサブにシーフでも良いと思うんだがな。今のスカウト組の流行りはサブに召喚系だが、カイなら母親譲りの眼がある。それを活かして広範囲の視野、仲間の状態把握、シーフの速さを活かして先制攻撃と言う事無しなんじゃが・・・」
「私もそれに同意ですよ。憧れも大事ですが、カイには大事な仲間が出来た。適正試験次第では強制的に戦士を選んでもらうことになりますね。本当であれば、自分から冒険者に必要な覚悟に気付いてもらいたいのですが仕方がありませんね」
「それは所長としての意見かの?」
「もちろんですよ。父親としてならば好きな事をやってもらいたいです」
「だな。だがカイは利口じゃからの。自分から何が大事か気付くて。心配すんな、ガハハハッ」
ガイが豪快に答えるとギブソンも、それ以上悩むのをやめたようだ。外では先程と変わらずシーフの基本型を練習しているカイの横を訓練から戻ってきた将来の旅団員、ネクスト組が通り過ぎていく。
皆、何かを抱えて生きている。そのことを理解しているからネクスト組もカイに暖かい声援を送っていた。
「カイ!今日も一日素振りか?頑張れよ!」
「ガイ教官も鬼だからな!俺が教官だったら・・・うーん素振りかなw」
「それじゃ変わらないじゃない!ホントに脳筋なんだから。カイちゃん後でお姉さんが抱きしめてあげるから部屋においでね」
「俺も行っていいのか?」
「ダメに決まってるでしょ!かわいい子限定よ」
「僕、今日頑張ったのに・・・お願い」
「僕とかキモイわ、うっすらハゲが!かわいい子限定って言ってるでしょ!さ、いつまでもここにいるとカイ君が練習できないから部屋に戻るわよ」
ネクスト組も部屋に戻り静まり返った広場にカイの素振りの音だけが響いていた。
のんびり書いていきます。




