コンセプト
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翌日、早朝から測量を始めた。場所は城から少し離れた開拓されていない土地であった。近くには湖もあり、ザ大自然と言う感じの場所であった。少し離れたと言っても城の北側に3kmほど進んだ密林だった。湖の元となる水源には神樹があり俺達としては言うことなしの場所だった。
カインとアークが測量を終え、リーズたち魔法部隊に依頼している。例のやつね・・・今回はリーズだけではなく、数名で詠唱するようだ。
「では、魔法部隊以外の方は退避してくださーい!」
カインが大声で叫び、逃げ遅れが居ないのを確認した後リーズたちの魔法詠唱が始まった。4人は指定された建設予定地を対角線で囲むように詠唱をはじめ、残りの魔法部隊が4人を線で結んだ長方形のライン上で防御結界を張るようだ。
リーズたちの遠慮のない範囲魔法で綺麗さっぱり密林が無くなり広大な土地が姿を現した。案の定、アンラ・マンユ国から親衛隊が確認に来る騒ぎになったのは言うまでも無かった。そりゃ、あれだけ揺れればね。
「で、カイン。ここのコンセプトは?」
「ここは、水と緑に囲まれた癒しの空間を目指しています。レッドさんの荒んだ心も癒されること間違いなしです!」
カインが自信満々に言うけど、俺ってそんなに荒んでるかな・・・。やっぱ9番隊の件でやり過ぎたからなのか?
「あぁぁ、アリガトネ。俺の事気にかけてくれて。あとお願いなんだけどティアの専用別荘も作ってくれるか。サイズは俺達と同じサイズで頼むわ。小さいの作ると怒りそうだから」
「承知しました。ティアさんには素敵なツリーハウスを用意しますよ」
うらやまだな。憧れのツリーハウスなんてティアには勿体ないが、約束は約束だからな。
一方、LJ国でユリア姫と会談中のモッチョ氏は問題にぶつかっていた。
「足りません、全っ然足りません」
モッチョ氏がつぶやく
「ですね、このままでいくと緩やかな下降曲線を描くことになりますね」
ユリアも続いた。
「やはり、フィフスから移住者を募集して人口を増やす方向にもっていかないと駄目ですね。現在アストレムル全体のハイブリッド種が10万人、3国の生き残り15万人、ベリアル国でどの程度生き残りが居るのか分かりませんが5万人以上いるとは思えません。最低でも1国100万人以上を目指さないと、経済が回っていきません」
国民が居なければ国家として成り立たない。統治者一人、国民ゼロの国などないのだ。
「モッチョさん、私に出来ることがあれば協力します。何か打開策はありませんか?」
「そうですね・・・急激な人口増加が起こると食料問題が発生しますので、徐々に移住者を募らないとなりません。LJ国の食糧生産はどのような状況ですか?」
「現在のところ、食料自給率が100%を超えたところです。このままいけば半年以内で10万人分の余剰が出るはずです。100万人分を達成するには、あと2年は必要です」
「そうですか、となるとナーガ国や他の国も同じ状況と考えて、直近で40万規模の移住受け入れは可能になりますね・・・。各国の政務官とフィフスへ移住希望者を募りましょうか。どの国も人手は欲しいはずです。自国の特徴をアピールしてくれることでしょう」
「ですが、そう簡単に移住者が集まるでしょうか・・・?」
ユリアが心配するのも尤もだ。仮に移住してくれても、定着してくれなければ意味がない。仕事があり、食事もでき、賃金がもらえ、娯楽も無ければならない。問題は山積みだ。
「各国の政務官との調整になりますが、まず移住者の為の家を建設します。これはレッド殿からの知恵を拝借して一等地に公営の団地を建設します。移住者は実質家賃無料にし、仕事は私達モッチョ商会が仲介手数料なしで依頼することにします。娯楽や子供が生まれた場合の教育施設などもモッチョ商会が手配いたします」
「すでにそこまで考えていたのですね」
ユリアが感嘆した。
「ユリア姫、時は金なりですぞ。早急に各国に連絡を入れて動きましょう」
この時のモッチョ氏の顔はテカテカにアブラギッて笑顔だったと、後にユリア姫は語った。
場所はアンラ・マンユ国に戻る。
「さて、今回は木材がメインの家になるようだな。平地部分の木を伐採して建材にするか」
俺とウッドは採集を始めることにした。建設予定地の周りの平地部分にある木を片っ端から伐採していった。伐採した木はスラッシャー号など人形たちが運び製材して、建築は神樹開放後にFTしてきた建築部隊が行い、ひとまず俺達の仕事は終わった。
1ヶ月ほどアンラ・マンユ国に滞在し豪邸建設もひと段落した後、アスタロト国へ向かった。アスタロト国でも盛大な歓待を受けた。
カインはアスタロト国の豊富な鉱石を使用して頑強な豪邸をたてるつもりのようだ。土地柄火山活動が活発で温泉も出ているとの事で、各部屋に温泉をかけ流しで、見晴らしの良い場所に混浴の大浴場も作るみたいだ。
各国に大使館という豪邸が完成する頃には1年ほどかかった。あとから合流した1番隊カルロにはアスタロト大使館の守護兼大使を2番隊ベイロンにはアンラ・マンユ国大使館守護兼大使を任命した。
そして1年が経過した。
1年の間に色々な事があった。フィフス混成軍の増員と、それに合わせて装備のメンテナンスにシリカとボッシがアストレムルに来ることになった。シリカはカイとギブソンさん、ボッシは兄のガイと一緒にやって来た。シリカとボッシの弟子たちが成長したとのモッチョ氏の判断によるものだった。
それ以外にも移住者が流れ込んできた。当初40万人規模で募集したところ待遇の良さでフィフスのスラム全体から100万人以上の希望者が殺到したのだ。それ以外にも一山あてようと商魂たくましい商人たちが押し寄せてきた。
当初初めて見る魔族に恐れていたが、慣れと言うのは恐ろしいもので今では仲の良い隣人と接する感じだ。
そうなると悪い奴らも出てくるが、犯罪者の摘発率は99.9%を超えており、逃げ切ることは不可能に近かった。なぜなら、ハイブリッド種と魔族の混成警察が目を光らせ、逃げようものならシズクの千里眼で逃げ場所などなかった。残りの0.1%は危険地区に逃げ込んだ者たちが帰らぬ人、帰らぬ魔族となっている。この危険地区とはレイドダンジョンがある場所だった。
そんなこんなで残すところベリアル国のみとなった。
「そろそろ内政にも飽きてきたし、動きますかね」
ナーガ国の雲の家の俺の部屋には各隊の隊長が集まっていた。俺の言葉を聞いて隊長たちが隊員に連絡を入れ始めた。
あちらも軍備を増強しているのは間違いなかった。しかし、それは俺達も同じ。以前のようにはいかない。圧倒的戦力を見せてやる!
のんびり書いていきます。
土、日(16、17日)は投稿をお休みします。




