撤収
57
アンラ・マンユ国での戦闘は終わった。綺麗な庭園だった場所は大きなクレーターがいたるところに出来上がり戦闘の凄まじさを物語っていた。修繕は俺達の仕事ではないので無視で良いだろう。
「さて終わったことだし撤収するか。ベイロン達も一緒に帰ろう」
これ以上、ここでやることは無かった。
「団長・・・期待に応えられず申し訳ありませんでした。これも私が未熟な故、仲間を危険に晒してしまいました。何とお詫びしたらいいのか・・・」
ベイロンが俯きながら報告してくる。
「ベイロン、生きているって良いよな?」
「えぇ、仲間を失うことも無く良かったです」
「だったら何で下を向いているんだ。顔を上げろ。それが答えだ、帰るぞ」
誰も失うことが無かった。それで良いのだ。
「はい、団長!」
2番隊と9番隊のみんなが私の背を叩いて団長のもとへ走っていった。最後にマリルが来る。
「ベイロン、あんたカッコイイわ。団長はライバルが多いから、あんたの恋人になってあげても良いわよ」
そう言って笑いながらマリルが団長のもとへ走っていった。
「マリル・・・そうですね、考えてあげても良いですよ」
そう言って私も団長のもとへ向かった。
一方、アスタロト国では。
「んーーーーオカシイ、歯ごたえが無さすぎる・・・」
遠くから見ると岩にしか見えないが、ドワーフ族であるカルロが大地に腰を下ろし考え込んでいた。年齢は30代だがドワーフ族特有の立派な髭が年相応に見せていなかった。
「良いじゃないですか。誰もケガをしなかったんですから」
ヒーラーのアネットがカルロに答えた。
カルロの勘は当たっていたのだ。当初アンラ・マンユ国を選んでいたらサイレンが鳴っていた事であろう。
「ま、ここに居てもしょうがないから団長に終了報告入れて撤収するぞ」
カルロはそう言って団長に連絡を入れた。
(団長、こちら終了しましたぜ)
(おう、お疲れ、みんな無事か?)
(はい、けが人は出ていないです)
(そっか、今アンラ・マンユ国に居るんだが、一緒に帰るか?)
(なんで団長がそこに居るんです?)
(詳しい話はベイロンにでも聞いてくれ。来ないなら先に帰るぞ)
(いやいや、待っていてくださいよ。えぇとここからだと急いでも6時間はかかりますぜ。それでも待っていてくれるんです?)
(うーーーん・・・悪い、先に帰るわ!)
(ちょーーーっと!)
(うそうそ、迎えに行くよ。場所はアスタロト城の近くで良いんだな?)
(へい、城門の前で待機しときます)
(了解だ)
「おう、みんな、団長が迎えに来てくれるそうだ。少し時間がかかると思うから腹ごしらえでもするか」
カルロが携帯食料を取り出した瞬間であった
「お待たせ!」
突然の団長の出現にカルロは驚き携帯食料を落としてしまった。見渡すと団長だけではなくウィンド隊フリーダム隊2番隊~5番隊、9番隊の面々が揃っていた。
「一体どんな魔法で・・・・」
カルロは疑問に思いながら、更に周りを見るとアークの姿を見つけ納得したようだ。
「説明すると長くなるから帰ってからにしよう。全員アークへ魔力を流してくれ」
団長の指示通りアークへ魔力を流し込むと、辺りの景色が変わり始め、一瞬で見慣れたナーガ国へ帰ることが出来た。隣には血まみれのローブを纏ったベイロンが居た。傷は癒されていたが激戦だったことが分かった。
「ベイロン、お前ほどの男が手こずるやつというのは?」
「カルロさん、ひとまず雲の家に帰ったら話しますよ」
団長がモッチョさんへ報告するためナーガ城に向かい、俺達は雲の家へ帰ることになった。雲の家には1番隊から5番隊までと9番隊が集まっていた。
「で、ベイロン何があったんだ?」
カルロは先程と同じ問いをベイロンに問う。ベイロンは今後の為に、包み隠さず作戦開始からの出来事を事細かに説明した。ガープを実際に見ていない1番隊には信じられない話であったが、ベイロンの状況を見れば嘘を言っていない事は分かった。
「ベイロン、それは俺達がやっても同じ状況になったと思うか?」
「そうですね、カルロ達でも無理でしょう。それほどにソロモンの悪魔というものは恐ろしいです。団長の話では私達が戦ったガープと言う悪魔は最上級クラスだったようです。団長は男爵クラスであれば大丈夫だろうと言ってくれましたが油断は出来ない相手だと思いますよ」
「それほどまでか・・・まぁ考えても仕方ねぇがな。俺も団長達の戦いが見たかったぜ」
カルロは少し考えこんだが、直感で動く彼ならではの割り切り良さで別の話題に切り替えた。
「団長達の強さも次元が違いましたよ。今まで私達は個人技での連携を行っていましたが、団長達は連携というより合成・・・いや合体技と言うべきでしょうね。私達人類の弱点であるスタミナ問題を克服したものとなっていました。簡単に言えば低燃費高出力ですね」
「俺も、その点については策があるんだが聞くか?」
カルロがベイロンというか、その場にいたスカウト組全員に問いかけた。
「何か悪い顔をしていますが興味があるので一応聞いておきましょう」
ベイロンが話に乗ると、その場にいた全員が聞き耳を立てた。
「おぉ、乗るか。なら教えてやるぜ。以前、<深淵の地下迷宮>で軍を鍛えるって話は聞いているよな?それの護衛という形で随行して一から鍛え直そうと思っているんだ」
カルロの提案にその場にいた全員が納得してしまった。<深淵の地下迷宮>であればLv1から対応可能だからだ。
「カルロらしからぬ名案ですね。私達もそれに乗ることにしますよ」
ベイロンが言うと、9番隊のバットも同意し、その場にいた全員がその案に乗ることにした。
「らしからぬは余計だろ。それで順番なんだが立案の俺達が最初で良いか?」
「仕方ありませんが、それで良いでしょう。皆さんもそれで良いですね」
ベイロンが全員の了承を取った。
「よし、決まりだな。俺達は早速モッチョ商会へ連絡を入れて動くことにするぜ」
カルロ達1番隊は一息つくことも無く部屋を出ていった。その後も残ったもので戦力増強に関して話し合いが行われ、<深淵の地下迷宮>へは番手の小さい隊から行くことが決まった。
団長が隊員達の急激な戦力アップを知るのはしばらく先であった。
のんびり書いていきます。




