光弾
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「アーク、すまないな。ユリア姫の護衛中に」
やって来たのはLJ国ユリア姫の息子アークだった。
「いえ、母の護衛は姉に任せてきました。それで転移なのですが、僕の魔力だと10人が限界ですがどうしましょう」
アークの空間転移でアンラ・マンユ国へ行くために呼んだのだ。しかし魔力が足らないという事だったが、その問題も解消しているはずだ。なんせ俺の作った魔力プール付きの装備を装着してもらってアークに馴染んできた頃合いなのだ。俺達の魔力をアークの装備に流し込めば、装備がフィルターの役目をしてアークの魔力と同期し届けることで魔力不足を解消できるはずだ。ハイブリッド種とノーマル種の魔力の違いはこれで解消される。
「それは問題ないよ。これからそれを証明してやるから。みんなアークの装備へ魔力を流し込んでくれ。神樹へ流すのと同じ感じで良いから」
そういうと皆が魔力を流し始めた。
「どうだ?行けそうか」
俺がアークに言うと驚いた顔で答えた。
「すごい、なんて魔力量だ・・・これだけの魔力があれば何でもできる気がしてくる。いける、いけますよレッドさん」
「そいつは良かった。じゃ、飛ばない者は離れていてくれ。俺達は戦闘態勢を維持。アーク頼めるか」
「はい、少し待ってください・・・洞窟の外の記憶を呼び出します・・・見えてきた。皆さん行きますよ!空間転移!!!」
一方アンラ・マンユ国では
「よし、魔物の大半は片付けましたね。では皆さん掃討戦に移りましょう」
ベイロンは9番隊と隊員に指示を出し周囲を警戒する。
(先程から嫌な気配がしますね・・・気のせいなら良いのですが)
大勢は決したはずなのに魔物の士気は一向に下がらず、むしろ死に物狂いで向かってくるのだ。
「皆さん、何やら嫌な予感がします。慎重に・・・」
その後の言葉を発しようとした時、皇騎士のホラントがベリアル軍の後方からの光弾によって吹き飛ばされたのだ。
「ぐはぁ・・・」
皇騎士のホラントだから即死は免れたが、瀕死の状態だった。すぐさまエディタとスエラが治癒魔法をかけ、何とか立てるところまで回復した。
「どうやら、敵後方にやばいのがいるようです。皆さん散開せず集まってください。先ほどの攻撃は簡易バフなど意味がない様です。集まって多重結界を張ります。これ以降9番隊は一時的にですが私の指揮下に入ってもらいます」
「了解です。9番隊は、これよりベイロン隊長の指揮下に入ります!」
バットが9番隊の意思として口頭で告げる。暗黙の了解など無いのだ。あとになって言った言わないが無い様にきちんと言葉によって伝えたのだ。
スカウト組の隊長は全員が同格であるが、緊急時等には数字の小さい隊の隊長の指示に従うように決められていた。
(団長が装備を更新してくれなかったら、ホラントは即死していましたね。団長に感謝ですね。しかしこの状況を打開するには・・・)
ベイロンの頭脳が打開への道を探したが答えが見つからない。先ほどの一撃がすべてをひっくり返したのだ。格下であれば各人で対応できるが、上位の魔族であるなら隊で戦わなければ対応できない。しかも先程の光弾を放った魔族・・・いや、悪魔は2番隊と9番隊合わせても対応できるものでは無かった。
「来ますよ!多重結界、防御フィールド展開して下さい」
ベイロンがそう言うと全員が持てる防御魔法やスキルなどを展開した。
物凄い衝撃がベイロン達を襲う。
直径30cm程度の光弾であるが、威力は広範囲魔法デストラクションと同等かそれ以上であると言えば分かるだろうか。全員が何度も結界や防御フィールドを再構築する。攻撃できる余裕などまるでなく防御に徹するしかなかった。
(このままだとまずいですね・・・あちらの魔力量は底がしれない。それに引き替え私達の魔力はこのままいけば尽きます。悪魔の光弾に絞って防御を集中すれば魔力を温存出来ますが、配下の魔族が残っている中でそれは無謀・・・)
ベイロンが打開策を考えている間にも、光弾が定期的に襲ってくる。隊員たちは必死に防御をしている。その目はベイロンが打開策を打ち出してくれると信じていた。
(光弾が撃ち込まれる間隔は分かりましたよ。それが詠唱時間と考えれば、その間に撃てる魔法なら効果がありそうですね。まずは配下の魔族を減らさないとタイマンにすら持ち込めませんから、そちらを何とかしますかね)
ベイロンは光弾の間隔を見極め、カインさんから渡されていた特殊なオーブを取り出し、襲い掛かってくる配下の魔族へ投げ込んだ。すると投げ込んだ場所から大きな爆発が起こった。これはカインが魔力コンデンサ用の結晶を改良して事前に術者が魔法を封じ込めることが出来る魔法手榴弾とでもいうものだった。オーブに込める魔法の種類や魔力量などによって効果は様々だった。但し試作段階なので限られた数しか持っていない。
「隊長、何ですかそれ。私も欲しいぃ~」
マリルがこんな時にも場違いな発言をしてくるが、ベイロンはそれが何よりも心地よかった。
(マリル、あなたはいつもそうやって仲間の不安を取り除いてくれましたね。今までありがとうございます)
「これはですね、秘密ですよ。そんな事より、また光弾が来ますよ!私が残りの配下を倒すまで辛抱して下さいね」
全員の士気が再び上がるのを感じることが出来た。
(最後のオーブ手榴弾で雑魚は一掃できそうですね)
すべての配下を一掃することができ、光弾を撃ってくる悪魔の姿が見えてきた。そこにはマッパにグン〇の白ブリーフ、高級なガウンを羽織り、頭には王冠、片手に錫杖を持った、見た目7歳ほどの少年が立っていた。まるで裸の王様の子供版だ。
「まったくふざけた外見ですね。そのなりで格上とは・・・。皆さん油断しないように」
ベイロンはやっとタイマンまで持ち込めたことに安堵した。しかし、これから、どのように攻略していったら良いのかまるっきり思い浮かばないのだ。結局のところタイマンまで持ち込んでも、防御しかできないことに変わりはなかった。
(困りましたね。しかしやれることはまだあります。諦めたらそこで終わりですから)
ベイロンは自分自身を奮い立たせた。
のんびり書いていきます。




