密談
16
街の門を通るのに時間がかかる。何故かと言われれば、街を出る時と同じ衛兵が門番をしていたのだ。顔見知りなのだが、出る時に居た仲間が一人も居ない事を不審に思ったのか別室に連れていかれたのだ。
「ですから、仲間はダンジョン攻略していて私は装備を新調するために一人戻って来たんですよ。何ならダンジョンのセーフエリアの衛兵に確認して下さいよ」
他の国で仲間殺しの犯罪があったとの事で街の出入りには厳しく対処するよう通達があったようだ。
「うーん、だよな。お前がそんなことするようには見えないが一応確認はさせてもらうぞ」
衛兵も職務なのでしょうがないと言えばしょうがない。俺は黙って確認が終わるまで待つことにする。
暫くするとダンジョンセーフエリアの衛兵と連絡がついたようで釈放された。いや捕えられた訳ではないから解放されたかな?
やっと街の中に入れたので、遅れた分を取り戻すため急ぎ裏路地へ入り、いつもの様に変装してモッチョの店に入った。
「いる~?」
受付のお姉さんに声を掛けると奥からモッチョが走ってくる。
「お待ちしておりました。ささっ、こちらへどうぞ。」
応接室に連れていかれる。
「本日はどういった御用で?」
「素材について聞きたいんだけどさ、コテージに使われている魔晶石と、モッチョから貰った指輪の魔晶石って一緒の物か?」
「一緒の物かと言われれば一緒です」
なんか含みがあるな。
「が、魔晶石の必要数がコテージの10倍必要らしいです。おのずと値段も10倍という」
量の問題なら何とかなるな。
「あ、そんなことか。なら大丈夫だな。」
「なんと・・・魔晶石を集めるのは意外とお金がかかるのですが」
だって、岩掘れば出てくるし、魔物倒したって出てくるし、俺的に採掘で魔晶石はハズレ扱いだからな。
「あと、倉庫って借りられるの?」
「はい、ファング殿であれば弊社の倉庫を無料でお貸しします。警備及び商品の保証も無料でやらせていただきます。」
「ギッシュ、ほんとに良い奴だな!」
おっと、心の声が出てしまったようだ。
「そ、そのギッシュというのは何でしょうか?」
「あ、ああ、これは最近流行っているスラングでラッキーって意味ですよ。忘れてくれ」
「そのような意味が。であれば私共もファング殿に出会えてギッシュであります」
「・・・・・・モッチョさん。ギッシュは忘れましょうか」
何となく申し訳ない気持ちになってしまった。
「ファング殿が言うのであれば忘れましょう。でもギッシュって語呂が良いですね」
意外と気に入ったようだが複雑な気持ちだ。
「あとね、移動に歩きって疲れるんだけど、馬っていうかマウントというか、どこで調達するの?」
実際には疲れないんだけど、雰囲気的に必要じゃない?
「この街にも馬舎があるので、そこで契約すれば可能です・・・がオススメは出来ないですね」
「なんで?」
「地方都市の馬舎の馬レベルは地方並ということです」
「そうか。流通品のレベルを考えるとそうだな」
「幸いなことに、この街の北部、障壁付近に野生の馬の生息域があります。そこで捕獲する事ができれば良質な馬を手に入れることが出来ると思います」
「お!いいね。今度行ってくる。」
「しかしファング殿、最近北部地域でのゴブリン被害が多数報告されています。十分お気を付け下さい。」
「ふーん、ゴブリンねぇ・・」
ゴブリンのレベルは12~15位だったな。100匹単位でいたら苦戦というか、激闘になりそうだな。あいつらいつも徒党を組んでるし。カンストしていたら範囲技一発で瞬殺できるゴミなのに面倒だな。まぁ何とかなるか・・出会わなければ良いのだ、と色々と考えていると視線を感じたので顔を上げるとモッチョがこっちを見ていた。
「あと、なんかあったような気がするんだよな?」
「何でございますか?」
「年かな?最近物忘れがひどくてさ」
「ファング殿、ご冗談を。私と同じくらいの年齢なのは仮面越しでも分かります」
俺・・・中身56なんすよ、とは言えない。
「それなら、リラックスするために紅茶にブランデーを多少入れたものを用意させましょう」
モッチョがお姉さんに指示を出している。うーん・・・モッチョ、お姉さん、お酒・・・
・・・キャバクラ?!
「!!!」
思い出した。
「モッチョ氏、人払いを」
「ははっ、お前たちは外で待っていなさい」
秘書2人が出ていく。
「思い出しましたか。で、どういった御用で。」
「俺って若いじゃん?もしハニートラップに引っ掛かると大変じゃん?」
「ですな。弊社としても大損害かと」
「そこで、事前に耐性つけるためにそういうお店に行きたいんだけど、どう?」
「そうですか。それならばモッチョ商会傘下のお店があります。そこでなら気兼ねなく遊ぶことが出来ます。しかも5国すべてにありますので安心して下さい」
「おぉ、さすがモッチョ。頼もしいな」
「して、初級、中級、上級有りますが如何いたしますか?」
「その分類って何?」
「初級ですが、こちらは美女と楽しくお酒を飲みます。中級はお客様のイメージでの行為、上級は想像にお任せします」
ほほーキャバクラ、イメクラ、新町・吉原という感じかな。
「モッチョ氏、初級からで」
「では、今夜あたりどうでしょう?」
「それで、頼む!」
笑顔でがっちりと握手した。
「あとなんかあったような気がするけど、思い出したら来るわ」
「承知しました。では今夜お会いしましょう」
俺は頷き足取り軽く商会を出た。
のんびり書いていきます。