覚醒
40
俺は、雷撃魔法を打ち込んできた魔族の方を見る。
「感動の兄妹の再会に水を差すのは、どちらの魔王さんの配下さんですかねぇ!」
当然、答えるわけがないのは分かっていたが聞いてみた。
「ナーガさんのお知り合いかな?」
一応ナーガにも聞いてみる。
「儂は知らぬぞ。この日の為に配下の者には、赤いアクマに手を出すなと厳命しておる。それに儂はお主の恐ろしさを十二分に知っておるからの」
だから、アクマじゃないっての。まぁ素材目的でナーガを討伐周回して最後の方は仲間とタイムアタックするくらいに狩ってやったからな・・・・今思うと申し訳なかったかも。
「じゃ、あれは関係ない魔族という事で、こちらの好きなようにして構わないか?」
「もちろんじゃ、こんな大事な式典に水を差す輩など、好きにしてくれて結構じゃ」
「じゃ、遠慮なく狩らせてもらうぜ。みんな、ちょっと試したいことあるから俺に任せてくれ」
皆が頷くのを確認し、魔力を練っていく。俺の体が金色のオーラに包まれていく。それはどんどん大きくなり、ナーガ陣営の者も包んでいった。ナーガ配下の者が後退を始めるがナーガがそれを諫めた。
「赤いアクマを信じるのじゃ」
アクマを信じろってねぇ?しかし、そう言われたらしょうがないので配下の者も覚悟を決めて目を瞑った。
「ウガァァ、アァァ・・」
金色のオーラに包まれた瞬間、アークが苦しみだした。俺は何事かと思い魔力の放出を止めた。シズクと月花がユリアに支えられたアークの容態を確認する。俺もミリアに防衛の命令を出しアークの所へ向かった。その間に雷撃魔法が再度放たれたが、こちらの結界を破ることは出来なかった。
俺がアークのもとへ行くと、それは始まっていた。そう覚醒が始まっていたのだ。幼かった体が急激に成長し、父親譲りの頑強な体に、顔はユリア似の美少年から美男子に父親譲りのウェーブのかかった長髪で潜在的な魔力は姉2人を凌駕していた。もちろん服などは破けてしまっていた。
「おい、どうなんだ?大丈夫なのか」
俺はシズクに聞くが、代わりにアークが答えた。
「レッドさん、心配かけました、僕は大丈夫です。レッドさんの邪魔をして申し訳ありませんでした」
無事に覚醒は済んだようだった。
「そうか、何事も無くて良かったよ。覚醒祝いにこれをやるよ」
俺は、作り置きしていた近接用の装備を渡した。いかにも計ったようにぴったりなサイズであった。等級はゴッドなのでそれほどでもないが、裸でいるよりはマシだ。アークはとても喜んで装備を着込んだ。
「こんなに素晴らしい装備を有難うございます。一生の宝物です!」
アークが喜んでいると、2人の姉からは嫉妬の眼差しが向けられていた。セリーヌとイレーヌにも後で作ってあげると約束し、その場は落ち着いた。
「レッド!言われた通りに防衛しているけど、あいつ懲りずに雷撃撃ち込んできてウザイんだけど。あたしが狩ってもいいかしら?」
ミリアに言われ、すっかりそのことを忘れていたことに気付き、許可を出そうと思い口を開きかけたところに
「ミリアさん、その役目、僕にやらせてくれませんか?」
アークがミリアに許可を求めた。これにはミリアも困った感じで俺に確認を取ろうとするが、俺も困ってユリアに確認を取る。するとユリアもどうしようかとデッドラインに確認を取った。
「okですが、十分気を付けて下さいネ。まだ、力に順応していないからネ」
デッドラインがアークに許可を出した。
「分かったよパパ。今まで迷惑ばかりかけていたからね。見ていて、これが僕の新しいスキル・・・空間転移」
そう言うと、俺達の前から姿を消したと同時に断末魔の叫びが上空から聞こえた。俺達は雷撃魔法を打ち込んでくる魔族を見上げると、背後から魔族の胸を貫く腕が心臓代わりの核を握り潰すのが見えた。
「パパ、ママ、見てくれた?これが僕のあ・・・た・・・・」
魔族と共にアークが空から落ちてくる。真っ先にユリアが飛び上がりアークを受け止めた。
「馬鹿な子ね。あれだけパパが気を付けなさいって言ったのに。でも、よく頑張ったわね。ゆっくり休みなさい」
空間転移に膨大な魔力を吸われたせいで、一時的に魔力不足になり気を失ったようだ。その場にいた全員が、大事に至らず安心したと安堵の表情を浮かべた。
「どうじゃ、今後の計画を含め、我が城でゆっくりとしてゆかぬか?大した馳走も出来んがの」
ナーガが、今後の復興計画を含め、合同での協議を提案してきたので、俺達はその提案に乗ることにした。
ナーガの城は、俺の記憶するザイド城と変わりがなく懐かしさでいっぱいになった。
「兄貴、そういえば試したいことって、何をしようとしたっすか?」
城の中庭を懐かしく見ていると、ウッドが聞いてくる。ミリアやサーラ・・・全員が聞きたそうに俺を見てきた。その前に思い出したことがあったので確かめることにした。
「ちょっと待ってくれ。確かここに神樹があったはずだ。周りを探してくれないか?」
俺は、神樹の事を思い出し中庭を捜索してくれるようにみんなに頼んだ。するとシズクが中庭の噴水の中にあった神樹を探し当てた。水は綺麗に透き通っており、毒等の有害なものは含まれていないようだった。それはイコール、神樹の機能が宝珠で封印されていない事を示していた。神樹の聖属性で水が浄化されている証拠だった。人間の為の飲料用にナーガが封印を解いたのだろう。
俺は水に手を入れ、神樹をアンロックした。それを見たみんなも神樹をアンロックした。これで、この地域でもウォーホースが飛べるようになった。
「よしっと、で何だっけ・・・あぁ、あれね・・・アークがやったことをやろうとしたんだよ。俺のはアークの劣化版になっちゃうんだけどな」
皆が興味津々に耳を傾けた。
「劣化版ってなにが違うんすか」
「アークのは完全に空間から空間へ瞬時に飛ぶんだけど、俺がやろうとしたのは、自分の魔力で満たした空間を限りなく光の速度に近い速さで移動するんだ。アークは見える範囲か、能力が磨かれれば見たことのある場所まで飛べるだろう。対して俺のは、自分の魔力で覆えることが出来る場所限定なんだよ」
自分の魔力が届く範囲限定だ。最終的には半径1kmまで広げたいが無理だろう。この先いくら頑張っても半径500mが限界だろう。
「そんなことしなくても、兄貴の速さについて来られる奴なんていないじゃないすか。わざわざ無駄に魔力を使わない方が良いと思うっすよ」
「まぁ、そうなんだけどな。ちょっと実験したかったんだよ」
ウッドの言うこともそうなのだが、戦闘においてスピードは大事だった。肉体がある以上、戦闘速度は頭打ちになる。光の速度での戦闘を考えたら、その速度に耐えられる空間を作るか、魔力や装備に細工をしなければならなかった。もし、質量をゼロにして、魔力によって亜光速や光速、果ては超光速に到達できれば、もはや無敵かもしれない。それでも時間のずれが生じない空間転移の方が強いと思うけどね。転移についてはカインに相談してみるか。
のんびり書いていきます。




