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人間狩り

24


「何で父さんや母さんは平気なんだよ!俺は絶対に諦めないぞ・・・妹を守ってみせる!アレシア俺について来い」


「お兄ちゃん、私はもういいの。16年間幸せだったわ」

父と母は泣いているだけだった。妹が攫われるかもしれないのに何もしない両親に失望していた。

家の外では人間狩りが始まっており阿鼻叫喚・・・・まさに地獄だった。

俺は妹の手を取り裏口から外へ出た。


「まだ、ここは大丈夫そうだ。とにかく見つからないところへ行って隠れよう」

都市に配置されたガーゴイルの像が動き回っている。妹が強く俺の手を握り返す。


「俺の命に代えてもお前を守るから安心しろ」

俺は20年間生きてきた中で何度も人間狩りを目撃し、ガーゴイルには死角がある事に気が付いていた。妹の手を取りガーゴイルの死角を掻い潜り都市の外れにある農具が収納されている小屋に逃げ込んだ。


「ガーゴイルは都市内にしかいないから、ここなら大丈夫だろう」

俺は茣蓙を妹に被せ農具でバリケードを作った。今日を耐えれば妹は連れ去られずに済む。都市の方からは未だに叫び声が聞こえてきていた。


この時の俺は気が付いていなかったんだ。ガーゴイルが空を飛んでいることを・・・


夜になり、辺りが静かになってきた。

「アレシア大丈夫か?あと少しで明日になる。もう少し我慢してくれ」


「うん、大丈夫。お兄ちゃんお願いがあるの」


「何だ?」


「手を繋いでいてくれる?」


「おう、いいぞ」


「お兄ちゃんの手は大きくて暖かいね。安心する」


「絶対にアレシアを守ってやるからな!」


「うん、お兄ちゃんありがと。でも無理はしないでね」


「お前にためなら無理でも何でもするさ。いつか絶対にこの街を出るんだ。そして希望の地へ一緒に行こう。約束だぞ?」


「うん、約束ね」


突然、地響きがしたかと思う間もなく、小屋の外装がすべて吹き飛んだ。何が起こったのか分からなかった。気が付くとガーゴイルが妹を抱えていた。


「妹から手を放せぇーーーーーーー!」

俺は鍬を手にガーゴイルに飛び掛かった。

確かにガーゴイルに鍬が当たったが、傷一つ付けることが出来なかった。何度も何度も鍬を叩き込むがガーゴイルは振り向きもせず、気を失った妹を抱え歩いていく。


俺はガーゴイルの前面に回り込み鍬を振り上げた。その瞬間意識を失ってしまった。ガーゴイルの腕が進路を妨害していた俺を振り払ったのだ。たったそれだけだった。


気が付くと、暗い洞窟らしい場所だった。


「ここは・・・・」

体を起こそうと地面に手をつくと激痛が走った。自分の体を見ると胸と腕全体が紫色になっていた。内出血のせいだった。ガーゴイルにとってはうるさい蠅を振り払っただけなのだろうが、俺にとっては致命傷一歩手前だった。


「まだ少し休んだ方が良いかもしれません。私は治癒魔法が得意ではないので、こちらのポーションを飲んでください」

渡されたポーションの一気に飲んだ。すると紫に変色していた部分がもとに戻り、痛みが引いていった。


「済まない、ありがとう。妹を助けに行きたいのだが出口は何処にあるんだ?」


「すでに人間狩りは終わっていますよ。多分ですが妹さんは別の場所に・・・・」


「・・・・ウアァァァーーーーーチクショーーーーーーッ!!!!俺は何もできなかった・・・何もできなかったんだ!!!」

最後に握った妹の手の感触やぬくもりが残っているような気がした。その感覚が更に俺を苦しめた。


「グゥアァァァァーーー」

洞窟の壁を拳で殴る・・・何度も何度も殴った・・・・


「もういいでしょう?」

俺を助けてくれた女性が止めようとするが俺はやめなかった。妹を守れなかったこと、自分がいかに無力かということ、この世界の理不尽さに殴る事を止めることが出来なかった。


「あんたに俺の何が分かるんだ!」

振り向きざまに叫ぶと、頬に痛みが走り少し冷静になることが出来た。どうやら彼女に頬を叩かれたようだった。


「分かりますよ!私も自分の無力を感じましたから」


「・・・・あんた名前は」


「私はユリア。大反攻作戦総大将ユリア・デューラー」


「ハッ、そんな話を信じろと?太古の人間がいまだに生きているわけがないだろうが。それに夢物語の大反攻作戦自体あったかどうかも分からないだろうが!」


「・・・・そうですね。時間というのは恐ろしいです。しかし、確実にあったのですよ」


「だったら、なんで妹を、俺達を助けてくれないんだ!」


「少数を助ける事は出来ますが、それが原因で都市に制裁が加えられ全滅する可能性も考えられるからです。まだ今はその時ではないのです」


「ふざけるな!もともと助ける気なんかないだろ!」


「いつの日か金色の英雄が現れます」


「それも夢物語で、本当に居たのか分からないだろ!」


「確実に居ましたよ。それも沢山ね。夢のような時代があったのは確かです。もし、金色の英雄が現れたならば、あなたのもとへ参ります」


「現れなかったら?」


「会うことは無いでしょう」


「分かった・・・・俺は何をすればいいんだ、つまりはそういうことだろう?」


「来る時のために都市の住民を纏めるのです」


「・・・・やってみるよ。救えなかった妹の代わりに、都市の住民の為に出来ることをすべて」


「では、目を瞑ってください」

言われるがまま、目を瞑ると意識が途絶えた。

気が付くと都市の田園地帯で横たわっていた。遠くに俺を探す両親が見えた。


「リボース・・・お前まで居なくなったら私達は・・・・」


「父さん、母さん、俺は妹を守れなかったよ・・・・本当にごめん」


「お前だけでも無事だったならそれで良いんだ、それでいいんだよ」


それから俺は、都市の住民の為に出来ることすべてを、がむしゃらにやって来た。妹の事を思い出さない様に自分の心を殺して・・・・

希望が大きいと比例して絶望も大きくなる。だったら小さな希望も抱かず、何も考えず目の前の事をこなすしかなかった。だが心の何処かに引っ掛かっている言葉があった。


金色の英雄


のんびり書いていきます。

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