夢その1
12
睡眠をとらなくても大丈夫な体になって嫌な夢を見なくて済むようになったのは良いのだが、夢自体を見ることが無くなっていた。眠る瞬間暗闇に落ちてそのまま意識が無くなるのだ。経験ある方は分かると思うのですが全身麻酔をかけた時の感覚に似ていると思う。自分の意思とは関係なく落ちていく。
そんな眠りの中、俺は息苦しさで目が覚めた。俺は子供の時からうつ伏せで寝ないと熟睡できなかったのだが背中に誰か乗ってるようだ。涎が首元を伝ってシーツを濡らしていた。うーん誰だ?・・・起こすのは可愛そうなので、ゆっくりと寝返りをうち、下へ降ろす。確認するとシズクだった。寝顔が可愛いなと眺めると、肌着がはだけて大事なお胸が見えちゃってるじゃん!ラッキーと思ったが、慌ててタオルケットを掛けて、静かに外へ出た。
「ふぅ・・・精神を鍛えねばな」
ラッキーと思っている自分に驚く。体が若くなると心も若くでもなるのだろうか・・・。悪いことでもないしまぁいっか。それにしてもシズクさん成長してましたよね・・・魔力の力で成長が早くなっている?そんなことあるわけないか、考えすぎだな。
「兄貴も大変すね、コーヒー淹れたのでどうぞっス」
「おぉぅ、居たのか。ありがとういただくよ。」
急に声を掛けられて少し驚いた。ウッドがお湯を沸かしてコーヒーを淹れ終わり渡してくる。俺がコーヒーブラック派なのを知っていてくれたのか砂糖やミルクは入っていなかった。入っていると後味がなんか嫌なので緑茶感覚で飲んでます。
「ウッドは何でこんな早くに起きてんだ?」
「兄貴の武器が凄かったので、少し工夫して何かできないか動いてたんすよ」
一瞬お前ウッドか?と失礼なことを考えてしまったが、まじめに語るウッドを見たら、そんな感情は消えていた。
「そう言ってくれると生産者としては嬉しいよ。質問なんだが、ウッドは何で冒険者になったんだ?」
「そうすね・・・兄貴は冒険者になるにはどうするか知ってるっすよね?」
「ギルドに登録する、だよな?」
「俺たちの国ではもう一つあるんすよ」
「ほほぅ」
「冒険者って死ぬ可能性が高いじゃないっすか。俺たちの国では死亡率を上げないために魔力の素質が有るものに限るって法律があるっス」
より力のあるものに限定すれば、おのずと生還率はあがるわな、と納得。良い国じゃないか。でも、そうなると可能性が摘まれることにならないか。素質が無ければ、普通の村人で人生が終わるってことだよな。難しい問題だが、国がそう決めたのならしょうがない。嫌なら議員になって法律改正をするか、国を出て外国籍を取ればいいのだ。間違いなく後者が楽だろうと思うが、この世界だったら俺は違う方法を取ると思う。
「俺たちは首都から離れた村で育ったっす。裕福ではなかったけど普通に生活できるレベルっす。そんな村での唯一の楽しみは冒険者達が語る英雄譚ス。それだけが村での子供たちの楽しみだったっス」
そうなるわな。テレビもスマホもないからね。
「ある時、村に立ち寄った冒険者が、俺たち兄妹を見て魔力の素質があると言ったんすよ。」
「俺には英雄になんてなれないって思っていたのですが、せめて両親と妹には楽させてやりたくて、ギルドに登録して今に至るんすけど・・・」
「・・・ど?」
「妹までついてきちゃったんすよ。そのせいで稼ぐ事と、妹を絶対に守るって難しい仕事が増えたっす」
「だから、柄にもなく練習したりしてるっす」
スゲーいい奴じゃん!でも間違いがあったな。
「ウッド。英雄になれないって言ってたよな?でもお前は村の子供達から見たら、もうすでに英雄だぞ。胸を張れよ。」
何も魔王を倒したものが英雄ではないのだと俺は思っている。低Lvのダンジョンを攻略するだけでも、子供達には英雄なのだ。推奨Lv16のダンジョンだって、村人が行ったら瞬殺されるほどなのだ。
「アニキ・・・」
うるうるしているようだ。
「あと親に仕送りしてるのか?足らないなら1500万G位ならすぐに融通出来るぞ?」
「!!!って、何言ってるんすか。そんな大金・・・。」
少し考えてから
「兄貴はやっぱり格が違うっす。村の1家族の年収なんて100万Gに届かないくらいっす」
「それを1500万って、凄すぎて笑いが出るっす。最近の村では天候の乱れもなくて収穫も安定しているみたいなので大丈夫っす」
「そうか、ならいいんだ」
間を開けてから
「ウッド、これはまだ誰にも言っていないことなんだけど秘密を守れるか?」
ウッドが生唾を飲み込み頷く
「俺は、5国の首都すべてに家を買うと決めている。もちろん皆に住んでもらうためだよ」
「それにみんなの家族にも住んでもらおうと思ってる。もちろんウッドの両親もな」
「首都で家って・・・大体4000~5000万位するっすよ?」
甘い、甘いよウッドよ。
「家って言ったけど屋敷に近いかな。大体一軒100億を5つだ。俺の夢はでかいんだよ」
言葉を失っているな、ふふふ。
「リティ姉が兄貴についていくって言いだした時は驚いたけど、何かを感じたからなんすね。今なら自分にも何となくわかるっす」
「俺は、仲間と楽しく暮らしたいだけだよ。だから今は走り続ける。メンドクサガーリだから止まると満足しちゃいそうだしな」
笑って言う。
「俺たちの事、よろしくお願いするっす。あと兄妹だからわかるんすけど、リズも兄貴を慕っていますよ。」
「そっか。PTで嫌われてたら戦闘が大変になるから助かるな」
「アニキ、慕うって好きって事ですよ?兄としてアニキとなら許すっす」
「ちょ、お、おまえ、何を言ってるんだ?」
「と言うことで宜しくっす」
はぁ、何て答えたら良いのかね・・・無難で行こう。
「善処します」
ウッドが笑ってる。俺も笑った。今日も良い一日になりそうだ。
のんびり書いていきます。
読んで下さる方に感謝です。