ゴール、そして
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歓声の中、真っ二つになったケルベロスの遺骸から白い靄のようなものが現れ、全員が身構えた。
「これを見ているということは、契約の魔物が倒されたということですね。安心して下さい、私はあなた達に危害を加えません。一方的に話をするだけですので」
全員に話を聞くように促すと全員が武器を収め話を聞き始めた。
「まず、なぜこのような事になったのかを話します。私達はもともとアストレムルという世界に居ました。しかし、突如世界の救世主と言うべき金色の英雄が姿を消し始めたのです。いくら調査しようにも原因が分からなかったのです」
どんなMMOにもいつか終わりが来るからな・・・・そりゃサービス終了が近くなれば課金やめて他に移るよ。
「最初は問題がなかったのですが、時が経つごとに問題が増えていきました。そうです魔物と魔族の台頭です。金色の英雄が自浄作用となり世界の均衡を保ってくれていたのですが、姿を消したことにより魔族の侵攻が始まったのです」
まぁ全盛期はレイドもリポップ待ちで狩りまくっていたしね・・・やらなくなれば魔族も増えてくるよね。
「英雄たちが住まう特別区も調査しましたが、誰一人としていませんでした。魔族の侵攻を防ぐために、特別区の英雄の住居に残っていた最先端の武具を回収し、魔族に対抗しました。最初はそれで対抗できたのですが、徐々に人類側が押され始めました。」
通常の魔族なら問題ないだろうけど、ボスクラス来たら無理だろうよ・・・・
「そこで、世界に5つ存在した最強の集団、五天クランの住む土地へ行き武具を調達しようとしましたが五天のクランメンバーしか入れない強固な扉を開けることが出来ず断念しました」
まぁ、そのうちの一つがhopeだよね。そりゃ開ける事なんて出来ないし、開けたとしてもレイドボスのサキュバスを倒した時にもらった戦利品ミニサキュバスにメイド兼警備やらせてるから、そいつに瞬殺間違いなしだろうね・・・
「最後の手段として、この世界の創造主である神龍へ会いに行くことを選択しました。英雄たちの武具を纏った5000人の精鋭でね」
あぁ、そこでケルベロスと戦ったから、ここでケルベロスが出てきたのか。神龍に会うには門番のケルベロスと戦わないといけないからねぇ~納得。
「君たちが倒したケルベロスと私達は5000人で戦い、生き残ったのはわずか2000名だった。それでも全滅するよりは良かった。そして神龍と会うことができ、私達は救済を求めた」
ふむふむ。
「神龍から出た言葉に私達は絶望したんだ。金色の英雄は戻ってこない事、魔族の侵攻は止められない事、神龍自身は世界に直接干渉しないと言うものだった」
世界が滅びを迎えるまで神龍は関与しないだろうよ。魔族の言い分も間違っていないだろうし、人類の言い分も間違っていない。互いに生き残るために必死なのだから。人類が食している牛や豚など動植物があるが、人類を魔族に、動植物を人類に例えれば分かりやすいだろう。食物連鎖の頂点が人類から魔族に変わっただけなのである。魔族も馬鹿ではないだろうから人類を根こそぎ食べきることもしないだろう。人畜場でも作っているはずだと思う。
「しかし、それで引き下がることは出来なかった。私達は何とか神龍に直接干渉しないような案を提案した。その中で一つ受け入れられたのが、広大なインスタンスエリアを作るというものだった」
それがこの外郭大陸の正体か・・・うすうす感じていたけどね。
「私達は急ぎ国へ戻り、神龍の指定した日時と場所に集まるため、国際会議を開いた。とても紛糾したよ、人類同士が争いになる位にね。魔族との徹底抗戦派とアストレムル脱出派に分かれてね」
戦わなければ未来は無いし、逃げたとしても安全な場所があるわけでもないからね。
「そして、この脱出計画には大きな欠陥があったんだ。世界のすべての人類が集まったらどうなると思う?そう魔族の人類狩りが始まるのさ。この答えがあったからこそ抗戦派と脱出派が手を組むことが出来たんだ」
なるほどね。
「我々は英雄たちの残した戦艦を改造し使用できるようにして抗戦派に渡し大反攻作戦を行い、注意を引きつけているうちに脱出派が逃げるという案を採用した。私も抗戦派と一緒に残って戦うつもりであった。しかし新たな場所で生活も困難が予想されたため、民を率いる立場上脱出派に編入された。そして抗戦派の旗印に私の娘が担ぎ出された。名をユリアと言う。子を持つ親なら分かるであろう・・・この絶望を・・・」
・・・分かるよ。出来れば自分が残りたかったろうな。
「神龍の指定場所から、こちらの世界に来たのは良かったが、出入り口が開いたままで、魔族が侵入してくる可能性もあった。そこで研究チームを作り出入口がある中央の砂漠地帯を瘴気で塞ぐことになった。英雄たちの魔力エンジンを研究し瘴気を作り出すことに成功し魔族の侵入を防ぐことが出来た。逆に、これ以上外からの人類の侵入も出来なくなったわけだ。我々は金色の英雄と同等の冒険者が出てくるまで、このことは秘匿することにした。金色の英雄再誕まで脱出組の指導者8名で作ったオクタガーディアンが世界の守護を担うことになったのだ」
研究チームの独断か分からないが秘匿から、初めから存在自体無かったことに勝手にシフトしていったのだろう。触らぬ神に祟りなしか・・・
まぁ、色々と繋がって来たな。
「水晶のロッドの所有者よ。我らの願いはただ一つ。アストレムルを魔族から解放してくれ。それと、これは個人の願いだが・・・娘の・・・ユリアの仇を・・・頼む。私の名はジューダス帝国皇帝ガイウス・デューラー。この願いを聞き届けてくれることを望む・・・・」
白い靄が消え、ケルベロスを構成していたものがチリとなる。辺りに蛍火のような小さな光があふれてくる。契約が終わり、縛られていた魂が昇華していくのだろう。
まだ誰も言葉を発さなかった。
全員が俺を見ている。
「これでみんなは世界の真実を知った。俺がお前たちに見せたかったものの一つがアストレムルの世界だ」
一挙手一投足を見逃さまいとみんなが注目していた。
「かなり危険な旅になるかもしれない。こちらに残れば優雅な暮らしが待っているだろう」
「無理強いはしない。俺とサーラ、シズク、ルル、ウッド、リティス、月花、リーズはもともと行くつもりだけどな。みんなは残るかい?」
「「「「「「「「「「「「「「「否!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」
「なら決まりだな。抗戦派の生き残りもいるかもしれない。ガイウスの想いを継いでアストレムルを取り戻しに行くぞ!」
「「「「「「「「「「「「「「「応!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」
「その前に、こちらでやらなければならない事を済ませないとな。一旦ダンジョンを出て解散し指示あるまで自由行動とする。しばらく戻ってこられないかもしれないから、ゆっくりと休んで来いよ!あと、ここでの事は口外しない様に!以上解散」
俺の号令後各チームが魔法でダンジョンを脱出していった。
その後、カインの研究チームと月花の両親の村を浄化復興し、バンドー王との謁見と今後の方針を話し合い2ヶ月が経過した。
「ここでの仕事は終わったから、ゴールのグラス共和国の首都へ向かうか」
バンドー王都南東の街シルキスからグラス共和国最北の街ボードへ船で移動し、そこからは陸路での移動であった。フォルメト隊のみんなとのウォーホースを使わないゆっくりとした旅も良い感じだった。
「みんな、グラス首都が見えてきたぞ」
「振り返るとあっという間でしたっすね」
「色々な事があったけどあっという間だったな」
ウッドとしみじみ話していると
「レッドもウッドも旅が終わりみたいになってるけど?これからでしょ!」
サーラが俺とウッドの間に割り込んできた。それを見た他のメンバーも集まってくる。
「そうだな。旅はまだまだ全然終わらないぞ!みんなついて来いよ?」
「勿論っス」
「もちろんよ」
「あたりまえ、私1番」
「ついて行きますわ」
「いつも一緒にゃ」
「ついて行きます!」
「私もついて行きます」
「あたしも行くわよぉ」
「あれ、ティアも来るのか?」
「もちのろんよぉ!マスターとあたしは一心同体なんだからぁ」
「それ、違う。レッ君と一心同体は私」
「はぁ?シズク序列一番だからって調子に乗りすぎよ!」
「サーラ二番お似合い!」
シズクが逃げる
「何ですって!待ちなさーい」
騒がしい商隊が、ひとまずのゴールであるグラス首都の門を通過していく。
~プロローグ~
グラス共和国に到着するなり街の警備をしている騎馬隊10名ほどが大通りをこちらに向かってきた。
「そなたら、フォルメト商隊の者であるか?失礼、私は共和国大統領直轄親衛隊のガブラである」
「あぁ、その通りだけど、大統領親衛隊様が何の用かな?」
のんびり書かせていただきました。
少しお休みを頂いて8月お盆過ぎからアストレムル編を投稿します。
冒頭しか書いていませんが少しだけ載せてみました。




