さあ話してごらん
ザラは、宮中にある庭と畑に挟まれた四阿屋にて、ヘンテコな依頼をしてきた王を見ていた。
見目麗しい彼は、ニコニコと笑っている。私を魔王様と呼び、膝を折った。彼は相当ネジが緩んでいるに違いない。面白い。不遜な態度をおくびにも出さず、穏やかに笑っている。
態と、煽る言い方をしてみた。
「お前、この私に聞きたいことがあるんだろう。さっさといってみろ。」
上から言ってみる。
「はい!魔王様、僕はスライムが大好きで仲良くなりたいんです!数多の魔物や魔族を配下に置く魔王様なら、きっといい答えを伝授してくださるかと思いまして。」
一気に詰めより、すがり付かんばかりの態度にゾッとした。
「ええーい離れろ。そんなことでは話もできん。」
そう叱責すれば、しゅんと項垂れてしまった。ガキか。カイルの言う通り変にイカれたヤツだ。なのに、カイルもそうだが、側に居る奴らはそんな彼を思いやってるのだから人間とは難しい生き物よ。
「して、仲良くなってどうしたいの」
取り敢えず、話を進める。
「あのう。実は、スライムに埋まりたいんです。」
ああ、やっぱり、阿呆だったか。クスクスと笑いが漏れてしまった。
私は魔法を展開して自分の膝の上にスライムを転移させる。それを見た王は、はわわわっとなりながら触れようとした。
「触らない方が良い。酸で溶ける」
よほど好きらしい。葛藤が見れる。触りたい、触りたい、触りたい。
視線だけなのに鬱陶しい。この変態め。
「魔王様。どうか、どうか僕にスライムをください。」
嫁にくれ的な言い方をする。途端に、王は、背後より攻撃を受けテーブルでおでこを強打した。
「ユリウスそんな変態みたいな事止めて。魔王様が帰ったらどうするの?」
本物の嫁に攻撃されテーブルの上に突っ伏する王ユリウスは滑稽だった。クリスティアは、
「こんな、変態気にしないで好きなだけ此処にいてくださいね」
と、笑いかけてくる。満面の笑みと言う奴だ。彼女も魔王と解っているのに気にしてないようだ。不思議な生き物が多いな。この魔力に人は恐れおののくはずなのに。
「お前たちは、私のことが恐ろしくは無いのかい?」
たまらず聞いてみる。私が家にこもってる間に何か異変があったのでは?と考えたからだ。すると、クリスティアはブンブンと首を振り、
「勿論畏れ多い方だと感じます。けれど、カイルを無事返していただいたし、信用できる方だと考えます。それに、とても可愛い」
私を見る目が優しくなっている。きつめの美人がふにゃりと笑うとギャップで異常に可愛いな。
「この姿か?これは仮の姿だよ。好きなように変えれるから。」
そう言い、試しに男の姿に変えてやった。すると、クリスティアは、絶望的顔になり涙を流した。美人の泣き顔はいただけない。
「魔王様。さっきのお姿の方が良いです。お願いします先程の姿に」
と哀願され、元に戻る。
「人間とはよくわからんな。男の格好は酷かったか?取り敢えず友の姿を真似たんだが。あいつ、自分で格好いいいってたぞ。なんだ思い上がった痛いヤツだったか」
首を捻りながら考え込んでいた。
「いや、格好良かったですよ。魔王様の黒髪がまた良いですね。」
ユリウスは本気でいっているようだった。そうか、ならいいか。
「で、スライムの事だったな。私はそんなの考えた事が無いから分からんが、暇だし一緒に考えてやっても良いぞ。お前たちがそれでも良いと言うならな。」
スライムを撫でながら言うと、
「ありがとうございます。どうか宜しくお願いします。」
頬を染めて潤んだ眼でふにゃふにゃとユリウスが頭を下げた。
「じゃー、暫くは此方にいらっしゃいますよね。魔王様をザラ様とお呼びしても良いですか?」
クリスティアはユリウスとは別の喜びで声を弾ませ聞いた。
「ザラで良いよ。様なんて要らない。」
そう言うと、
「ではザラちゃんで。私の事はティアとお呼びください。」
にっこり笑っていった。
「クリスティア。僕にも呼ばせてくれないのに。」
ユリウスが不満の声を上げると、
「あら、貴方はスライムの事を愛称でお呼びになったらよろしいのじゃなくて?」
と、冷たくあしらわれた。すると、
「そうか、流石クリスティア。良いこと言うな!」
しきりに頷き感心するユリウス。ザラはこの夫婦の未来が少し心配になった。