罪を忘れる事勿れ
重くて暗い感じです。
直接的表現はありませんが、
家族愛からはかけ離れています。
厳かにパイプオルガンの音が礼拝堂に響き渡り、扉が開かれた。二人のウェディングドレスを着た、対象的な女性が立っていた。黒とシャンパンゴールドの結上げた髪にベールを纏い二人は手を繋ぎ、新郎の待つ祭壇へとゆっくりと歩いて来る。
ああ…。
思わず声が漏れた。隣でも、ライリーが感嘆の声を上げている。
やはり君は美しい。ベールを纏ったとしてもその美しさは隠すことが出来ない。初めて逢ったのもここだった。政略結婚…。それ故、式で初めて君を見た。俺はこの時程神に感謝し礼を尽くした事など無いだろう。一目で君を愛してしまった。こんな思いが有るとは知らなかった。
魔力の為か君は変わらず美しいままだ。俺の愛するヴィクトリア。君だけを今までもこれからも愛していくと誓う。同じ過ちなど絶対に繰り返さない。
オリビアとライリーは、もっと早くに結婚出来ていたかも知れない。それがこんなに遅くなったのは、俺の我儘のせいだった。迷惑を掛けて本当に申し訳無いと何度も思っていたが…どうしても…どうしてもヴィクトリアが諦められなかった。だから、彼女の心を繋ぎ止めたくて、オリビアにあの提案をしたのだ。
病める心に楔を打って、自分から逃げ無い様に…それは幾人もの犠牲が生まれる結果を生んでしまったが、それでもヴィクトリアを諦められなかった。ヴィクトリアの愛する者に嫉妬したが、それさえも繋がりに思えて縋り付き、引き摺って生きて来たのだ。ユリウスが生まれ、あの子を胸に抱いたヴィクトリアを見た時…自分の選択が間違いでなかったと強く感じた。
そのユリウスが死にかけたと知らせが来た。毒を盛られたのだと聞いた時、血が沸騰した。このまま静かに暮させてやる事も出来ないのかと怒りと絶望で目の前が真黒に染まった。
…そこで決めたのだ。自分の命と引き換えに、奴らを粛清する事を。態と次の王太子を発表せず、競わせた。姫達は皆王家から放逐し幼い内から他国への生贄にした。まあ幸せに成っている者も居るだろうが、一切王女と名乗る事さえ許さなかった。母親達は側室とさえ名のれない状態だったので、仕方あるまい。貴族達、親達の犠牲者と言って良い。けれど皆自分こそは違うと言う…。そう刷り込まれて贈られて来るのだろうが、ヴィクトリア以外に俺にとって価値の有る人間等居ないのに。
俺は腹黒い人間だ。分かっている。ヴィクトリアが泣かないのであれば、何処で誰が死のうとも、自分の血を分けた子が死のうとも気にする事は無かった。それに何故か皆、子供達も人として一つも二つも欠如した者ばかりだった。流石俺の子と言わんばかりだ。
子供達の殺し合いを無視し、時には煽り残った者を自ら粛清したのだ。俺は地獄行き確定の人間だ。そんな俺が女神の前で誓えるのだろうか…。ヴィクトリアにまで、神罰が有るのでは無いだろうか。
「ヨミ…大丈夫よ?二人の気持ちに嘘偽りが無ければ、結婚自体は許してくれるわ。後は、二人で償って行きましょう。」
ヴィクトリアが強く握り締めてくれた俺の両手に、温かさが戻ってくる。黒く汚れた血だが、ヴィクトリアの触れた所から真赤な血と成り体を巡って往くのが分かる。
ああ、女神よ。あの時感じた感謝の念は酷く歪んでしまったが、彼女が居れば、俺はまだ人としてやって行ける。もう少しだけ、ほんの少しだけ待っていてくれ。俺は女神に跪き祈る…死んで行った哀れな子供達よ…父はもうすぐ地獄に逝くだろう。その時は思う存分俺を殺してくれ…。