親の心子知らず
「嘘だろ…。」
思わず声が漏れたが、それでも止まらない。
「嘘だよな…。嘘だと言ってくれ…。」
クレハ皇国の皇女で有り、この国の王女だったヴィクトリアが、訳の分からん奴と婚姻すると言う。そんな事許される筈が無い。ヴィクトリアに詰め寄り皇帝の許しが有ったのか問い詰めた。すると外方を向いたまま、
「あれが何言おうと関係無いわ。」
そう宣った。あれって…一応俺の親父で有り、アンタの兄だろう!?この人に着いてきたのが間違いだった。謀叛とか言われて俺まで殺される。俺だけじゃなく、母上までも…。肩身の狭い思いをしたまま人生が終わるなんて!あんまりだ。
寮前に呼び出された俺に、
「まあ、取敢えずこれ着て。」
と、官僚のイルミナが服を渡してきた。ハテナマークの飛ぶ俺に、
「前に聞いたでしょ?騎士団の服と官僚の服どっちが良い?って…。官僚の服が良いって言ったじゃない。」
渡された服は、濃紺の生地に銀の縁取りがされたジャケットだった。長めのそれは何時も官僚が着ているやつと違った。
「…これ?何時ものあのすっぽんと着る奴じゃ無いのか?」
そう言うと驚いていた顔で、
「えっあのポンチョ見たいのですか?あれは、インクとかで汚れない様にただ羽織ってるだけですよ?だからアルテア様だって着てないでしょう?」
そう言われた。アルテアって誰だ?と思ったがフーンと答えるとイルミナは感じ取った様で、
「アルテア様が分からないとか…貴方本当に皇子ですか?」
そう溜息混じりに言われ、カチンと来た。
「どう言う意味だ!俺が相応しく無いってことか?無礼な奴だな!!」
そう声を強めれば、ヤレヤレと肩を竦めて、
「だってそうじゃない。貴方は今、他国に居るんですよ?しかも手続きもせずに…。もし何か有っても、こちらが知らぬ存ぜぬと通せば、なかった事にされるんです。ヴィクトリア様だって、もし本当に皇国がこちらに圧を掛けようものなら、多分こちらの味方ですよ?」
そう言い、
「オリビア様を愛して居られて、しかも今、旦那様まで出来たんです。」
じっと俺を見ながら、
「この国の王付きの、しかもクリスティア様の親戚で、時期宰相となられる方が分からないなんて…少しこの国を舐め過ぎじゃ有りません?」
厳しい言い方だったが、確かにそうだった。だが認める訳にはいかない。あんなお気楽変態野郎が統める国を、ユリウスを認めれば、俺はもう心が保てない。
「うっ煩い!こんな小さな国何て、直ぐに地図から消せるからな!」
言い返す言葉は子供の様だと、自覚が有った。
「ソウデスネ。デキルデショウ。でも、それは貴方が死んだ後の事でしょうけど。」
何て、きつい女だ。綺麗な顔のせいで余計に冷たく鋭く突き刺さり、俺の精神力が削られていく。たかが、服の話から何でこうなった…。
「ジャケットの中はカラーの有る物でしたら何でもいいです。でもこのクロスタイを付けてください。それと、これはユリウス様とヴィクトリア様が貴方にと…タイピンです。」
そう言い、イルミナは箱を渡してきた。ぶん投げてやりたかったが、グッと堪えた。
どうぞと渡し、イルミナは帰って行った。箱を開ければ、黒ダイヤのタイピンと鷹の意匠のカフスボタンが入っていた。着換えを済ませ、ヴィクトリアの所に行くと丁度ユリウスとクリスティア、それに見知らぬ女がいた。随分と美しい女だったが、何故か俺の体が拒絶反応をみせる。クリスティアも居るのに、冷や汗が止まらない。
「あら、サリアース来てくれたのね。ありがとう。」
随分と機嫌がいい、ヴィクトリアに驚きが隠せない。
「ああ、カフスボタン良い感じだね。良かったよ。」
ユリウスがそう言ってこちらに笑いかける。憎らしい。
「そうね~。でもユリウス何故鷹なの?」
ヴィクトリアがユリウスに聞いている。確かに何故鷹なのだろう。すると驚いた顔で、
「えっ!だって彼が着ていた服の袖に鷹が刺繍されていて…あれは、皇国のお守りの構図でしょう?しっかりしてヴィヴィ。」
そう言ってこちらを見て同意を求めてきたが、知らなかった。
「ええぇ〜。二人ともしっかりしてよ〜。あれは、皇国の守りの為に入れてる奴だよ。戦場に行ったりする人の為に、鷹のモチーフの物を渡したり、刺繍したりするんだよ。鷹が神の目になって、その人を見守ると言われて居るんだよ!」
へぇ〜と思わず声が漏れた。
「きっと、サリアース君の無事を願ってるんだと思って、カフスボタンもそうしたんだ。」
そういえば…あの服は、母上が着て行けと渡してきた物だった…。そうか…俺の無事を願ってくれていたのか…。




