迷信だってその気になれば
ザラ様の部屋から、悲痛な泣き声がすると報告が来た。慌ててザラ様の部屋に駆け付ければ、ドレスが汚れるのも構わずに蹲って嘆いているクリスティアを発見した。側には星が鏤められた様な至極色をした髪に、瞳は黒曜石で出来ている美しい女性が立っていた。誰?と思ったが、一生懸命クリスティアを慰めているのに、表情がほぼ変わらず、眉間に少しシワがよっていて、眉が気持ち困惑気味に下がっている…ああ、この方はザラ様の様だ…。嫌、どんなに姿が変わってももう驚かないぞ!で、なぜそう悲しい思いになっているのか?二人とも…。クリスティアの側に片膝を着いて、囁く様に声を掛ければ、急に顔を上げたクリスティアのおでこが、僕の顎にクリーンヒットする。思い切り当たったそれのせいで、舌を噛み呻く事となった。だが僕の苦しみも何のその…いきなり両肩をガシリと掴んだクリスティアは、前後に僕を振り始めた。僕の首は鞭打ちに成るくらいに振られ、気分が悪くなる。
「ユリウス!見てユリウス!」
はい見でまず。ぎもじわるいでず。
「ザラちゃんが!ザラさんになっちゃたの!」
??ハイソウデスネ。あ!向こうに女神が微笑んで…。
「可愛いわ!綺麗だわ!美し過ぎるわ!しかも…しかもよ!胸が胸が胸が!」
わ〜何だか暖かくて綺麗な光が降り注いで来た…迎えに来てくれたんですね!
「ティア!やめろ!ユリウスが死ぬぞ!」
ザラ様が止めてくれたがもう遅い。ぎもじわるいでず。吐きそうです。何処から現れたのか、洗面器をザラ様がくれたので、そこに今朝のアレコレをリバースした。王とは思えぬばっちさである。
「ごっごめんなさい…。ユリウスごめんね!」
違う意味で涙目になったクリスティアが、謝って来た。
「い…いやいいよ…これくらい…なんでもないさ!」
そう答えたものの、振られた頭は三半規管が馬鹿になり、未だに目がぐるぐる回っていた。
「ユリウス本当に、ごめんね!ああどうしよう!ユリウスの目が変な風に揺れてる!師匠に投げられた時みたい…。」
立ち上がれないので、その場に崩れ落ちほっぺを床に付けて、赤ちゃんみたいに丸くなる。膝を抱えた胎児スタイルだ。ふぅ~と聞こえたら急に楽になった。ザラ様が癒やしの魔法を掛けてくれたのだ。ありがとうございました!何から何まで本当にスミマセン。のそのそと起き上がったら、クリスティアがしくしく泣くので、デジャヴ…今度はちょっと離れて声を掛けた。
「クリスティア大丈夫かい?僕は大丈夫だよ?」
すると、折角のメイクも落ちてしまい幼子の様な泣き顔で、
「ごめんねユリウス。だってあんまりにもザラちゃん?ザラさん?が綺麗で…ううぅ〜胸だって大きくて…うらやま…ううぅ…。ユリウス嫌いにならないでー!!」
訴えかける。こんなに僕が好きだと言ってるのに、通じて無いのか…心配になるよ。やたら端々に胸って単語が出るけど…何ゆえ?
するとザラ様が、
「ティア、泣き止みなさい。良く聞いて。」
立ち尽くしながら続けた。
「ユリウスが悪いのだ。」
思わず、えぇ〜と声が出たが無視され、まだ続く。
「聞いた話だが…。胸は大きくなる!夫が胸を揉めば良いそうだ。つまり、ティアのせいではない。ユリウスが悪いのだ!」
「言い掛かりだ!!」
思わず真赤になりながら叫んでしまった。