御一緒しましょう
結局。
俺は魔王を誘うことが出来た。ついでにレイブンも。何やら、かなりショックなことがあったらしい彼は、どうしてもと一緒に来ることになった。魔王は、王に会うのが楽しみのようで、書き置きを書きながら鼻歌を歌っている。ヤバイわ。何か可愛い。
誰に向けての書き置きかと尋ねると唯一の友達が訪ねてくるかもしれないからとのこと。泣きそうだ。
出発しようとした時、魔王が改めて自分の名前をいった。
「私の名前はザラ。これからよろしく頼む。」
と頭を下げる。本当に勇者より人格者だった。良い子良い子したい。へんに庇護欲を駆り立てられる。罠か?もう我が子をみる親の心境だ。何せ背が低いのでおれの腰ぐらいしかない。お子ちゃまなのだ。田舎の近所のガキどもを思い出しちまった。元気にやってるだろうか?
それはそうとどうやって帰ろうかと思案する。徒歩なら王都まで5日から6日かかる。ザラのスピードに合わせるともう少しかかるかもしれない。かといって、馬を連れてこなかったし、敏感な馬たちがおとなしく魔王を乗せるとも思えないが。
近くの町までいって、馬を試してみるかと考えていた。
「どうした?行かんのか?」
ザラは不思議そうに聞いてきた。そこでこれからの予定を話してみる。するとくつくつと笑い、
「そんな心配しなくても良い。私が連れていこう。」
と、言ったかと思うと足元に魔方陣が浮かび上がった。そしてふわりと体が宙に浮いた。風が足元から吹き上げてきたのだ。バランスを崩し倒れ込むと、そこは今までいた芝生の上ではなかった。何があった?がばりと起き上がると、目の前に王が居る。しかも優雅に腰かけて茶を啜っていた。
「おや?驚かないんだね?」
ザラは、王に話しかけたが、コトリと首を傾げて、
「何を?」
惚けた答えを返す。俺はこの事態が掴めないのに対し、王も掴めてないのかも知れない。
「カイル。お帰り。」
けれど王は満面に笑顔で俺を見た。きらっきらの笑顔だ。ゆっくりとカップをテーブルに置き、優雅に立ち上がる。そして、ザラの前まで来るとその膝を折る。
「良くおいでくださりました。魔王様。私の大切な騎士を無事に連れ帰っていただきありがとうございます。」
と言い深く頭を下げる。ザラはふむと頷いた。
「私はユリウスとも申します。以後お見知りおきを。お名前を伺ってもよろしいですか?」
王は頭を挙げたものの、いまだに視線を落としたままザラに問う。白金の睫毛に縁取られた瞳は陰っている。ザラは大様に頷き、
「私はザラ。」
尊大に答える。俺はいまだにこのやり取りに着いていけず、芝生に四つん這いのままだった。さすがにレイブンは勇者だけあって、もう立ち上がってキョロキョロと周りを観察している。そんな俺の脇を掴みあげ、アルフレッド隊長が立たせてくれた。いつの間に現れた。いや、そういえば、二人はワンセットだったか。スライム仲間だ。俺に着いた土や草を落としてくれた。気が付く人だよ。スライムのことがなければ尊敬出来るのに。
「ザラ様。カイルより話を聞かれたかも知れませんが、今一度私より説明してもよろしいですか?」
王は視線をザラに合わせるとそう言う。そして今まで自分が腰かけていた席を薦めた。子供の姿でも魔王を間違えることなく礼を尽くす王に、感心する。侮ることもない様子だ。ザラは言われたとおり席に着いた。
「今日は天気も良いので、ここでお許しください。実はただいま城内を汚してしまいまして、掃除をしています。私も追い出された口でして...」
困ったように王が笑う。何があった?思わず隊長を見上げると微妙な顔をしている。ぼそりと呟いた。
「クリスティア様が切れられた。」
思わずドキリとする。クリスティア様は普段冷静でとても理性的な人だ。とても優しく、思い遣りがある。顔立ちが綺麗過ぎて冷たいイメージを受けるが、笑うとえくぼができて幸せを感じさせる。ギャップが堪らない。仕事もできて気配りの人なのだ。ところが、時々切れる。勿論、侍女や文官に怒るのではない。ユリウスが主に嫌、全面的に王が原因だ。ここは言いきれる。またこの人は、あの優しい御方の逆鱗に触れたのだろう。しかし、今回は、城内が汚れたって?何があったのだ。
「お前がいなかったからな...被害が広がったんだ。」
隊長が俺の耳に囁いた。
「?」
俺、何か何時もしてたっけ?不思議に思っていると、
「クリスティア様は、意外とお前の言うことは聞くんだ。お前が困ると可哀想だと思うらしい。」
えーとそれは知らなかったです。何でだろう?
「お前が、亡くなられた弟ににているらしい。だから、王もお前に弱いんだぞ。」
そう言われ、そうか?疑問しか浮かばない。魔王のとこに行かされてるのに?
命がけじゃね?あーでも、高価な魔石くれてたな。
「そういえば、魔石で帰ってきたのか?」
と、問われる。ん?魔石で帰れるのか?首を傾げてるとアルフレッドが、
「クリスティア様が何かあれば逃げてって渡してたろう。あれの中に、使えば直ぐ王都に飛べるやつが有ったはずだぞ。」
初耳だった。