今がその時
私とヴィクトリアは、談話室でゆっくりと、美味しい紅茶を頂いていた。今日の、ヴィクトリアも美しい。
「オリビア、本気なのね?」
ヴィクトリアが真剣な眼差しで見てくるから、私も見詰め返しながら頷いた。
「そう…」
寂しそうに呟くヴィクトリアの手をそっと握った。
「ヴィクトリア…例え失敗しても悔いを残したくないの。」
小さく頷くヴィクトリアが子供の様で愛しくなる。
「私が変わったとしても、ヴィクトリアは私の親友でしょう?私はヴィクトリアが変わったとしても、そう思っているわ。」
そう聞けば、こちらを泣きそうになりながら見つめて、狡いとヴィクトリアが囁いた。
「勿論そうよ。オリビアが居なければ私は、遠の昔に死んでいた!」
ヴィクトリアがそう叫んで泣き出してしまった。ごめんなさいと謝りながら、ヴィクトリアの背中を擦る。控えていた侍女達が驚いていたが、唯黙って聞かない振りをしてくれている。良く教育されてるわ。
「それに私達にはユーリがいるでしょう?ユーリは貴女の子でもあるのよ?」
そうだ。結局あの男が側室と認めたのは、私だけだった。例え女の子だったとしても、王女としたのもユーリだけだったろう。それほどユーリに思い入れがあり、尚且ヴィクトリアの子供としたかったのだ。王都から離し、危険が及ばない様に大切にしていた。それでもなお刺客はやって来て、捕まった人はきっと地獄を見ただろう。一度城に呼び寄せたが、素っ気ない態度で…でも、馬車が待ち遠しくて迎えに来たぐらいだった。ヴィクトリアも居るかも知れないとも思って居たのだろうが。実際ヴィクトリアは侍女に成って側に居た。魔法で髪の色目の色を変えていたのだ。流石と言うべきか、あの男チラリと見ただけで、分かっていたのだけど。ユーリはその時の事を未だに不思議に思っている。自分があの男に愛されていたなんて知らないだろう。教えるつもりは全く無いけど。
でも、諦められない事もある。ライリーの事だ。残りの人生彼と一緒に居たい…。そう思ってしまったのだ。あの男の喪は明けたのだし…。
そんな事を考えていると、扉がノックされた。ヴィクトリアが侍女に目配せをすると、彼女が扉を開き外の方に要件を聞いている。そして侍女が戻りヴィクトリアに報告をした。
「ヴィクトリア様、ユリウス様より庭師のライリーが今執務室にいらっしゃるとの事です。いかがいたしますか?」
その言葉に私は、急いで立ち上がり、執務室へ走り出していた。ライリーが居る。この城に!すぐ近くに!私は年甲斐も無く、ライリーのいる執務室へと駆け出していた。
ノックも煩わしくぶつかる勢で扉を開き、中をみやれば大きな背中が見えた。懐かしさとか、愛しさとか色々な想いが混ざり合って自分の中で弾けた。踏み出した一歩に全てを込めて駆け出した。
断っておきますが、私は一応淑女です…が、辺境の地で生きる人間でもあります。
ちょっと予想していた声が違う事など気にしない気にしない。
どぅふぅっなんて懐かしいですね?
震える声で、
「オリビア!!何で?」
驚き過ぎて、昔みたいにオリビアと呼んでくれて私は、溢れ出る気持ちが止まらなかった。嬉しくて嬉しくて、
「ライリーお帰りなさい。私と結婚してください。」
考える間もなく、口から言葉が溢れ出していた。ライリーは呆然として私を唯見つめている。嗚呼やっぱり大好き。この歳になっても好きなものは好き。真っ赤になっていくライリーを見つめながら思う、ユーリが叫んでいても気にならない位大好き。
急にユーリが立ち上がり、震える声で、
「この続きはどうぞ、他所でお願いします。報告は後程伺いますので…。」
そう言った。意外と薄情ね。それでもライリーは動けなくなっていて、ちょっと心配になって来た。駄目なのかな?泣きそうになってきた。ユーリの言葉を受けて、何処から現れたのかアルフレッドが、ライリーの背中グイグイ押して執務室から私達を追い出した。ライリーの両手は私の背中に回っていて、抱き合ってる状態だった。嬉しい。廊下に出された私達は見つめ合っていたが、急にライリーの視線が動いて、私の背後を見た。するとカタカタと震えだし、さっきまで赤かった顔が急に青くなっていく。汗まで浮かんだ顔に、病気を疑ったくらいだ。パクパクと動いた唇はヴィクトリア殿下と微かに読み取れた。振り返るとそこに腕を組んで仁王立ちしたヴィクトリアが立っていた。
「…抱き合ってるって事は、真逆OKしたの?イエこんな可愛いオリビアを振るなんてあり得ない。極刑ね!どっちにしても極刑確定」
ヴィクトリアがイライラしながら、呟いている。私には、意味が分からなかったが、ライリーには通じたらしい。私から一歩離れた。思わず悲しくなってしまう、駄目だったのだ。けれど、ライリーはそのまま片膝を地につけ伏して私の手を取った。不意に上げた顔は引き締まって、若かりし日を思いだ出せる。でも、あの頃よりもっと格好いい。
「オリビア僕はしがない庭師だ。だが君を思う気持ちは昔から変わらない。君を愛している。」
そう言い、私の手を取り口付けをした。
「オリビアどうか残りの人生を、共に過ごして欲しい。平民になる事になるが、必ず君を守るから。」
ヴィクトリアが素早く動いて、私の手を引き抜こうとしたが、しっかりとライリーが握っていた。
「はい!勿論。何も出来ないけれど、必ず貴方を幸せにしてみせます!よろしくお願いします。」
私の答えに、ヴィクトリアが泣いてしまった。ヴィクトリアが泣いたので、私の嬉し涙は引っ込んでしまったけど、ごめんねヴィクトリア。この気持ちだけは嘘を付けないの。
あの時、あの男とした約束…私の恋愛は自由!そう、その時が今来たのよ!!




