突然選択は現れる
久しぶりの城内に少し違和感を覚えつつ、僕は辺りを見渡した。庭園は見事な菜園と変わっており、僕の職場復帰が危ぶまれる。でも、菜園は美しい畝となり青々としていた。少々問題もある様だが、愛情が注がれていて、ユリウス陛下らしい城の一部となっている。侍女のマーガレットが、クリスティアの不在を伝えて来たが、あまり心配はしていない。僕ライリーに今、家名は無い。唯のライリーになった。が、クリスティアは僕の兄さんの娘なので姪っ子となる。そのクリスティアは昔からお転婆で、野山を駆け巡っていた。それに何だか凄く強くなってるらしい。何だったら、ユリウス陛下の方が心配である。ユリウス陛下の母君は、僕に取っても大切な人だ。
幼い頃から知っていたし、親しい仲だった。多分僕が庭師に成らなければ、オリビアと婚姻していたかもしれない。ちょっと我儘でお転婆な優しい女の子。笑顔が可愛いくて…。年の離れた妹の様に思っていたが時間が経つに連れ、愛しくなっていた。
この庭での思い出が蘇り笑ってしまった。王妃との出合い…それがオリビアの運命を変えて行ったと僕は思っている。けれど僕が平民になり、オリビアがどちらかの兄さん達のお嫁さんに成るよりは、確かに良かったのかな?義理の兄妹に成るよりは…。
マーガレットに連れられてユリウス陛下の執務室へと向かう。ノックの音が響いた。誰何の問に答えれば、内側から扉が開かれた。アルテア君が開けてくれたみたいで、にっこりと笑っていた。礼を述べ中へと入れば、コクリと頷きながらドアを閉めてくれる。ユリウス陛下が話し始めるまで静かに待つ。手元の書類を片付けたユリウス陛下が、こちらを見つめた。何故か嬉しそうな顔をしている。
「ライリーご苦労様でした。向こうの庭園はどうだい?」
そう尋ねたその顔は、オリビアにそっくりで柔らかく美しい。未だ少年の様な陛下は、公爵の為に城内の庭園をそのまま公爵邸に移される事を望んだ。体調の悪い公爵が、何時でも庭園を見ることが出来る様にと。かなり大掛かりな事になったが、公爵家の人達は喜び、公爵家の許しを得て他の花たちは公園等に移し、国民を喜ばせている。その為の資金も全て、ユリウス陛下が面倒を見てくれた。
城内の畑の話をしていると、突如扉が大きな音をたてて開いた。驚いて振り向けば、シャンパンゴールドの毛玉の様な物が僕の胸に激突する。思わず、どぅふぅっと息とも声とも分からない物が口から漏れた。腹筋が活躍していない。
「…オリビア!!何で?」
僕の問に重なる様に、ユリウス陛下の雄叫びが聞こえて来たのだった。
顔を上げたオリビアは、ユリウス陛下の雄叫びも聞こえていない様だ。満面の笑みで、
「ライリーお帰りなさい。」
と言い、続けざまに、
「私と結婚してください。」
と、言い放ったのだった。これは夢か?僕は、寝ていたのか?呆然とする僕に、立ち上がったユリウス陛下が、何かに耐える様に言った。
「この続きはどうぞ、他所でお願いします。報告は後程伺いますので…。」
そう促すが、オリビアが僕から離れなくて身動きが取れない。困っていると、存在感が薄かったアルフレッド君が僕の背中に手を掛けて押し出した。そのまま、オリビアと、僕は執務室から押し出され、廊下で抱き合う形になる。
ええぇ?困惑していると、ヴィクトリア陛下が腕組みをしながら、こちらを(主に僕を)睨んでいた。冷や汗がダラダラと止まらない。誰か!説明と助言をお願いします。