転移の先は地獄だった。
嗚呼、面白い!凄く楽しいな。本当にここは良いところだよ。
僕は、御剣然。賢明な方なら気が付くだろうが、転移者だ。しかも、巻き込まれ形転移のせいで、これと言って神から授かった力もない一般人だった。
この世界は厳しい。能力の無い者にとって途轍もなく厳しい世界だ。
特に言葉も通じず環境も違い、非力な僕は死ぬ寸前、風前の灯火だった。
ぬくぬくと、当たり前の様に受けていた両親の愛情も、不満は有ったがそれなりに青春していた日々の何というありがたみ。
食うに困り、泥水を啜り(揶揄じゃないぞ)木の根を噛る生活。言葉の壁は考える以上にそびえ立ちブアツクタカカッタ。
身振り手振りなんて、常識が同じ世界の共通認識なのだから。ちょっと手を上げただけで、ボコられるのだから。おちおち背中もかけない。
こちらに来て186日目のある日、街から追い出された僕は、魔物に襲われ足は潰れ、右腕は頭をかばった時に、千切れて飛んだ。恐ろしい事に、それでも意識があって、全てを覚えているから始末に悪い。だが、ある意味それが命を救ったとも言えるか?
こちらの世界には魔力が溢れている…らしい。見えないし、感じ取れないので僕には解らないが。その魔力を一切持たないのが僕で、魔石を発動する為の小さな力さえ無かったりするんだ。そのせいか…違う力に目覚めたよ。超の付くあの能力だ。
この力は、この世界の干渉を全く受けない。魔法で防ぐことも、反らすことも出来ないある意味チートの様な力。手足を失って得た力だが、まあ魔物は倒せても体はそのままなわけで...死にかけたところを僕の師匠に拾われて一命を取りとめたわけだ。彼の献身的?努力!のお陰で今は、つなぎ目はあれど両腕が有り、足は戻らなかったが、自由になる義足が付いている。しかも自分の力で動かせてるから、ほぼ支障が無い。
僕の師匠は、転生者だった。日本人としての記憶が有る彼のお陰で色々と学べることが出来た。そして、師匠はこの世界と、あちらの世界で武芸を極めた人物であり、僕を弟子にしてありとあらゆる事を教えてくれた。お陰で自由にこの世界を散策している。
そんな僕でも、たまにはポカをする。それが、この世界に来て二度目の救済を受ける事になり、初めてこの世界の人間を信用するきっかけとなった。
幼少期のアルフレッドに救われた僕は、暫くの間彼の家に厄介になった。
昔のアルフレッドは可愛かったなった〜。元々表情が薄い子供では有ったが、焦げ茶の癖の有る長めの髪に大きな茶色の瞳が、キラキラしていて本当に可愛かった。あの頃は、小さかったし…。なんであんなにでかくなるのか不思議だよ。本当に可愛かったのに…残念無念。
貧乏貴族の彼の役に立つだろうと、ちょっと武術を教えたら天才だった。こりゃ不味い。中途半端は怪我の元…と言う事で、ガッツリ仕込む事にした。争事を好まない様だが、酒が飲める頃には酔い潰して誓約書兼、契約書を書かせた。アブナイアブナイ。殺人鬼になられたら、俺が殺らなくちゃイケなくなるだろう?そう言うのは勘弁だからね。女神の誓約書は、絶対の効力を持つんだってさ。その女神、俺を巻き込んだやつじゃ無いよな?とか、思ったけどね。
アルフレッドが就職して、騎士団に入った。胡散臭い国の騎士になった訳だ。王子が13人って酷くない?日本の感覚が抜けない。しかも、ホントは姫も居るらしいが、女の子が生まれたら、速、妾?の実家に帰して、王家との繋がりを無くして絶対に王位を継げないようにしてたらしい。つまり、ユーリには、姉が何人か居たらしいけど、国が揉めた時国外へ嫁に出したりして難を逃れてるんだと。不思議とユーリの後に子供は一人も作らなかったらしいけど、何らかの思惑を感じるよね。
話は飛んだけど、アルフレッドが騎士を辞めようとしていた時、一緒に世界でも廻ろうかと思ってたんだけど、ユーリがアルフレッドを引き留めた。そうなると気になるのは『ユリウス』の為人だった。アルフレッドの力に似合う人物かって事で、色々調べて見たよ。
そしたらまあ、面白い、面白い。考えてる事の9割近くはスライムの事だった。
ハハハ、いいね王様って感じじゃない!
それなのに、ユーリは目端が利いて、周囲の変化を察知する。不思議に思って居たら、2番弟子になったクリスティアが教えてくれた。ユーリの周りは、敵ばかりで毒を盛られたり、していたらしい。クリスティアはそんなユーリの側にいたくて、色々我慢したり努力したりしている。愛されているねぇ。
ある日、暫くぶりにアルフレッドから連絡が来た。
南アルーム地方に行くことが有れば、黒色スライムを手に入れて欲しいと伝えて来たのだ。嗚呼、ユーリの為だと直ぐわかったが、良く黒色スライムの事を知っている様だった事が気になった。南アルームは、他所様の国だ。しかも、国交がない国だった。不思議に思っていると、答えが来た。
『今、お城に魔王様を招いて、スライムに対する授業を受けている。』
何それ!!凄いんだけどそれ!
魔王とやらをまだ知らない俺は早速黒色スライムを手に入れ、ユーリ達の元に駆けつけたのだった。