ゼンは急げ
凄く遅くてすみません。
ザラ様とクリスティア達が出掛けて、5日と半日が過ぎた。あまりにも濃い5日だった為か、もう一月以上会って無い気がしてなら無い。
『ゆっくりしておいで』
何て言わなければ良かったかな。半日は過ぎてるから、6日になるのか…なんて呟けば、抗議の声が上がった。
「いい加減にしてください。もう止めてください。」
アルテアの声だ。
ソファの一角にアルテアを座らせ、背後に立ち頭を撫でている。そりゃもう、撫で回している。何て言うか、眼を閉じればクリスティアと同じ感覚なのだから、やむを得ないのである。僕が悪いんじゃない、この髪質が悪いのだ。
「あぁ…。さみしいな…。」
そう呟けば、後ろからブフッと笑いが漏れた。アルフレッドが珍しく吹き出している。どうしたのかと視線を送ると、何故か腹を抱えて笑っているところだった。
思わず眉間にシワができてしまう。
「アルフレッド何が面白いんだい?僕は全然笑えないんだけど?」
そう低い声で言っても彼の笑いが止まる事はなかった。訝しげに真っ直ぐ見つめれば、苦し気に左手で抑えてくれと言う様に合図を送ってきた。どういう意味か全く理解出来ない。
「ああー!先生!」
アルテアの叫びでやっと僕の視覚に彼、アルフレッドの師匠を捕らえることができた。なんだかんだ言っても、アルテアも武家の出。目がいいのである。
「ゼン師匠、お久しぶりです。」
そう声を掛けると、師匠はニヤリと笑った。その途端に、こちらへ物凄いスピードで迫って来る。
「ユーリ、元気だったか?」
そう訪ねられ、ハイっと大きく答えた。至近距離で、見つめられると照れるな。師匠は、年齢不詳気味である。凄く年を取っている様にも見えるし、若くも見える。今は髭が伸びて年寄りに見えた。でも、やたらと瞳が澄んでいて、綺麗だ。
ゼン師匠は、色んなところを旅している。しかも、不規則でとらえどころがない。師匠に連絡が出きるのは、アルフレッドだけだった。どうやってるのか分からないけど…。そんな師匠が珍しく訪ねて来たのだ。これは何かしら期待してしまう。
「ユーリ。ほーらお前が欲しがっていた黒スライムだぞ~」
師匠は何処からともなく、カンテラに入ったスライムを取り出した。アルフレッドきちんと頼んでくれていたんだね!ありがとうございます!!
声になら無いお礼の叫びと、思わず両手が出たら、カンテラを引っ込められた。
えええええっー。
僕の顔を見ながら笑いが止まらない師匠は、凄く意地悪そうに、
「ユーリ、欲しいか?欲しいよな~?じゃあ、欲しかったら練習場20周しておいで、その後は素振り100回だよ?そしたら、これは君のものだ!!」
そんな!でも答えは一つしかない、
「ハイ!行ってきます!」
僕は思わず、執務室から飛び出して練習場がある、宿舎裏へと駆け出していた。
でも仕方ないよね、だって欲しいんだもの。
背中にぶつかる師匠の笑い声は、応援にしか聞こえなかった。
皆さんお体には気を付けてください。