お仕事と趣味は両立しない
恒例の騎士団入団試験だが、その年毎に微妙に内容が変わっている。実技、教養は当たり前として、その他にお題が出されるのだ。去年はある地域に、自分の得意な武器持参で、一週間のサバイバルが敢行され、残ったのはミントと、もう2名だけだった。これはかなりいい方である。3名の合格者がいたのだから。
ネームタグに魔石が隠されており、不正や危機を知らせてくれる。それに加え、戦意喪失等も情報として送られてくるため、採点としての機能がある。実はこれを作ったのが、働かない執事のヨミだった。自分に何か負担が掛かりそうになると、何処からともなく、御役立ち道具を持って来るのだ。それゆえ、ユリウス様が彼を側から離さなず、仕事もしないのに雇われ続ける理由だった。
「今回のミッションはどうしようか?」
ユリウス様の少しわくわくとした雰囲気が伝わってくる。暇なのだな。
「応募者は20名程です。今回は少ないですね。兵団への応募は50名以上在ったとキース団長が言ってました。」
私の報告に、ユリウス様の苦笑いが漏れています。
「まあ、色々だね?自由に選べてこそだし?」
ふむと腕を組、考えた後にユリウス様が原案をあげる。
「今回少ないし、グループ分けして、協調性や、自発性を見ようかな?」
と言い出した。連携には必要なことではあるが。
「では、4、5名程に分けて其々に課題を出しますか?」
アルテアが言うと、うんと頷いたユリウス様の動きが急激に止まった。
「それはだめです。」
そう言うと、驚いた顔を此方に向けて、
「まだ何も言ってないよ!」
と叫ばれたので、もう一度、
「それはだめです。」
と言った。アルテアは、ユリウス様と私の顔を交互に見ている。
「アルフレッド!僕はまだ何も言ってないだろう?」
そうかも知れないが、録な事は考えていなかったでしょう?目を細めてじっと見ていると、明らかに挙動不審になっている。
「では、何を考えました?…私はユリウス様がグループに紛れて、自分で出したお題のアルームに行って黒色スライムを持ち帰ろうとしてると、考えましたが?」
そう言うと、視線合わせられないのか、ぎゅっと目を閉じてびたりと動きを止めたままでいる。ああと、アルテアも頷き、だめですね…と言った。
「もし何か問題でも起きたら、国際問題に発展しちゃいますよ?試験は国内のみで行います。」
クリスティアが居ない今、アルテアはしっかりとユリウスの手綱を握りしめていた。そう言われれば、渋々引き下がったが、まだ何かと画策しているようだ。
「今度何か有れば、師匠に頼んでみるので、それまでお待ちください。」
そう言うと、本当に?絶対忘れないでね?と行ってくるから、大様に頷き、
「勿論です。ですが、師匠の帰りが何時かわかって居ないので、もう少しお待ちください。私も黒色スライムは見てみたいので。」
と答えた。花が開いた様に嬉しさ全開のユリウス様に、アルテアが良かったですね?と、言っている。
私の師匠、ゼン・ミツルギは、何もかもが謎の老人だ。いや、多分老人だ。初めて知り合ったのが、5才の時で早20年以上の付き合いとなっている。5才の時、道端で倒れていた師匠に水とパンを上げた事から付き合いが始まり、いつの間にか剣術を習い、弟子になっていた。本当に未だに不思議で堪らない。弟子になった覚えがないのだから。ところが何故か念書を持っていて、私の名前が私の字で署名されていた。そこには弟子になると書いてあったのだ。その後、自由気儘な師匠は、ふらりと居なくなっては、帰って来て稽古を着けていくようになった。お陰で強くは成れたのだが。
クリスティア様の才能も見出だし弟子にもしていたな。私とは違って、クリスティア様は進んでなっていたが…。
師匠の帰りを楽しみにしつつ、仕事に戻る事にする。
「じゃあ、どうしようか?」
そう言ったところで、3人の動きが止まった。結局いいアイディアが浮かばないのだ。こういう時、何時もならクリスティア様が、根本的なアイディアを投げ掛けてくれる。そのクリスティア様が居ないので、一向に進まないのだ。
「そう言えば、トルア村の近くで何か在ったのかい?」
ユリウス様の問に、流石耳聡い人だなと感心する。トルア村近くの山で、何やら見知らぬ輩が動いているらしい。報告によると、山間部に馬車を使い、物品を運び込んだり、食料の調達に柄の悪そうな人物達が来てるとか…。まさか、この事を試験の項目に入れるには、謎と危険が多すぎた。
「その件は、キース団長にお願いしました。何か有れば連絡がくるでしょう。」
多分、きっと…。今回の事を根に持って居なけば…。私の思いとは別に、ユリウス様が、
「なら、大丈夫だね!」
と言っている。その信用がどこから来るのか…。さっきやりあったばかりなのに…。
「そう…ですね…。きっと大丈夫でしょう…。しかし、何名か土地勘の有るものも向かわせるつもりです。」
そう言うと、
「うん。やっぱりアルフレッドは頼りになるね。お願いします。」
素直に頷くユリウス様が心配です。
「サリアース君が、どうやってこの国にやって来たかも分かってないしね?」
ああ、やっぱり皇国が疑わしいですよね?私もそう思います。
「取り敢えず、それは措いておきましょう。今は、試験の事で話をしましょう?」
アルテアが、軌道修正する。
「そうだね?ごめんね。じゃあ、改めてどうやって皆の実力を見ようかな?」
ユリウス様がそういい始めたところで、ドアが大きく開け放たれた。
驚きに、私達三人は入り口を振り替えって見たが、そこには思いがけない方が立っていた。