悩みは尽きない
僕はクリスティアの事には、完璧に許容範囲が狭い人間だ。昔から多分そうだった。スライムの事だって大好きだけど、恋人にはなれないし?唯一人と決めた妻だし、僕を叱咤してくれる大切な存在だから。
何時も思っていた。誰かがもしかしたら、クリスティアを拐って行ってしまうかもと…。
クリスティア自身の心変わりは仕方ない。(めちゃくちゃ嫌だけど)引き止められなかった、自分が悪いのだ。
けれど、キース君の様に自分の気持ちを隠しきれない様な人が、クリスティアの側に居ると思うとゾッとする。クリスティアは鈍いが、人の気持ちを無下に出来ない気質でもある。優しさに付け入る輩が、許せない。そうなると、僕はきっとクリスティアが、心から軽蔑する様な人間に成ってしまう自信が有るのだけど?クリスティアには嫌われたくないな。けれど止められないだろう。
カイルを側に置くのは、クリスティアが兄弟の様に感じている事と、カイルの人柄、実は本人は隠しきれて居ると思っている様だが、故郷に大切な人が居ると知っているからだ。
とうとう、キース君の態度にムカついて、ついつい要らぬ事を言ってしまった。キース君が怒りながら帰って行ったけど、もう気にしない事にしよう?…したい…。
「…あの…。…ユリウス様…。」
アルテアが申し訳ない様に声を掛けてきた。気持ちを切り替えて、ん?と振り向く。
「その…。大丈夫ですか?」
思わず一息大きく吸い込んでから、
「!大丈夫じゃない!」
そう答えてしまう。そう、全然大丈夫じゃないのだ。自覚の無かったキース君に、本人の気持ちを僕が言ってしまった。しかも、めちゃくちゃ怖かった。誰だよ、あんな怖い顔に生んだ人は!あっ、叔母上か!?本当に血の繋がりが有るとは思えない。
アルフレッドが、冷めた紅茶を入れ直してくれた。僕は二人をキース君の去ったソファに呼び寄せ、「どうしよう?」と聞いてみる。
「良いのでは?」
アルフレッドは、自分とアルテアのお茶を入れながら答えた。本当に働かない、アレとは大違いだよな?
「団長殿がこれを知ったからと言って、魔王討伐何て行けないでしょう?」
ああ、そっちか…。それは、そうだね…。
「それに、クリスティア様の事は問題外でしょう?この国で、御二人が思い合っているって事を知らない者は居ないでしょう?余程のぼんくらじゃ無ければ。」
そう答え、お茶を飲んでいる。照れ臭い事を言われたが、確かにそうではある。王に成る為に出した条件から、それは周知の事柄だったけど…。人の気持ちは止められない。だから、思っていても文句は言わない。表には出さなければいい。と、思っていたが…。
「でも、何となくザラ様の本題がずれましたよね?」
アルテアも、ホッとした様に息を着いた。
「僕、スライムの話に成ったらどうしようかと思いましたよ。」
ええっと、そうですね…何だかスライムが悪いみたいに言わないで欲しい。そりゃあ言う人、伝えるべき人は選んでいるけど、別に疚しいからじゃない。唯めんどくさい事に成るのが嫌なだけで、そうじゃ無いなら誰に知られても困りはしないのだから。
「ですね。流石クリスティア様です。」
アルフレッドの誉める基準点がずれてないか?まあ良い。
「取り敢えず、ザラ様のご帰宅まで、スライムの事はお預けだし、本題は先延ばしになったけど?ザラ様が帰ったら、会わせた方が良いよね?」
そう僕が聞くと、二人は頷いた。
「そうですね。ザラ様の魔力に当てられて、彼が膝を折るのが見たいです。」
あれ?アルフレッド…何だか凄く怒ってます?黒い黒い…。
「あう。その気持ちわかります。」
やだ、アルテアまで!
僕の顔を見たアルテアが、慌てて言い直す。
「だって、彼が頭を下げるとこ見たことがないし、何よりユリウス様を軽視してるのがあり得ないですよね!」
そう言うと、アルフレッドが大きく頷いた。そして、彼らしくない笑みを浮かべる。どうしたの?何か言われたの?
「何より、ザラ様に夢中なクリスティア様に、地獄の底まで嫌われるといい。」
うわ~、ここに来るまでに何か在ったのかい?アルフレッドにここまで言われるなんて、逆に気の毒になってくる。アルフレッドは、皆に気を使う反面、亊勿れ主義気味だし。灰汁の強いキース君が、アルフレッドの琴線に触れたのかな?。悪い意味での…。
気を取り直して、
「じゃ、この話はここまで。お仕事のお話をしよう?」
そう言い、話を切り替えた。
「毎年恒例の、騎士団の試験の時期だよ。」
僕は、大きく手を打ち鳴らし、これから始まる未来の騎士達に思いを馳せた。




