巡れば美味しい
「何時も思っていたのだが…。」
ザラちゃんが不思議そうに言い、
「何故、ティアは私にはお茶を入れてくれないのだ?」
と聞かれました。私は落ち着かなくなってしまい、
「ユリウスや、エリーサ、他に何人かには、入れてるだろ?」
そう言われこくりと頷きます。
「あの、皆に止められてまして…。」
そう答えると、エリーサが明らかに渋い顔になりました。きっと、昔の事を思い出してるに違いないです。
「あの…。あのですね、私のお茶は味が悪いんです…。」
思わず最後は消えそうに言いました。すると、
「ああ、魔方陣のせいかな?」
ザラちゃんは、私の指に有る魔方陣の事に気が付いていました。
「知ってたのですか?」
そう言うと、こくりと頷き、私は魔力の塊だよ、と笑われました。つい、ザラちゃんが魔王様だと言うことを忘れてしまいます。
「まあ、物は試しで私に入れてくれないか。」
そう言われ、嬉しくなり喜んで、と答えると、エリーサからストップがかかりました。
「本気ですか?ザラ様が倒れたらどうするんです。」
エリーサ、すっかり強くなって怖いです。凄い低い声出るんですね。でも、エリーサだってもう今は、平気って言ってるじゃないですか。それに、体に悪いところがなければ、普通のお茶なんですよ。
「良いよ。入れてみて?どんな魔方陣か見たいし。」
そう言われれば、仕方ないですよね?
「はい!」
元気に答えます。
カップから白い湯気がたっています。ザラちゃんは、物珍しそうに見ていました。
どうぞ。と勧めると躊躇いなくお茶を飲んでくれて嬉しいです。でも、一口飲んで難しい顔になりました。やっぱりダメでしたか。
「成る程、バランスが悪いんだね?その魔方陣自分で入れたの?」
そう聞かれ、首を振りました。
「いいえ、気が付いたらなってました。」
「ほう。何か強く思うところが遇ったのかな?」
弟の事を思い出し悲しくなってしまいました。
「ティア。そんな顔するんじゃない。」
ザラちゃんが、側に来てそう言い私の手をそっと、その小さな手で包み込みました。するとザラちゃんが、仄かに光だし、その光が、ザラちゃんの手に集まりだします。次に、私の指先が熱を持ちだしました。その熱が引いていくと、ザラちゃんが、良し、と言い、
「ティア、もう一度入れてみてくれるか?」
そう促されもう一度お茶を入れました。
「うん。ありがとう。」
ザラちゃんは普通に受け取り飲み始め、大きく頷きます。
「良し、成功だな。エリーサにも入れてみてくれ。」
エリーサにも、お茶を出し、隣に座るよう促しました。おずおずと座り、お茶に手を出したエリーサが、驚いて口を抑えこちらをガン見してきて怖いです。
「クリスティア様!凄いです。美味しいお茶になってます。それに体に染み込む様な感覚で、体が軽い。効果もそのままどころか、倍増してる感じです。」
涙目でエリーサは言い、良かった良かったと一人納得していますが…。エリーサは、心臓が弱かったから、いくら慣れたと言ってもやはり大分我慢していて、解放されたと喜んでいます。何だか、失礼な感じです。
「ティア?」
そう呼ばれ、ザラちゃんを見ると、
「面白いことを思い付いた。」
そう言われ、ふふふ、と可愛く笑っていました。
執務室の扉をノックすると、入って、と返事が在りアルフレッドが、扉を開けてくれました。今日の朝に、ユリウスに目を通して貰い、NGが出た原案の改正した書類を持っての訪問です。
「ありがとう。アルフレッド」
そう言うと、僅かに頭を下げて黙礼を返してきました。
「改正した物です。」
と、ユリウスに渡すと、にっこり微笑んで、
「ありがとう。ご苦労様。クリスティア疲れてない?」
と聞かれました。…自分の方が疲れて居ると思うのですが。ふと、思い立って、
「ユリウス、今日ザラちゃんが私の魔方陣を、円滑に巡る様にしてくれたんですよ。」
と告げると、えっ、と驚き、
「凄い。でも、そうなるとどうなるの?」
と聞いてきました。首を傾げる姿は子供の頃と変わりません。
「えっと、お茶が普通の味になりました。」
報告すると、目を開いてビックリしてます。
「大丈夫です。エリーサにも飲んでもらって確かめましたから。それに、治癒効果も上がった見たいです。」
笑かけると、
「凄い。ザラ様はやっぱり偉大な魔王様だね。」
嬉しそうに言い、アルフレッドに茶器等の用意をお願いしていました。
「丁度一息付こうと思ってたんだ、クリスティアお願いしても良いかい?」
優しく聞いてくるユリウスが、愛しくて仕方在りません。
アルフレッドがテーブルの上に用意をしてくれたので、ソファに座り用意を始めます。ユリウスもソファに来て、隣で眺めていましたが、
「アルフレッド、おいでよ、ご馳走になろう?」
と声を掛け、自分達の前のソファを指差し座るよう促します。少し迷ったアルフレッドは、覚悟を決めたようにソファに座りました。
「では、少しだけ。」
と言い余り大きくないソファに大きな体を小さくして座りました。
三人分のお茶を入れ、二人の様子を伺いながらのお茶の時間です。