騎士様と勇者様
暑いですね。
俺、カイルは困っていた。今までの人生のなかで一番厄介な事を押し付けられた。王妃様は、泣きながら俺に謝って来て、逃げていいともいっていた。後が怖いので、その選択は、ギリギリのところまで我慢せざる得ない。人のことなんだと思ってるんだ。憤りと、哀しみが交互にせめぎあう。
田舎者の何の伝もない俺が、騎士に成れたのは、ほんの少しの幸運と、多大な、今の王様ユリウスのお陰だ。田舎のお陰で、魔物と対峙する機会が多く、その為そこそこの腕前に、身分を問わずやる気の有る者にチャンスを与えると言う、ユリウスの考えが、今の俺の地位を作っていた。
感謝してもしきれない、恩を感じてはいるが、それだけでは納得できない仕事もあるのだ。こと、スライムに対しては。
ユリウスのスライムに対する思いは常軌を逸してる。そうとしか言い表せない。他のことに関しては、本当に良い王様なのだ。騎士どころか、城内で働く者すべてのことをよく把握していて、家族に病や怪我など何かあれば、面識がなくても、手を尽くしてくれる。祝い事があれば自分のことのように喜び、ささやかながらも、心尽くし贈り物や、言葉をくれる。今までの王では考えられないほど、俺達に近い。この前は、城内の花壇を耕していた。野菜を植えたいらしい。
王様のありようとしては、どうかと思うが、個人的には好感が持てる。
だがしかし、スライムに関しては、恐怖しか無い。
魔王って何処よ?魔王城ってどの辺よ?地図に載ってる訳もなく、途方にくれる。この国に在るのか?はたまた隣国?それとも地の果てか?
つくまで生きてれる?てか、俺の人生終わった感しか無いんですが?
些か自暴自棄に成りかけの俺だが、旅人の集まる酒場や宿、ギルドを渡り歩き、とうとう出会った。
え?誰に?
勿論、勇者に。
彼の者、聖なる光の子にして、闇を照す一筋のうんちゃらかんちゃら...。色々と教わったけど、関係ないかと切り捨てた部分だったが、いやほんと光の子。光の子。笑顔が眩しいし、正論が腹立たしい。あれ?嫌だな。俺の心って意外に汚れてるかも?
自分再発見。王様に毒されてた?嬉しくない。それはともかくとして、勇者に魔王城の住所?聞いてみた。口ではどことは言えない。とのことで、地図に示してもらった。
あれ、意外と近いね?地図に示された場所は、隣国と、我が国の境界線上にあった。
帰らずの森。
そう呼ばれ人々から、恐れられている深い深い森が続いているところだ。隣国との境界線だが、お互い触れないようにしていた。なるほど、魔王のせいか。
知らなかった。
森に入れば、感覚が狂い道に迷い、森をさ迷う、死ぬまで。真しやかに言い伝えられていたが、案外近くの恐怖には、鈍感なのかもしれない。魔王は、すぐ隣のご近所さんだったわけだが。
気分が底辺を越えたんだけど。つまり、魔王の機嫌を損ねると、我が国どころか、全く関係ない隣国までhorobuのか。例え滅ばなかったとしても、大打撃必至だよ。おい、王様よ。どうするよこれ。
悩みに悩んで、国の名前出さないことにした。騎士団の装備品も解いて、個人としていこう。死んでも俺だけだ。なんだったら、逃げよう。
考えた末に、少々自暴自棄気味に、帰らずの森に出向くことにした。