困ったものです
私の大切な旦那様は変態です。
私には、容姿も性格もとても良い旦那様が居ます。
私には勿体ない位優しくて、気遣いの出来る人です。
私は、田舎の領主の娘ですので、彼に相応しくない事は解っているのですが、そんな私が良いと、妻に迎えてくれる優しい人です。
只一つ。彼、ユリウスには欠点とも言える嗜好があります。
そう、スライムの事です。寝ても覚めても、スライムの事ばかり。本当にどうしようも無いド変態です。
それでも、尚彼じゃなきゃ私は愛せないんです。
私も大概変態なのかも知れません。
大国の皇国からいらっしゃったサリアース様は、迂闊な人です。ユリウスをバカにしたり、私を妃に相応しくないと、言ってしまうほどに。いくら皇国の皇子だとしても、小さいとは言え一国の王に言う言葉ではありません。私の事はどう言っても言いのですが、ユリウスの事を悪く言うのは許されません。
しかも、ザラちゃんにまであまりよい印象を与えられなかった様です。私の紹介が悪く、成っていなかった為も有りますが、どうやらそれだけじゃ無いご様子。
後から来たレイブン様が意地悪を言ってからかうし、サリアース様は帰りたいと言い出すし、私の接客が悪い様で凹みます。
それなのに、レイブン様がサリアース様に午後の授業に出る様声を掛けました。
余りの驚きに尋ねると、レイブン様がユリウスの気持ちを代弁してくれましたが、納得がいきません。
何で、レイブン様がユリウスの機微に詳しいんですか?そういうのって、ずるいです。
ついつい、何時も怒ってしまいユリウスに嫌われないか心配になります。
でも彼が笑って、「クリスティアは本当に可愛いね。」と言ってくれます。お世辞でもそれが嬉しいのですが、ついつい意地を張ってしまいます。何故なら私が自分で可愛いとは思えないからです。冷たい色のこの髪も、意地悪そうなこの瞳も嫌いです。
先に言った通り私は田舎の出です。いえ、そう言ってしまうと、ユリウスも…と言うことになりますが、相手は王子でしたから、雲泥の差です。
幼少から、お互いに側に居たため、自分の人に知られたくない面も知られています。
私は、他の女性より少々お転婆で、両親共に結婚を諦めていました。真っ黒になるまで泥んこ遊びをしたり、探検と称して野山を駆け巡って居たのです。
3つ下の弟は体が弱く、本ばかり読んでいましたから、外から色々なものを取ってお土産にしたものです。
ユリウスは良く、弟の所に来ては色んな話を聞かせてくれていました。小さな弟が興味を持ちそうなことを、面白可笑しく言って聞かせ、最後に何時も、ふふっと笑い、兄弟っていいね?と言っていました。私はその頃、王都の事など知らない田舎の領主の娘でしたから、不思議に思っていたものです。
ユリウスの兄弟が沢山居て、余り良い関係とは言い難い事を大分後から知りました。ユリウスは、我が領地に暫くの間住んでいました。お父様が、そう進めた為です。ある日、ユリウスのお祖父様の領地から報せが有りました。不審者が捕まったとのこと。何の事か分からなかったけれど、お父様がユリウスの命を狙う人が居ると初めて教えられました。しかもそれは、兄弟だと言うことも。酷く悲しそうなユリウスに、私も弟も慰めたものです。結局、王位を継がないと、宣言しユリウスのお祖父様の領地から出ない事を条件に、彼は平穏を手に入れました。
そんな彼は、少々拗らした変態でした。
とても、周りの事を考えれる優しく、行動力の有る彼ですが、異常にスライムに興味を持っていました。その事に対してだけ、空気を読めない状態になります。
ユリウスはほうっとため息をついて、肘をテーブルに付き立てた手のひらに顎を乗せて遠くを見つめています。
どうしたの?と、聞くと、綺麗な顔をしかめて、
「皆、僕の言うことがおかしいって言うんだ。」
と言いました。幼い彼は、王子様然とした容姿で、我が家に来ていても、とても可愛がられていました。けれど、そんな彼をもってしても、ユリウスの考えに誰もが賛成しかねたのです。
「ああ、スライムのこと?ユリウスは本当に色んな事知ってるのに、魔物の事好きなんだね?おっかなくないの?」
そう言うと、首を振り、
「魔物じゃないよ。スライムだけだよ?」
と言いました。どこが違うのかわからないのだけど?
「ユリウスはスライムのどこがそんなに好きなの?」
そう聞きました。その時の彼の顔を今でも忘れません。はっとして、私を見詰めたと思ったら、急に蕩ける様な優しい顔になり、語り出しました。
その話の長いこと長いこと。元々じっとしていられない私には、地獄でした。でも、彼の好きと言う気持ちは伝わって来たので、怒るに怒れない状態だったのです。
ですが、流石に3時間過ぎた辺りで切れてしまい彼を怒りました。怒られていても嬉しそうな顔をしていましたが…。
やっぱり変態ですね。怒られて喜ぶなんて。