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苦い出来事

自由に成らなかった体がやっと元に戻った。それでも、冷や汗は引くこともなく、膝はガクガクとして力が入らない。奥歯はガチガチと鳴って自分が、恐怖におののいて居たことがわかった。自分の奥底に眠る、根本的本能的感情だ。

見た目に惑わされてはいけない。これは、皇国の城内に置いてわかっていたことだった。幼少より学んできた事だったはずだ。それなのに、1つも学んでいなかった。身に付いていなかった。皇国内ならば、きっと気も張って居たかも知れないが、遠く離れた今、自分の中の緊張感が薄れて居たに違いない。世界には、自分の命を脅かすもののなんと多いことか。

そして、最も驚いたのは魔王の力にクリスティアも、カイルも何も感じていないのだ。始め、俺だけに向けられた物かとも思ったが、ヴァブとかいうスライムが嬉しそうに波打って居るのが見えた。色も明滅を繰り返し変わっていく。魔力を浴びて歓喜して居るのが分かった。恐ろしい。この国が怖くて仕方がない。

何故、あの呑気で人の神経を逆撫でする様なアホが王で居られるのか?答えは魔王だったのだ。

もし、この国に魔王を大義名分で戦を仕掛けたとしても、皇国でさえ勝つことは出来ないだろう。

しかも、頼みの勇者が魔王側に着いているのだ。

なんとか、この繋がりを切らねば、人類に生き残るチャンスは訪れないかもしれない。

俺は勇者レイブンを引き離す事を一番になす事として行動することにした。

クリスティアさんが、体の調子を心配してくれた。カイルもそうだが、距離を置くことにする。

レイブンを皇国に連れて帰ろう。そう心に誓ったのだった。

ふらつく体に心の中で叱咤し、やっと立っていた。そこに来訪者が来た。ノックにめんどくさそうに答える魔王は、先程までの異様な気配がない。勝手に開けて入ってきたレイブンは一堂を見渡した後、俺に目を留めて苦笑いをした。

「魔力の気配がすごかったから来たけど、何だもう解決したのかい?」

そう、魔王に聞いた。首を傾げた魔王は

「問題なんて始めから無かったが?レイブン夢でも見たか?」

惚けてる風でもなく、本気でわかりませんを貫いた。小さく肩を竦めたレイブンは俺の方を見て、

「あんた、クレハ皇国の皇子何だってな。」

と話しかけてきた。何だか、軽い言いように腹が立ったが、取り込むと結論着けたのだから押さえる。こくりと頷く。もうばれているのだから、繕う意味はない。

「あんまりここで問題起こさないでくれないか?おれ、気に入ってるんだよね。」

そう言って、にっこりと微笑んだ。

「まあ、変な話。ユリウスはさ、威厳無くしそうで焦ってたけど、俺もザラも気にしてないし、通常運転だし。あんまり苛めて遣らないでね。」

笑顔が眩しい。だが、屈託の無いその顔が急に真面目な面持ちになった。

「国と国の間の事は分かんないけど?ここの奴等の事はあんたよりは理解してるよ?だから、傷ついてほしくないんだよね。」

そう言ってカイルに視線を向けた。

「カイル、ユリウスが呼んでたよ。午後の授業の事だってさ。」

レイブンの話にカイルはしかめ面をしたが、こくりと頷いて、

「分かった。レイブン、クリスティア様をお願い出来るか?」

そう尋ねる。大きくレイブンは頷き、

「勿論。クリスティア様が俺は嫌だって言わない限りはね?」

と返した。それを聞いたクリスティアさんは頬を膨らませて、子供の様に拗ねている。

「嫌だなんて言いません。わたし、そんな事言うような人間に見えますか?」

そう聞くと、レイブンは腕を組、首を傾げた。わざとらしく、う~んとか言いながら考える振りをした。その様子にクリスティアさんが青くなり、わたわたしはじめる。

「ティアを苛めるな!」

と魔王は言いながら、どこからか出した棒でレイブンの頭をすこんと、殴った。殴られたレイブンは頭を押さえて蹲り、

「痛って~。冗談だよ!冗談。クリスティア様何時も優しいよ!ユリウス以外には!」

それを聞いたクリスティアさんは、真っ赤になって、

「ちっ、違います!ユリウスにだって優しいわ!たっ、ただユリウスが何時もスライムを引き合いに出すから、ちょっとイラってするだけよ!」

言い募るクリスティアさんは、天使かと思うほど可愛いかった。レイブンをぽこぽこ殴り続ける魔王に、蹲るレイブンに言い訳するクリスティアさん。それを面白そうに見つめるスライムと、無かったことにして立ち去るカイル。そんなやり取りを見せられ続ける俺。

誰が一番不幸なのか。うん、俺だな。

初めて綺麗だと、好意を持った人は人妻で、自国とは違う命の危険を知ったのは、魔王。仲間にしたい勇者は、魔王とめちゃくちゃ仲が良い。そしてこの国の王族は、勇者と魔王に守られている。何だそれ。

「帰りたい。なんか、ホント帰りたいな~。」

そう呟くと、そこに居た皆が此方を向いた。

一斉に向く視線にビックリしながら見つめ返すと、

「サリアース様申し訳ありません。不愉快な処をお見せしてしまって。至らないところばかりで本当に申し訳ありません。」

そう言い、クリスティアさんが頭を深々と下げた。憂いの顔も綺麗だ。さっき心に決めたことが、既にぐらついている。

ボリボリと頭を掻きながら、レイブンが言う。

「まぁ、気持ちは何となく分かるけど、今は帰らない方が良いんじゃない?何も成せずに帰ったら、それこそ大変じゃ無いの?」

知った風にいう。あんたに何がわかる。誰にも省みられない存在、そんな生き方の人間の気持ちなんて。だが、心に秘め覆い隠す事は得意だ。

「帰りませんよ。帰れるはず無いでしょう?ここの王にも問われたが、俺は帰らない。」

そう自分にも言い聞かせる様に言う。

あっそう。と、素っ気なくレイブンは返し、

「じゃ、今日の午後からの予定。今日は皆で、お勉強会だから。そのつもりで。」

そう、レイブンが

言うと、クリスティアさんはビックリして、

「えっサリアース様も、勉強会に出るのですか?ユリウスがそう言ったのですか?」

心底驚いたように聞き返している。それを見たレイブンが、こくりと頷き、

「そうだよ。俺、ユリウスに頼まれたんだ」

すると、

「嘘でしょう!やだ。だってお客様ですよ!」

本気で嫌がっている。何の勉強会なんだ。レイブンは、微妙な顔をしているが、

「ユリウスは、自分の事に嘘をつきたくないんでしょう?だから、疚しい事はないと見せたいんだとおもうよ。ただ、理解してくれるかは別として…。ね。」

そう返すと、クリスティアの美しい顏が絶望に染まった。




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