口は災いのもと2
恐ろしいものを見た。
嫌、その人自体は大変美しい。初めて、女性を見て呆然としてしまった。心を奪われるとは、正にこの事だ。ところが、人妻。それも自分を嵌めて、悦に入っている憎たらしい王の嫁だと?信じられなかった。銀髪は青い光沢を発し、アイスブルーの瞳はどこまでも澄んでいて美しい。声も優しく心地良い。正に理想の女性だ。それなのに、このアホで、バカの嫁だと言うのか?
思わず出た言葉に憤慨していたらしく、彼女はいつの間にか側により俺の指を向いてはいけない方向へとへし折ろうとする。流石に女性に遣られたことに痛がるわけにいかず、かといって耐えることもできず、気絶寸前のところをアイツに助けられた。
俺の指から離れた手に神にも祈りたい気持ちだ。
しかし、流石アホスケ。二人ラブラブなところを見せ付けられて、かなりいやーな気持ちだったが、彼が言った言葉に静に彼女は見事な正拳突きを繰り出した。そして、そのままアホは絨毯へと沈んでいった。
「ちーん。」
カイルとか言う若い騎士が、両手を合わせそういった。なんだそれ?俺の疑問は、団長も感じたらしくカイルに聞いている。
「何か、レイブンの国では、なくなった人にチーンってなる鐘と、こうやって手を合わせるらしいですよ?」
すると、団長も
「チーン。」
と言いながら手を合わせている。しかも、なーむとか言っている。凄く蔑ろにしてる感半端ないのだが大丈夫なのか?
絨毯に横たわるアホを団長がひょいっと担ぎ上げソファーに寝かした。それに、いつの間にかカイルが毛布を持ってきて掛けている。まるで何時もの事の様だ。医師の手配をするわけでも無さそうだった。
「う~ん、どうします?」
カイルが団長に尋ねると、クリスティアさんに向かい、
「急ぎの案件はありますか?」
と聞いた。いいえ。と首を横に振り皆で頷いている。放置と決まったようだった。
俺は、クリスティアさんとカイルに連れられて魔王に謁見するのが決まった。『人類の敵』にである。アホの言うことが本当なら、あのちっこいのが魔王であるが信じられないでいた。魔王の部屋と案内された所には、可愛いピンクのネームが下がっていた。『ザラ』と書かれたそれは、周りに小さな花の飾りと宝石が散りばめられていた。随分手が込んでいる。が、人類の敵の部屋としては無いな。うん、無い。
ノックをして、返事を待つクリスティアさんのなんと可愛いことか。少し頬を染めてウキウキしているのが伝わってくる。見ている俺はあんな目に遭ったのに浮き立つ気持ちを押さえられない。すると、カイルと目が合った。冷たい視線だった。自国の王妃に確かに横恋慕する男など確かに不審でしかないか?嫌、もともと不審者なのだが。立ち位置も決まっていない今は、大人しくしておこう。
あのバカに会う前に、俺はルールにしたがって騎士団の奴等と剣の稽古をした。軽くと言うことだったが、意外と厳しかった。特に、勇者レイブンと、カイルに当たったときは手も足も出せなかった。それより、強いのがアルフレッドだと言う。レイブンとアルフレッドがやると、10回中7回負けると言う。アルフレッドの話では、魔物でないからレイブンは本気を出せないのだろうとのことだ。そんな奴等と稽古を着けた後、食堂で食事を取った。質素だが、旨かった。突然現れた余所者に対して、やたらと距離感が近い。誰にでもそんな感じなのか?
俺は、皇子として生まれたが、周りには誰も居なかった。信頼も信用もなく、猜疑心だけが生まれる様なところで育ってきた。
父王がこの国の話をした時、王族同士の権力争いの事を聞いた。もしかしたら、俺のように生きているのかと思ったら大間違いだった。バカな王はアホ面でお気楽に生きていた。ムカつく。凄惨な状態と聞いていたのに。何故だ。
それが、勇者と魔王によるものだとしたら?そう、思っていたのだが。会ってみて勇者は普通だった。嫌、強かったし、魔力も凄いのだろう。けれどやはり彼は人間の範疇にあった。つまり、普通だ。ならば魔王が、あのバカ王や、この国を治めているのか?
部屋からの返事を待つと、かちゃりと扉が開いた。ところが、開けられた扉の影には誰も居らず、勝手に開いた様だ。これも魔法の力なのかと考えたが、クリスティアさんが、部屋に向かって話始めた。
「ヴァブ様、ザラちゃんいらっしゃるかしら?お会いできますか?」
そう言えば、どこからともなく、
「いらっしゃいますよ。今呼んできますね。」
そう聞こえてきた。クリスティアさんの視線の先を追えば、下を見ている。下には、発光するうっすら色付いた水溜まり。水溜まりは七色に発光していた。くるくると流動を繰り返す様に光、色を変えていく。まるでシャボンのようだ。けれど、形を変えていくその物体に心底驚いた。魔物だ。しかも話すことのできるこれは何だ?そう言えば、バカ王が、ごちゃごちゃ言ってたな。スライムがどうとか?これは、あれか?スライムなのか?皇国には、今のところ5種のスライムが確認されている。しかし、人語を話すことのできるスライムなど、聞いたことがない。じゃ、これはスライムでは無いのか?
俺は混乱していた。




