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口は災いのもと

結局、少しの羞恥心は、好奇心に負けて真っ黒君をこの国に留めてしまった。どうやら、かなり位の有る生まれっぽいけど…プライドがやたらと高い。あんな生き方してたらつまらないんじゃないかな?他人事ながら気の毒になる。アルフレッドに騎士団の寄宿舎に部屋を用意させた。今は、レイブンさんもそっちの方に移っているので、いいだろう。城の敷地内に在るこの寄宿舎は、遠方から来ている独身者、又は単身赴任中の騎士達、官僚が入っている。勿論入らないで、城下に部屋を借りている者も居るが、費用が安く、食堂も在るので独身者には人気だ。もう一棟小さい物があり、そちらは女子専用となっている。そう言えば、名前を聞くの忘れていたな、と思い出した。まあ、明日にするか…。真っ黒君と呼びすぎて、何だか癖になってしまった様だ。

翌日、食事がすんだ頃、アルフレッドとカイルに連れられて真っ黒君が執務室にやっていた。酷く部屋の中を気にしており、こちらに近付いて来ない。余程魔方陣が怖いらしい。もう、客人なので大丈夫なのに。

「君の名前を聞いていなかったね?何て呼べばいいかな?」

そう聞くと、大きく鼻をならして

「はぁっ。今さら好きに呼べばいいだろう。」

そっぽを向いてこちらを見ようともしない。可愛くないな。

そこに、ノックの音が響き、僕は返事を返す。クリスティアが、今日のお仕事を持ってきたのだ。静に扉を開いて僕の愛しい人が入ってきた。嬉しくない、仕事ともに。

「おはようございます。今日の案件をお持ちしました。」

視線を書類に落としたまま、クリスティアは中に入ってきて、ふと、皆の視線に気が付き顔を上げた。

「あら、カイルおはよう。今日も朝から無理難題を言われてるの?」

にっこりと微笑んでカイルに聞いている。いいえ。カイルは苦笑いしながら首を横に振った。ふふふっと笑いアルフレッドにも挨拶している。まあ日常だな。ところが、その視線がピタリと真っ黒君に止まった。

「あっ。申し訳ありません。お客様がいらっしゃると思わなくて、失礼しました。」

そう言うと、頭を下げた。その様子を真っ黒君は凝視していた。異様な光景だった。

「私、クリスティアと申します。」

そう告げたが、真っ黒君は、返事も返さなかった。よく観察すると、なにやら耳が赤く染まっていた。

ふと、思い付きクリスティアに耳打ちしてみた。こくりと頷くクリスティアは、真っ黒君に近付いて、もう一度名前を告げそして、

「よろしければお名前を伺ってもよろしいですか?」

すると、突然びしりと、背筋を伸ばし、

「俺、嫌、私はクレハ皇国第5皇子サリアース=ウサハと言います。以後お見知りおきを。」

おおー。クリスティアの効き目は完璧だった。そうか、皇子か。厄介な。

「まあ、皇国の皇子様ですか?これは失礼しました。」

クリスティアはにっこりと微笑み綺麗なカーテシーを披露した。自分を美しく魅せる術を心得ている。いつもの彼女も美しいが、また別の意味で美しく僕を魅了する。言わないけど。何故か僕が賛辞の言葉を言うと怒るんだ。知ってるくせにと…。

「わたくしは、アレキア王国王妃クリスティアと申します。以後お見知りおきください。」

そう、もう一度名乗りを上げた。

「ええっ。王妃様ですか?えっ、この馬鹿の王妃ですか?そんなに美しいのに。」

うん。美しいのは本当。馬鹿は…も、本当かな。けれど、その言い方はちょっと頂けないかな。

「それは、どういう意味でしょうか?私が王妃では似合わないと?それともユリウスを貶めていらっしゃるのでしょうか?」

伏せた視線のまま、クリスティアが問いかけた。

「い、いえ。あなたに問題などありません。ただ、彼は王としては資質を問いたいと…」

僕を指差しながら、弁解するサリアースの側に音もなく近付いたクリスティアは、そっとその美しい手を上げた。そして、僕を指している指をそっと掴んだかと思うと、ギリギリと指をひねり始めた。始め何が起こったのか理解の追い付かない真っ黒君改め、サリアースは余りの痛さに膝ま付き、アワアワとなっている。

僕が、護身術を習う間、勿論クリスティアも同じく嫌、確かに同じものを習ったはずだった。ところが、クリスティアには、武術が合っていた。変に才能の芽が開花したのだった。その頃、アルフレッドが、僕の師だとするなら、クリスティアの師はアルフレッドの師匠が、先生だった。つまり、アルフレッドと、クリスティアは兄妹弟子の関係となる。僕より余程強いのだ。可愛いく、綺麗なクリスティアは、恐ろしく強い武術者でもあった。

サリアースは、意地でも痛いとは言えない様でただ、必死にうぐうぐアワアワと耐えているが、

「サリアース様、人に馬鹿と言いながら指を指すなんてよろしくないですね。そんな指は要らないんじゃないかしら?」

怖いことを言いながら力を緩めないクリスティア。ううん。何だか可哀想になってきた。

「クリスティア、ごめんなさい。」

僕は謝ってクリスティアの手にそっと触れた。

「ごめんね。僕がしっかりしてないから、クリスティアに嫌な思いばかりさせて。」

そう言うと、クリスティアは指を離して僕の方に向き直った。

「その通りです。ユリウス貴方がもっときちんとしていたら皆貴方を侮ったりしないのよ。」

ご立腹。

「でも、それでも良いと私が許してしまったのだから、私にも責任がありますね。勿論、アルフレッドもです。咎めなかったのですから。」

クリスティアはにっこり微笑んで、僕の側によって来た。

「ユリウス、本当に仕方ない人。でも、貴方はそのままが良いわ。それに文句を言うのは私だけで十分です。私だけの特権ですからね?」

可愛く首を傾げながら言う仕草は、天使そのものだが、先程までの行いでフラットな状態になるよね。でもそこは、愛の特別補正。

「勿論だよクリスティア。僕が愛して止まないのは、クリスティア、君と、スライムだけだ。」

直後、目の前が暗くなった。


スライムが遠い。

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