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嫌、無い

「ちくしょう!」

俺は思い切り床を殴っていた。よもやあんな頭の弱い糞王に嵌められるとは!プライドが許さなかった。

クレハ皇国の皇帝に呼ばれ、生涯2度目の拝謁が叶った。自分の父だと言うのに母の身分が低くて会うことも儘ならない状態だったのだ。そんな皇帝が自分を呼び、密偵としての役割を与えてくれたのだ。ところが、ここはバカ呑気な奴らばかりの腐った国だった。それなのに、そんな奴に裏を掛かれ、今はどうだ。薄汚れた牢屋に這いつくばっているのだ。皇帝に会わせる顔がない。

皇帝は言っていた、アレキア王国は荒廃していると。王族同士で殺し相を繰り広げ、貴族共も入り乱れての混乱を起こしていると言っていたのだ。そこに、魔物や、魔族、魔王の事を探って居る事も知れた。

ところがどうだ、国内に入れば、道は整備され、流通は滞りなく行われていた。王都から離れた所でさえこうなのだ。人々は新しい王を受け入れていた。しかし、何も知らないだけなのかもしれない。民など誰が王に成ろうと、自分達の生活さえ差し障りがなければ気にしないものだ。

皆が日和、能天気に生きていた。バカばかりの国だった。生活は豊かではない。が、悲観する者も少なかった。城にさえ、業者を装えば直ぐに入ることができた。執務室には、見張りもいず不気味に鼻歌を歌いながら嗤う男が一人。話で聞いていた王に違いない。暫く様子を見ていたが、俺の存在にも気付かずに居る。苛立って、目の前に出てしまった。そして、乗せられて皇国の人間だと言うこともばれ、こんな牢屋にも落とされてしまったのだ。自分が情けなくなった。

「ほらー、居るだろう?」

あの糞王の声が聞こえ、足音が近づいてきた。王の前に、牢番の様な男、後ろにはやたらとデカい騎士が着いてくる。そして何故か、横には子供が居る。王の子供か?

牢内を覗き込みながら、

「体の調子はどうだい?」

笑いながら声を掛けてきた。バカにしているのか。くそ。

「もう動けるだろう?毒性強くないらしいし…何でまだ入っての?」

やっぱり笑いに来たらしい。

ところが、王は牢の扉を不意に開いた。「鍵かかって無いのにまだ居ると思わなかったよ。」

余りにもビックリして声が出なかった。鍵が掛かってなかっただと?いくら毒で体が辛くても、逃げるチャンスは幾らでもあったのか?

「何故!?」

思わず声が出る。

「ええっ!?だってここもう使ってないから?要らないかなって?」

自信なさげに後ろの騎士に視線を向けている。使わないよね?と同意を求めていた。

「じゃあ、何故ここに飛ばした?」

すると、

「嫌、だってもし君が暴れたりしたら危ないでしょう?目的が解らないんだから、城内で誰も居ないところに移って貰うのが一番かと。」

成る程被害を避けたのか。

「君さ、勿論今回ここに来た目的なんて言わないでしょう?真っ黒君。」

変な名前が付けられた。ギリギリと睨み付けたが、何処吹く風だ。飄々とした態度が気に食わない。

「アハハ。あんまり睨まないでよ。怖いなー。ちょっと、記憶を改竄したら帰っていいからすこし待っててね?」

物騒なことを言い始めた。やはり、何か企んでいたのだ。

「お前達、やはり魔物を使って何か起こそうとしているな!」

そう叫ぶと、ビックリして目を見開いた王が、

「何で?皇国の人が知ってるの?スライムに埋まりたいことーーー!」

…。はぁ?スライムが何だって?

嫌違うだろう。魔物を使ったり、魔族と手を組んだりして、他国を攻めたり、妙な力を手に入れたりしたいんだろう?そうだよな?だって、魔王の名前まで上がってたんだぞ!

「面白いな。やっぱり、ユリウスの行動は理解不能だ。」

隣の子供が声を出す。全然愉快そうな顔はしていない。

「でも、だって城内では隠してないけど、他では我慢してたんですよ!嫌、おじいさまの領地では周知されて…待って、お隣のクリスティアのお父様の領地でも、知れてたかもだけど…」

顎に手を当てながら考え込み出した。

違うから、スライムの事では無いから。やっぱりBAKAなのか?

痛ましそうな顔をした牢番と、キリッとした騎士が微妙な感じになっている。

「まっ良いか。あのね?そう言うことだから、僕が執務室でニヤニヤしてたり、歌ってた事忘れて欲しいんだ。」

記憶の改竄って、あの間抜けなシーンの事か?

「ふざけるな!あんな、下らない事位で記憶を弄る気か!」

怒鳴り付けると、ええ~。と不満の声が上がった。

「だって、真っ黒君誰かに言うでしょ?元々威厳が無いのに底辺越えて、地下に行っちゃうよ。流石にそれは困るかと…」

本気で言っている様子に、ゾッとした。コイツある意味狂ってる。じゃ、と声を掛けたのはやはり子供だった。

「こんなのはどうだ?真っ黒君に禁詞の呪いを掛けるんだ。お前が言われたく無いことを制約として人にどんな手段でも伝えることが出来なくなる。どうする?」

そう言って、王を見上げている。王に向かってお前とか呼ぶこのお子さまは誰だ?すこし考えた王は膝を付きお子さまに、

「気を使わせて申し訳ありません。何もしなくて良いです。自分のバカな行いは自分で償います。ザラ様はどうぞお気に為さらず。少し恥ずかしかっただけですから。」

申し訳無さそうに微笑んでいる。

「ザラ様に来ていただいたのは、毒が抜けて無い時にお願いしたかっただけです。」

そう言って視線を下げた。お子さまは年寄りの様に頷き、

「良いよ、ユリウス。お前は本当に気を使い過ぎだな。頼みぐらい聞いてやるのに。」

そう言うと、

「もう十分叶えてもらっています。」

にっこり微笑んでいる糞王は、やっぱり王の貫禄が在った。



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