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九十八話 ダイジェスト

 二戦目の戦況は、キシが狙撃銃の弾を使い切ることで百機いた敵機体のうち手強い相手を真っ先に戦闘不能にした。そのことで戦場は一人勝ちが難しい状況での乱戦に陥り、潰し合いが激化した。時間が経過すると壁に到達する機体もでてくるが、満身創痍の機体しか来ない。

 そんな破損した機体では、万全の布魔に乗るキシの相手は無理だった。

 あっという間に二回目の戦闘が終わると、キシは食事を取って眠り、三戦目に備える。



 三戦目が開始する直前、再び飛行機が飛来し、新たな物資が到着した。格納庫にあったものは、追加の食料と、グレネードランチャーと榴弾が山ほどだった。

 キシは榴弾を壁の上に運ぶと、各所に分散配置した。そしてグレネードランチャーを構え、人型機械たちの襲来に備える。

 三戦目の人型機械たちの布陣は、高速機が少なくなり、中速度帯機体も進行が遅い。そのため、重装甲機体と砲撃機体が戦列の前面に出てきていた。

 キシはどういう理由があるのかと見ていると、重装甲機体と砲撃機体だけが交戦可能地域に入ってきた。そしてどちらの機体とも、壁に向かって砲撃を開始した。

 機関砲と榴弾の弾が壁へと到達し、激しい振動と音が巻き起こる。

 機体数によって高さが変わる壁があるからこそ、キシと戦うために潰し合いが発生すると考えて、壁の破壊を優先することにしたようだ。


「思い切った手段だけど、火力が足りるかな?」


 キシの疑念は的中し、連続発射で加熱しすぎた機関砲の銃撃が止み、榴弾を使い切った砲撃も止まってしまった。

 では、分厚い壁がどうなったかと見れば、弾丸や榴弾で多少の傷はついていたものの、分厚い壁にひび割れを起こすまでには至っていなかった。

 残念そうに肩を落とす重装甲機と砲撃機体たち。

 その後ろから、高速機と中速度帯機体がたちが交戦可能地域に入ってきて、重装甲機と砲撃機体を後ろから撃ち倒した。

 そこからは一戦目と同じような展開が発生し、高速機と中速度帯機体の潰し合いが始まる。

 キシは壁の上から戦況を眺めつつ、機体が集中しているところに、グレネードランチャーで榴弾を撃ち込む。壁の上を移動し、再び集団を見つけ、グレネード爆撃で敵機体を破壊していった。

 撃破数が増えたことで壁が低くなる。その壁を乗り越えてやってくる機体を、キシは榴弾を直撃させて爆散させて倒していく。

 そうこうしているうちに、敵機体の数は減りに減り、最後の一機を榴弾で爆散させたところで、戦闘は終わった。




 四戦目。飛行機が持ってきたのは、六連銃身の回転式機関砲ガトリングとその弾、そして大量の地雷だった。


「これはまた、使い道に困る装備だな」


 回転式機関砲は重量がありすぎて、空中機動を中心に戦う布魔と相性が悪い。

 地雷は敷設してから使うもので、あと少ししたら戦いが始まるといういまから準備しても意味が薄い。

 キシはとりあえず、回転式機関砲の本体だけを先に壁の上に運び、後から専用弾も運び上げた。地雷は次回以降に使うことにし、発着場の敷地内での戦いで流れ弾で誤爆しないように、シャッター建物の端の端に積んで解体されていた飛行機の装甲で覆い隠す。

 そうして戦いの準備がひと段落ついたところで、高速機が交戦可能地域に入ってきた。

 キシは壁の上から回転式機関砲で銃撃。機関砲の射程圏外ではあるが、壁はかなりの高さを誇っているため、撃ちおろしで重力加速度を得られる分だけ射程は伸びているため、銃撃が可能になっている。

 避ける高速機を追って、砂の大地にミシン目の銃撃痕が刻まれていく。やがて避けきれず、銃弾の雨に高速機が被弾する。

 キシは一機屠れば、また次の機体。撃破したら、次の機体と狙いを変えて銃撃していく。

 回転式機関砲の威力に、高速機たちはキシの銃撃を食らわないように、迂回して壁を超えられる方向に進路を変える。しかし一区画分の機体が他に流れたことで、他の高速機と遭遇する確率が上がり、出会えば戦いになる。

 高速機の潰し合いが始まったところで、中速度帯機体たちが交戦可能地域に入ってきた。

 キシは同じように銃撃を加える。高速機よりも機動力が低い相手であるため、面白いように当たる。しかしながら、装甲は高速機より厚みを増しているため、当てただけで撃破とはならず、倒すには数秒当て続けることが必須だ。

 それでも、一機、また一機と撃破を重ねていく。すると、健在の機体数が減ったことで、壁の高さが低くなった。

 高さが減ったことで、銃撃可能な距離も減衰し、人型機械の群れが近寄る猶予を与えてしまう結果になる。

 それでもキシは、壁の上を移動しながら回転式機関砲を撃ち続けて、壁にかかる圧力を均すように心がけた。

 キシが苦心しているところで、重装甲機と砲撃機体が交戦可能地域に入ってきて、先行する機体を狙って銃撃と爆撃を始めた。それだけでなく、超長距離用の砲身を持つ砲撃機が現れ、直接発着場を狙い始めた。

 激化する混戦だが、高速機たちは中速度帯機体たちに倒され、その中速度帯機体たちを砲撃が打ち据えるような流れになる。

 やがて、百機の敵機体で生き残ったのは、重装甲機体と砲撃機体が合わせて二十三機。

 彼らは発着場の壁に揃って近づいてくる。

 キシは回転式機関砲で応戦するが、機関砲の銃弾であろうと遠距離から攻撃は重装甲機体には通じない。しかもお返しのように、砲撃機から榴弾や徹甲弾が飛んできた。


「うへぇ。これは近づいてくるまで、こっちは逃げておかなきゃだな」


 キシは低くなった壁の上に回転式機関砲を持ったまま壁の内へと逃げ、布魔に壁に背中を預けるように座らせる。

 すると今度は、砲撃機から曲射による爆撃が行われ、発着場の敷地に満遍なく砲弾や榴弾が降るようになった。

 管制塔が直撃を受け、半ばほどから折れて地面へと落下する。シャッター建物にも爆撃が加えられたが、屋根の下は倉庫状の障害物が少ない広い空間だったために、拡散した爆発力で屋根は吹き飛んでも建物自体が倒壊することはなかった。


「寝床と地雷の場所には、当たってくれるなよ」


 キシは祈りながら、時を待ち、重装甲機体が十分に近づいたところで、壁の上に舞い戻り、回転式機関砲で銃撃する。

 距離が詰まっていても、やはり装甲の厚みはある種の正義である。機関砲の弾をつるべ打ちにして、ようやく一機が潰れてくれた。

 倒すことに時間がかかってしまったため、砲撃機の照準を布魔に合わされてしまう。

 四方から砲撃が飛んできて、榴弾が頭の上に振ってくる。

 キシは布魔を移動させて榴弾を避けつつ、重装甲機を銃撃していった。

 重装甲機もただやられるわけではない。弾を食らいながらも、その装甲の厚みで被撃破時間を伸ばし、反撃に手にある機関砲を布魔に浴びせていく。

 布魔の装甲では、機関砲の直撃を食らえば一撃で戦闘不能になってしまう。そのためキシは、壁の上から銃撃することを諦め、壁の内側に逃げて敵機体たちを発着場の敷地内におびき寄せることにした。

 重装甲機は壁を乗り越えて入ってくる。しかし砲撃機は、重装甲機が全て倒されるまで砲撃を続けるようで、壁の内側には入ってこない。


「榴弾の雨の中での戦闘か。神経を使うなぁ」


 キシはボヤキつつ、入ってきた重装甲機の戦闘に突入。回転式機関砲を撃ちながら、自分から接近していく。

 距離が縮まれば、その分だけ砲弾は初速に近い速度で相手に当たることになる。そして弾丸の速度は、そのまま威力に直結する。少し距離があれば装甲を抜くのに三十秒かかるとしても、近づけば十秒に、より近づけば五秒に短縮が可能だ。

 そして肉薄するまで接近できれば、重装甲を切り裂くために生まれた実体剣の出番だ。

 布魔が接近した敵機体に刀を振るえば、その刃は豆腐を切るような容易さで、相手の重装甲を切り裂き致命傷を与える。

 一機倒したら、また別の機体へ向かって突撃し、回転式機関砲の銃撃ないしは刀の両断で屠っていく。

 そんな攻撃を続けていたら、砲撃機まで敷地内に侵入してきた。


「砲撃の弾が尽きたのか。それとも、重装甲機が倒れ尽きる前に、共闘を図るためか――」


 キシは呟きながら、どちらでもやることは、今までと同じと判断を下す。事実、回転式機関砲を構えて銃撃突進し、肉薄できれば刀で両断することこそが、この戦場でキシが取れる一番確実な相手の倒し方だった。

 その最適な戦法を行い続けた結果、敵機体は全滅し、無茶な連続射撃をさせた回転式機関砲の銃身は溶け落ち、装備していた刀は半ばほどからぽっきりと折れてしまった。


「回転式機関砲なんて重装甲機相手じゃないと布魔の機動力が落ちて大変だし、刀は前に飛行機が持ってきたものがあるから、惜しくはないけどな」


 キシは肩をすくめて、破損した武器を地面に投棄した。

 戦いが終わったことで、再び壁が高い位置まで伸びあがる。そして、人型機械のリアクターが停止し、布魔がバッテリー駆動に切り替わる。


「敷地内で倒れたままの人型機械から武器を回収し、地雷も建物から拾ってきて、敷地内に配置。砲撃による建物の被害の調査もか。今日はやることが多いな」


 キシは後ろ頭を掻きながら「暇つぶし」という言葉を呟きつつ、作業を始めた。

 バッテリーが尽きるまで布魔を働かせた後で、キシは徒歩で建物の被害状況を確認していく。

 ほぼ全ての建物の天井に穴が開いてしまっているが、キシが気にするべき被害らしい被害はなかった。心配された自室の倒壊も回避されていて、直上階の被害も少なく倒壊の心配は必要なかった。

 キシはシャワーを浴びてからベッドに座ると、缶詰とレトルトパウチを開けて食べ始める。

 飛行機が大量に送りつけてくる分もあるからか、それとも戦闘疲れとストレスのためか、キシは次から次へと空けて腹いっぱいになるまで食べ続けたのだった。

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