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九十七話 支援物資と二日目の戦闘準備

 キシは監禁されていた部屋に戻ると、シャワーを浴び、缶詰とレトルトパウチで食事をとった。

 焼き鳥缶とお粥だ。

 人心地着いたところで水を飲み、ベッドの上に身を投げる。


「はぁー、疲れたな……」


 ぼやきつつ、バッテリー切れで活動を止めた布魔のコックピットから持ってきた、ある目的のために『知恵の月』の面々に作ってもらった情報が入った携帯端末を持ち上げる。


「一日戦えば逃げられると思ったのに、最悪の方向に予想が進んでいるからな。万が一のことを考えて、これを読み込んで記憶しておかないと」


 キシは画面をタップしながら、端末に入っている情報を読み進めていく。


「こういうアナクロな方法で学ぶのなんて、久しぶり過ぎて勝手がわからなくなっているな」


 キシの元となる『比野』がいた地球の日本では、情報を脳へインプットする装置が活用されているため、必要な知識はその装置で脳に入れることが普通となっていた。

 自分の目で文字を追い、読み解いた文章を脳の記憶野に刻み込む行為など、学生のなかでも小学生しか行っていないぐらいだ。

 それでもキシは、端末の情報をゆっくりと記憶していく。

 書かれている内容はというと、リアクターをリアクター爆弾や電磁波爆弾へ改造する手引き、人型機械用の銃の弾丸にある火薬を人間用に転用する方法、人型機械のコックピットにある脳読み取り装置の無効化の手順、カーゴを奪取するために必要な項目などだ。

 キシは書かれている内容を一通り読むと、指で目頭を押さえた。


「うーん。なかなか覚えられないな。けど、『比野』がミッションに出てくる前に覚えきらないと、意味がなくなっちゃうしな」


 キシは端末を操作して、最初ページに戻す。

 もう一度、最初から最後まで読むと、再び同じことを繰り返し、さらにもう一度行っていく。

 繰り返し読むことで記憶しようと頑張るキシだが、慣れない勉強に段々と脳が疲れてきて眠気が生じ、段々と瞼が落ちてくる。

 さらに少し時間が経つと、キシの目はすっかりと閉じられていて、口からは寝息が漏れ出てしまっていたのだった。




 キシが目を覚ます。

 遠くの方から飛行機のプロペラ音が聞こえてきた気がしたのだ。

 キシは慌ててベッドから起きると、携帯端末を拾い上げて、管制塔へと昇った。

 周囲がガラス張りになっている部屋の中に入ると、周囲に目を配る。

 視界の大半は高い壁で邪魔されていてよく見えなかったが、プロペラの音で震えるガラスの振動の強さから、音がする方向を定めることはできた。


「一番長い滑走路がある方向からか」


 キシがそちらの方へ視線を固定して待っていると、段々とプロペラの音が大きくなってきた。

 そして壁の向こうにある上空に、前に見たことがある四枚プロペラのティルトローター式の飛行機の姿を見つける。

 その姿は段々と大きくなって――つまりは発着場に近づいてきていた。

 なにを運んできたのかとキシが見ていると、突如プロペラの音が止まった。

 よく見れば、飛行機の四つあるプロペラが完全に止まっている。


「リアクターを停止する謎空間は、あんな上空にも作用しているのか」


 キシは、人型機械の親玉が自分をどうやっても、イベント開催期間が終わるまで発着場から逃がす気はないのだと悟る。

 そうしているうちに、飛行機の高度と速度はドンドンと下がっていき、滑走路へ近づく。

 飛行機は高い壁の上をギリギリで通過すると、胴体着陸寸前で予備電源が作動したのか、遅ればせながらに車輪を機体から出して着陸した。しかしブレーキはかからずに、シャッターがある建物の一つに頭から突っ込み、翼が衝撃で曲がってしまった。

 キシの地点からでは、飛行機が建物に突っ込んだことしか分からなかったが、とりあえず様子を見るために移動を開始する。



 飛行機が突っ込んだ建物に向かうと、機首が建物の奥の壁を貫いてしまっていた。


「なんて乱暴な止め方だよ」


 キシは呆れながら、飛行機に近づく。

 翼は曲がって、ところどころが破断している。しかし破損個所から、オイルやガソリンなどの液漏れはない。そもそも動力がリアクターだ。地球の飛行機のように、翼にガソリンなど入っているはずがなかった。

 キシは飛行機の尾翼から接近すると、機体をペタペタと触って、スイッチの類がないかを探していく。

 見つけたハンドルレバーを引くと、飛行機のお尻部分が開いていき、機内の格納場所が露わになった。

 そこに入っていた物資を見て、キシは思わず感嘆を呟いてしまう。


「うひゃー。スコープ付きの遠距離用ライフルと専用弾が詰まった弾薬箱が一組。標準的なアサルトライフルの弾もどっさりだ。布魔が持っているものと似た刀が二本と、手榴弾が複数個、壁に取り付けられているよ。俺に使わせるためだろうけど、親玉さん大奮発だな」


 キシは人型機械用の武器に目を取られていたが、格納庫の端の方に小さな箱が置いてあることに気付いた。

 その小ささから、人型機械ではなく、人間のための物資だと見当がつく。

 キシは箱を開けてみた。すると中にあったのは、缶詰やレトルトパウチ。そして、緩衝材に包まれた瓶と手のひら大の白いプラスチックの筒が数個。


「なんだろ、これ」


 キシは瓶を持ち上げて確かめてみると、ラベルの代わりのように、文字が表面に印刷されていた。

 単純に『酒』と、こちらの文字で書かれてあった。

 ふたを捻り開けて中身を嗅いでみると、確かにアルコール臭がした。それと、どこか柑橘系を思わせる、フルーティーな香りもある。


「酒に慣れてない俺でも、つい美味しそうな匂いって感じるぐらいだから、相当いい酒なんだろうな」


 キシは思わず飲んでみたいという衝動にかられたが、戦いが控えている状況で試してみる気にはなれなかった。

 蓋を閉じなおして、キシはプラスチックの容器を取り出す。

 こちらの文字が直接プリントされていて、『精神安定剤』と書かれていた。

 また別の筒を取り出すと、こちらには『興奮剤』と書かれてある。他は『睡眠導入剤』、『鎮痛剤』、『栄養剤』だった。


「戦闘以外で俺に潰れてもらったら困るからって、親玉さんは気を利かせたつもりなんだろうな」


 キシは苦笑いすると、栄養剤の文字のある筒だけもらって、他は元に戻してしまう。


「さて、戦闘報酬は貰えるみたいだし、頑張ってイベント期間を生き残るとしますか」


 キシは左右に首を傾げて首筋を伸ばすストレッチを行うと、人間用の箱を持ち上げて、自室へと引き返すことにしたのだった。





 キシが自室で端末の画面の文字を読んでいると、アナウンスが流れた。


『もうすぐ、第二戦が始まります。布魔のパイロットは、機体に搭乗してください』


 キシは座っていたベッドから立ち上がると、レトルトパウチを一つ開けて中身を口に流し入れる。内臓肉のトマト煮込みだった。

 腹ごしらえを済ませ、手に入れたばかりの栄養剤を一粒口に入れ、口の中の味ごと水で胃へと流し込む。


「さて、さっそく貰った狙撃銃を使わせてもらうとしますか」


 キシは建物の外に出ると、バッテリー切れで擱座していた布魔のコックピットに入る。

 どうやら、リアクターが使えなくなる謎空間は消失しているようで、コックピットにはすでに電源が入っていた。サブモニターには、使い切った非常用バッテリーをリアクターからの電力で充電中という文字もある。

 キシはハッチをボタン操作で閉めると、先ほどシャッター建物に突っ込んできた飛行機へ向かう。

 開いている格納庫に布魔の腕を突っ込ませ、狙撃銃と専用の弾薬箱を引きずり出す。狙撃銃は布魔に持たせ、弾薬箱は腰の収納部に接続固定した。

 その直後、サブモニターに狙撃銃の説明が現れる。


「へぇ。連発と単発を切り替え可能な、ベルト給弾式の自動装填の狙撃か。ブルパップ方式の弾倉と合わせて、ちょっと変わった銃だな」


 キシは説明に書かれてあった通りに、弾薬箱の側面にある穴に布魔の指を突っ込ませ、腕を引き上げさせた。

 ずるりと箱から引きずり出される形で、蛇腹な帯状の給弾ベルトが出てきた。その先端を、狙撃銃の弾倉へと入れ込む。自動的に装填レバーが動いて初弾が薬室に装填され、給弾ベルトの中を弾薬たちが一つ上に移動した。

 キシは狙撃銃の取り回しを確認した後で、今度は格納庫から手りゅう弾を三つ取り出し、腰の収納部に固定する。


「準備は終わったから、壁の上に立って待ち構えるとしますか」


 キシは布魔を壁際まで移動させると、バーニアを最大に噴射させて壁の上へを目指す。

 順調に上昇していったが、壁の上に布魔の上半身が乗り出たところで、急に推力が落ちた。バーニアの最大威力での可動時間が限界になり、保全機構リミッターが作動してしまったのだ。

 キシは慌てて布魔の腕を壁の上に伸ばし、抱き着く形で機体を固定して、落下しないように保持する。


「危なかった。そりゃ、狙撃銃とその弾薬が詰まった箱を持っているんだから、そのぶん推力が減衰するのは当然だった」


 キシは新しい銃を貰えたことに浮かれていたことを反省すると、休ませて保全機構を解消した後でバーニアを再噴射させて、布魔を壁の上に着きなおさせた。

 少し壁上りに時間を取られていた間に、ミッションの二回戦目は始まってしまっていたようで、すでにカーゴから人型機械たちが飛び出している。

 一回戦目と同じく、高速機たちが単独で前へ突出し、それ以降は団子のようにまとまって発着場へ向かっている。

 このまま同じ展開になると思いきや、高速機は交戦可能地域に入って少しすると、反転して後ろからやってくる者たちを迎え撃つ体勢をとっている。しかも、多くの高速機が握っている武器は、拳銃ほどの大きさで狙撃銃の弾を発射する大型拳銃砲ハンドキャノンを持っている。この銃なら、中速度帯の機体ならどの距離からでも撃ち抜けるし、距離が近ければ重装甲機体も貫通できる。ただし、反動が酷いため、当てられる腕があるのならという注釈がつく。

 一戦目にはなかった装備を見て、キシはコックピットの中で顎の下に手を添える。


「一戦目の情報がSNSで出回ったのかもな。となると、時間が経てば経つほどに、このミッションに有利な武器や戦法が生み出されるんだろうな」


 キシは次回以降の戦いに懸念を抱きつつも、布魔に狙撃銃を構えさせた。

 狙撃銃につけられたスコープからの光景をサブモニターに映し、その画面を見ながらT字に書かれているスコープの照準を合わせる。スコープの自動補正が働き、

 狙うは、発着場に背中を向けている高速機の一機だ。


「こっちから狙撃されるとは、考えてないんだろうな」


 キシは呟きながら操縦桿のボタンを押す。狙撃銃から銃声が上がり、徹甲弾が発射される。

 空中を突き進んだ弾は、狙った高速機の背中に命中し、コックピットまで貫通すると砂地に突き刺さり埋まった。

 貫通の威力で腹から二つに折れるように倒れた機体に、近くにいた別の高速機がうろたえた様子で後ろを振り向く。その頭に向かって、布魔の次弾が発射され、直撃した。

 高速機たちは数秒で二機戦闘不能にした布魔の存在を知り、当初の通りに交戦可能地域に入りつつある中速度帯機体の群れを狙うべきか、いまからでも壁の上にいる布魔に対処するかを迷った。

 その迷っている間に、新たに二機がキシの狙撃の餌食になる。


「この狙撃銃凄いな。スコープの照準の真ん中に合わせるだけで、狙った場所に簡単に飛んでいくなんて、照準補正が効きすぎだ」


 キシは手放しで喜んだが、行動を迷う高速機がとりあえずの策として回避行動を開始すると、評価が逆転する。


「敵機の軌道を読んで補正してくれるのはいいけど、不規則な回避行動を取られると、フェイントにつられてスコープの画面がぶれるな」


 キシは狙撃銃の制御項目を呼び出すと、スコープの時報補正をオフにして、照準位置をデフォルトに設定しなおす。


「これで当てられる」


 スコープの画面を映すサブモニターには機影はないのに、キシは狙撃銃を撃った。

 飛んでいった弾丸は、回避行動を取っていた高速機の胸元に突き刺さり、左胸から背中まで大穴を空けた。

 こうして一区画の高速機の数が減ったところに、中速度帯機体たちがやってくる。そして、進行の邪魔をしようとしている高速機たちを屠ろうと、行動を開始した。

 高速機の側は、距離を保って戦おうとしていたのだが、正面と側面から襲い掛かれる形になり、どんどんと数を減らしていくことになる。

 その戦いっぷりをキシは壁の上から眺めて、手ごわそうなプレイヤーだけを選別していく。


「長い期間戦わなきゃいけないからな。手を抜けるときに、手を抜く方法を取らないと」


 キシは狙撃銃で、手強そうなプレイヤーのみを狙撃していく。

 流石は世界レベルのキシが『手強そう』と判断した相手だけあり、狙撃を前提とした回避行動を巧みに行い、狙撃の弾丸に当たることが少ない。

 しかしそれは、キシにとって想定内。

 それでもあえて狙撃しているのは、回避行動を強制的に取らせることで、別の機体が仕留める隙を生み出すためだった。


「あの機体の近くにいるプレイヤー、頑張ってくれよ」


 他力本願もいいところだが、キシは狙撃銃を撃ち続けるのだった。


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