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九十六話 戦闘――終了後の罠

 キシの三次元戦闘に、壁を乗り越えてやってきた敵機体たちは翻弄されていく。

 敵機体たちはキシとの戦闘を望んでやってきたにもかかわらず、一対一では勝てないと悟って、即席でペアを組む。


『くそっ。制圧射撃! 一度空に飛ばれたら、視界内に収めるのだけで手一杯になる!!』

『この予測進路を惑わす動き、幻影舞踏ミラージュダンスの応用なのか!?』


 背中合わせになって死角を消し、索敵しやすい様に工夫しながら、その二機は外部音声で意思疎通を図る。

 その声は、緊張をはらみながらも、どこか嬉しそうだ。


『ネットに流れていた動画を見て、実は大したことないって思っていたんだが。あれはファウンダーを改造した機体だからだったんだな』

『現状最新機を使わせるだけで、こうも手玉に取られるなんてな。ははっ、世界レベルってのは凄いな』 

『これからは、プロゲーマをリスペクトして生きていきたくなるぜ――右に下りた!』


 警告を発した機体の右側面に、布魔が着地する。その手には、日本刀に似た形状の人型機械用の実剣が握られている。

 組んで戦っている二機は、背中合わせ状態のまま急いで布魔にに照準を向けようとして、お互いの機体の肘がぶつかり合ってしまう。

 連携が取れない相手と組んだとき特有の失態に、キシはその隙を生かして襲い掛かる。

 布魔が全速力で前進し、二機の胴体を両断する軌道で、刃を振るい抜いた。

 二機とも、コックピット部分から背中までを一挙に切断され、上下に分かれた機体が地面に落下する。


「ふぅ。さて、残りはっと」


 キシは布魔の背中の収納部に刀を仕舞うと、腰からアサルトライフルを取って構え直しつつ、状況を確認する。

 キシや他のプレイヤーに倒された機体が、帰還用プログラムに従って起き上がり、騎乗していたプレイヤーが所有するカーゴがある方へ移動を始めていた。それは発着場の敷地内だけでなく、その周りにある砂漠地帯でお同じことだ。

 敷地の中と外で違いがあるとすれば、せり出たままの壁に自動移動中の人型機械が躓き、一度コケることぐらいだ。


「中には、行動不能判定で、倒された場所に残っているものもあるな」


 戦闘の役に立つ可能性があるため、キシは動かない機体の位置を記憶しつつ、布魔を移動させながら、より深く周囲を観察する。

 戦闘開始から激しく響いていた戦いの音が、随分と小さくなっている。

 音がしているのは、キシがいる場所から建物を挟んで真反対側。音の規模から、生き残りはほんの数機だと察せられた。

 布魔なら建物を飛び越えることもできたが、時間稼ぎと遮蔽物を利用して移動するために、キシはあえて地上を走行して生き残りの元へ向かう。

 やがて見えてきたのは、複数の倒された人型機械。そして、左肩から先が吹っ飛んだ状態で立っている一機だった。

 満身創痍の相手に、キシは布魔にアサルトライフルを仕舞わせると、背中から再び刀を抜き放つ。

 その行動を見て、左腕を失った機体から外部音声が放たれる。


『こちらが勝利する可能性を残してくれるとはな。これがプレイヤーなら、遠慮なくその銃器で、こっちを撃ち殺す場面だというのに』


 生き残りのプレイヤーは、布魔を操っているのはNPCと信じて疑っていないと、発言からわかる。

 キシは思わず苦笑いすると、布魔の外部音声のスイッチを入れた。


『構えろ。勝負は、一撃だぞ』

『ははっ、尋常に決闘とはな。外連味がわかっていることだ』


 相手プレイヤーは残った右腕で腰からナイフを取り出す。

 キシは布魔に刀を正眼に構えさせ、相手の行動を待つ体勢に入る。

 十数秒、時間が流れる。

 お互いに身構えたまま、動こうとしない。

 そこに、壁を乗り越えてやってきた砂漠の風が吹き抜けてきて、とある打ち倒された機体を揺らした。揺れた機体からボロボロの装甲が剥離して、地面に衝突して小さな音が発生する。

 その音を切っ掛けに、生き残りのプレイヤーが一気に行動を開始した。


『うおおおおおおおおおおおおおおお!』


 雄叫びに連動するように、彼が乗る中速度帯の機体の背にあるバーニアから眩い噴射炎が発生し、生み出された加速度で前へと機体を瞬発させる。

 突進と言うべき挙動からは、相打ちであっても布魔を倒すという気概が感じられた。

 一方でキシは、布魔を正眼から最上段の構えに移行させる。ただし、その場から一歩も動かない。

 動と静に分かれた両者の行動。

 そして突っ込んでくる機体は持ったナイフを突き、布魔は大上段から刀を振り下ろした。


『おおおおおおおおおおおおお!』

『はッ!』


 激突した両者の攻撃。

 突き出されたナイフは布魔のコックピット――そのすぐ脇の空間を貫いていた。

 一方、布魔が振り下ろした刃は、相手の機体の頭部を両断して通り過ぎ、砂の地面に少し斬り込んでいる。

 勝負の軍配は、キシに上がったのだ。

 崩れ落ちる左腕のない機体を見ながら、キシは布魔に刀を収納させるとアサルトライフルに持ち替えつつ、移動を開始する。まだ他に生き残りがいて、勝負が決着した瞬間を狙っている可能性を考えたためだ。

 そんなキシの警戒をあざ笑うかのように、発着場周辺にある壁が再びせり上がり始めた。それこそ、戦闘終了を知らせるように。


「機体が減るにしたがって下がっていた壁が再び上がっていく――もしかして、敵機が全機倒れたら元の高さに戻るってことか」


 壁が元の高さに戻ろうとしているにもかかわらず、キシは気楽そうに壁が上っていく光景を見る。

 そも、布魔なら元の高さになろうと、その天辺まで飛び上がることが可能だ。ここで慌てて逃げださなくても、壁を乗り越える方法はある。

 少なくとも、キシはそう考えていた。

 しかし、それが考え違いだと、すぐに理解させられてしまう事態が起こる。

 なぜか急に布魔の電源が落ち、コックピット内が非常灯の赤色に変わってしまったのだ。

 キシは少し驚いたものの、『知恵の月』に捕らえられたときに電磁波爆弾で機体を停止させられた経験があるため、冷静に対抗策を行っていく。


「リアクターの動作の停止を確認、機体にある緊急電源に移行する――チッ、非常用バッテリーじゃ電力が足りなくて、壁の上まで行く推力が得られないか」


 キシは口惜しそうに歯噛みすると、なにが起きたのか復帰した全周モニターで確認する。


「壁を出て帰ろうとしていた破損機体が、地面に倒れ込んでいるな。ってことは、少なくともこの敷地内は、人型機械のリアクターが上手く作動できなくなる不思議空間になったって考えたほうがいいな」


 どうしてそんなことになっているかは、親切なことに、発着場の建物が声で教えてくれた。


『布魔のパイロット、戦闘、お疲れ様です。次の戦いに備えて、休憩に入ってください。次回は、地球時間で、六時間後です』


 キシはこのアナウンスを、人型機械の親玉の声だと理解した。

 続けて、その言葉の真意を推測する。


「メタリック・マニューバーズのイベントは、短ければ一日、長くて二週間だ。発着場で俺が閉じ込められた日数を考えると、このバトルロイヤルの告知期間は少ししかない。となると、最長でも週末開催イベント――つまり三日間が精々だろうな」


 キシはプレイヤーと店員の両面の経験から、そうイベント日数を弾き出した。

 しかし『三日間』なのは地球時間であって、この星の時間ではない。


「ここでは地球の三倍から四倍の時間が速く流れる。ってことは、短くても九日間、長かったら十二日間も、ここに閉じ込められるってことか」


 食料と飲料水に関しては、キシが閉じ込められていた部屋にまだまだ山積みになっているため、問題はない。

 しかしこれから一人だけで、連日命がけの戦闘を行わなければならないと理解して、キシの気分は下降気味だ。


「倒れている人型機械からバッテリーを回収して繋ぎ合わせれば、壁を上り切るまでの推力の確保はできるだろうけど。もしも、このリアクター使用不能空間が発着場の外まで広がっていたら、砂漠の上で立ち往生か。これは、大人しく九日から十二日間戦い続けなきゃいけないな……」


 予想外の事態に、キシはため息を吐きながら、布魔を動かして倒れている人型機械に近づかせる。

 目的は非常用バッテリーではなく、倒れた機体が持つ武器弾薬だ。

 この戦いで大分消費してしまったため、鹵獲しなければ連戦に支障をきたす。


「希望的に楽観すると、人型機械の親玉さんは俺の状況を知っているだろうから、戦闘を長引かせたいのなら武器弾薬の支援があるはず――ああ、だから俺を閉じ込めている場所が、発着場なのか」


 飛行機で物資を運んでくれる可能性があるとキシは判断しつつも、もしなかったときのために、布魔のバッテリーが尽きる寸前まで倒れている人型機械から物資の回収と、それらを建物の各所に隠すことを行い続けるのだった。

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