九十話 発着場突入
『知恵の月』と『砂モグラ団』はカーゴに乗り込んで、飛行機の発着場へ突っ込んだ。乗り切れない『砂モグラ団』の車やハンディーに人型機械は、その後を追いかけて突入する。
本当に防衛機構がないようで、すんなりと管制塔がある建物にカーゴは横づけされる。収納していた人員が外へと飛び出し、建物の出入り口に取り付く。鍵がかかっている。
「爆破するぞ」
『知恵の月』の戦闘部隊が黒っぽい粘土のような爆薬を取り出して、扉の取っ手部分に接着させる。そして発破装置とコードを爆薬に埋めてから、少し出入口から離れ、コードにあるボタンを押し込んで発破。
扉が建物の奥へと吹っ飛び、開かれた出入口から戦闘部隊と『砂モグラ団』の銃器持ちたちが、先行して建物の中へ入っていく。
安全確保がなされるまで、後続であるティシリアたちが待っている間に、カーゴからフリフリッツとドドンペリが下りてくる。続けて、発着場の外から続々と『砂モグラ団』の車両や人型機械たちが入り込んできた。
戦力は十分と判断したキシは、カーゴを運転に関わる次の行動を起こす。
「全員下りたようだから、俺は運搬機をシャッターのある建物の中に入れてくるから」
通信機で一言断ってから、キシはカーゴを発進させて、飛行機が中に入っていくという建物のうちの一つへ向かう。
きっちりと閉まっているシャッターへ、カーゴの機銃を掃射して穴だらけにする。その後で、カーゴ自体をそのシャッターへと突っ込ませた。
金属が軋む音と、包装を破くような音が同時に起こり、シャッターは千切れて用なしに変わる。
その破れた場所から、カーゴは建物の中へと侵入を果たした。
「この建物の中には飛行機が一つもなかったか。運が悪いな」
キシは全周モニターに映し出された建物内の様子を見た後で、カーゴのハッチを解放させた後で、運転席からハンガーがある場所へと出ていく。乗機である布魔に乗って、発着場制圧に加わるためだ。
コックピットに座り、いよいよ出発というところで、通信機からティシリアの声がやってきた。
『建物内を制圧したわ。いま、塔の最上部にあるガラス張りの部屋の中を調べているわ。地上に展開している人たちは、周囲からの敵に備えて警戒していて』
『『『了解!』』』
返事のいい人たちに混じるようにして、キシも了承の言葉を返してから、布魔を起動させてカーゴの外へ歩み出る。
『知恵の月』と『砂モグラ団』の人型機械全機が周囲を警戒。『砂モグラ団』の車両やハンディー乗りたちも、備えた銃器を周囲に向けて、不慮の事態が起きても対処できるように気を配っている。
その他、徒歩戦力の人たちは管制塔のある建物の制圧と、中の探索を続けていく。
参戦通りに進んでいる中で、不意に『砂モグラ団』の人型機械乗りが通信でぼやきを漏らした。
『ここまで何にもないと、この施設も大したもんじゃねえんじゃねえか?』
不謹慎な物言いだったが、この緊張を感じられないような状況では仕方がないと、誰もが咎めることはしない。それどころか、別の『砂モグラ団』の一人が話に乗っかっていく。
『大したものである必要はねえだろ。制圧した後は、ここを『悠々なる砂竜』に売ることに決まってんだしよ。安全に金が稼げるに越したことはねえだろうが』
『その通りだけどよお。オレたちの全勢力を突っ込んで、制圧以外の成果なしじゃ、やり切れねえ気持ちになるだろう』
二人が会話していると、唐突に地面が揺れ出した。
『な、なんだ、天変地異か!?』
うろたえる通信が起こるが、日本暮らしの知識を持つキシは、震度一程度の揺れに恐怖を感じずに、周囲に通信で指示を飛ばしていく。
『地震かもしれない。人型機械は片膝をつく揺れに強い体勢に、ハンディーも転ばないようにうずくまって。建物内の人たちは大丈夫か?』
『突然揺れて混乱しているけど、物品がなにもない通路に出て安全を確保しているから、心配しないでいいわ』
ティシリアからの返信を受けて、キシは安堵しながら、布魔を立たせた状態で周囲を見回させる。
地震にしては長い揺れに、なにかしらの巨大物体が近寄ってきているのではないかと疑ったからだ。
しかし、砂漠が広がる大地には、そんな大きなものを見つけることは出来なかった。
では天然の地震なのかと、キシが考えを変えようとした瞬間、発着場の周囲の地面から空へ向かって伸びあがる物体が次々と現れる。
それは、灰色の分厚い壁。
しかも、上へと伸びたその高さは、優に人型機械二機分はある。
『閉じ込める気か!?』
突然現れた壁に混乱した『砂モグラ団』の人型機械乗りの一人が、持たせていた短機関銃を発砲する。
銃器から連続発射された弾たちは、動かない大きな目標を狙っただけあり、全弾が壁に命中した。
しかし、命中して小さなへこみを壁に作っただけで、穴の一つすら空けることができない結果に終わる。
『それなら!』
また別の『砂モグラ団』の人が、自分が乗る重装甲の人型機械を発進させて、壁へと体当たりを仕掛けた。
山の上から転がってきた大岩が、堤防にぶつかったような音が響く。
しかし、人型機械の方が弾き飛ばされてしまった。
『何だこの壁、とてつもなく硬いぞ!?』
『みんな、手を出すな。俺が上からどうなっているか覗いてみる』
キシは周囲に告げてから、バーニアを噴射させて布魔を上空へ跳び上がらさせる。
流石は最新機種。人型機械二機分の高さがある壁の、さらに上まで跳ぶことができた。
そこから見えた光景は、発着場の周りをぐるりと取り囲む、人型機械の片腕分――およそ五メートルもの厚みを持つ灰色の壁だった。
キシは光景に驚きつつも、布魔をゆっくりと下降させ、着地させる。そして通信機で、ここにいる全員に今の状況を伝えた。
『――というわけで、どうやら俺たちはここに閉じ込められたようだ』
そう報告を締めくくると、ティシリアからすぐに返信がきた。
『その壁を乗り越えることは可能なの?』
『難しいな。布魔一機なら跳び越えられるが、その他の機体だと無理だ。もし仮に、壁にロープを掛けることに成功し、そのロープを使って壁を乗り越えることができるとしても、運搬機は運べないため、ここに放置していくことになるぞ』
『うぐぐ。ここで運搬機を持ってきたことが裏目に出るだなんて』
『その運搬機があるお陰で、閉じ込められても飢えや渇きで死ぬことはないんだけどな』
『状況はわかったわ。こっちは塔の上にあるガラス張りの部屋の探索を続けるわ。上手くいけば、その分厚い壁を地面の下に戻す方法が見つかるかもしれないし』
ティシリアたち建物内を探索する班が必死で探し回る中、外に居る連中はどうしたものかと行動の指針に悩んでいた。
なにせ、周囲は高くて分厚い壁に囲まれてしまっているため、周辺警戒なんてやっていても意味がない。
そこでキシは提案した。
『暇な時間を持て余すぐらいだったら、俺たちは別の建物の中を探してみるってのはどうだ。もしかしたら、そっち側に壁を戻す機構を見つけることができるかもしれないし』
『それはいい案ねん。でも、この建物の防衛をおろそかにするわけにはいかないわよねん』
通信してきたキャサリンは、悩むような声を出した後で、再び会話を切り出した。
『人型機械を二機、車とハンディーも数台残せば、とりあえずの防衛としては十分じゃないかしらん。なにか起きても、他の人が駆けつけてくれるだろうしねん』
『戦闘音が響いてくれば、全員が戻ればいいんだから、それで十分だろうな。それで、他に意見がある人は?』
キシが呼びかけるが、他の人からの通信はやってこなかった。
別の意見がないのではなく、キシが提案しキャサリンが修正を加えた案に従うという意味での沈黙だった。
『それじゃあ、それぞれ、行動開始しよう。建物の防衛に残るのは、誰にする?』
キシの呼びかけに、すぐに返信がきた。
『キシさん。その役目はオレら、『砂モグラ団』に任せてくだせえよ。正直、この場所から動くことすら、ちょっと怖いと感じているぐらいで』
『こういう、経験したことのない不慮の事態ってのに遭遇した場合、オレたちは慎重に行動することにしてんです』
通信からしり込みしている様子がありありとわかる彼らの様子に、キシは苦笑いを浮かべながらも叱責はしなかった。
『わかった。それじゃあ、『砂モグラ団』でも参加してくれる人だけ募集して、他はここの防衛を任せるよ。探索参加する人は、こっちに寄ってきて』
キシが呼びかけると、外に残っている『砂モグラ団』の内、六人が布魔に近づいてきた。彼らの内訳は、一台の車に乗りこんだ二人、人型機械一機、ハンディー二機、そして徒歩の一人だ。
探索するにしては少ない人数だが、キシは受け入れ、フリフリッツとドドンペリに向かって布魔の手を振って合図する。
『それじゃあ、探索開始だ。建物のシャッターの破壊は、人型機械の実体刃で行うぞ。怪しい物体があったら、すぐに通信することにしよう』
『『わかったわん』』『『『了解』』』
シャッター建物探索班一同から返事を受けて、キシは先頭きってシャッターが閉まっている建物へと向かうことにした。