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八十九話 飛行機の発着場

 『砂モグラ団』から、端末間通信による連絡が来た。

 その情報によると、広い砂漠の一区画に、例の飛行機の発着場があること。日に二度か三度、どこからか来た飛行機が着陸し、発着場にいた飛行機がどこかへ出立していく。周囲に、人型兵器やそれに類する敵性兵器の存在は確認できない。それなのに嫌な予感が常にすると、所見が添えられていた。

 『知恵の月』の面々は、この情報を得て、持って行くものの詳細を詰める。そしてキシが提案していた、カーゴを移動手段として使うことを、ティシリアが本決定した。


「いざというときに、『砂モグラ団』の人員も収容して逃げるのなら、これ以外に有用な乗り物はないわ」

「休憩所の運営問題は、どう解決するんのん?」


 キャサリンの疑問に、ティシリアは身振りでヤシュリに代弁させる。


「工場施設で入手した破損した人型機械から取ったリアクターが複数個ある。それらの中から一機ずつ、食料生産、水発生、電力発電に専用として使うわけじゃ。これで、運搬機カーゴがあったときと同じ規模の各種生産が可能となるわけじゃな」

「でもね、ティシリアちゃん。ワタシたちがここを出ていっちゃったら、誰が運営するのよ。『砂モグラ団』の人たちは、偵察に全員出ちゃっているのよねん?」

「もう一つの問題だった運営代行は、この土地に住もうとしている人を雇って行うわ。乗っ取りは心配だけど、運搬機をこちらが握っているから、別の場所で建て直すこともできるから、気にするだけ無駄と思っていいわ」

「なるほどねん。問題を全て解決できる方法を考え付いたからこそ、運搬機を持って行く気になったってわけねん」


 キャサリンの質問によって、他の面々の疑問も晴れたようで、すぐに移動準備に入った。

 といっても、『知恵の月』の拠点としての機能があるカーゴを持って行く関係で、準備らしい準備は、カーゴのリアクターに繋いでいた飲食物と電力生産用のケーブルを外すことと、不安感を抱いた休憩所にいる人たちに問題ないことを説明するぐらいだった。

 そうして全ての出立準備が整ってから、『知恵の月』はカーゴに乗って休憩所を離れたのだった。




 砂と岩石の大地を、カーゴが物凄い速さで進んでいく。

 その運転席に座るキシは、全周モニターに映る光景を見ながら、巧みに道を選んで、カーゴが進みやすいようにハンドリングする。

 快適な走行で距離を稼げるため、キシが運転休憩をとるときは、ビルギやキャサリンにキャシーが運転を代わるのだが、速度を落として安全かつ揺れが少ない運転を行わせることが可能となっていた。

 害獣がたびたび襲ってくるが、カーゴの上部に前後二門ある銃座が動き、そこから発射された銃弾が粉々にしてしまうため、走行の問題にはならない。

 そうして平穏な旅路が四日続き、目的地である飛行機の発着場――そこから少し離れた場所に到着した。

 ここで偵察に出していた『砂モグラ団』と合流する予定だからだ。

 予定地点に到着すると、そこは砂ばかりある地面が四方を埋め尽くす場所だった。オアシスどころか植物の一本もなく、蜃気楼にも水場が見えないような、完全に不毛な土地である。


「ここで待ち合わせなんだけど、いないわね」


 ティシリアがカーゴの全周モニターを見ながら言うと、その言葉に反応したように砂場の一部が盛り上がった

 警戒してカーゴの銃座が動くが、キシが運転に使っている端末を操作して、攻撃を止めさせた。

 出てきたのが、砂色の布を被った、『知恵の月』が『砂モグラ団』に与えた人型機械だったからだ。


『おーい。ようやく登場か。待ちくたびれていたところだぜ』


 出てきた人型機械から親しげな声。『砂モグラ団』の一人だと、ティシリアたちはすぐに分かった。その一機を皮切りに、次々に砂の中から機械や車、そして人が続々と現れる。

 その全てが『砂モグラ団』とわかり、『知恵の月』の面々は警戒を解き、カーゴも完全に移動停止させてハッチを開けていく。

 空調がかかっていた空間に、開けたハッチから熱く乾いた空気が入ってくる。そして空気の流入を追いかけるように、『砂モグラ団』の人員が中に入ってきた。

 そんな彼らを、キャサリンとキャシーがレーションと水のパックを両手に山と抱えて出迎える。


「お疲れ様~ん。ほらほら、外は暑かったでしょうから、お水を遠慮なく飲みなさいねん」

「この暑さじゃレーションも傷みやすいからぁ、作ったばっかりのやつを食べてね」


 女性二人が配って回る姿に、世紀末風な格好の『砂モグラ団』一同が鼻を下を伸ばしている。

 ティシリアは彼らの姿を見咎めながらも、何も言わずに状況が落ち着くまで待ってから、『砂モグラ団』のリーダーに近寄った。


「情報は貰っているけど、詳しい偵察内容をお願い」

「詳しいもなにも、報告に上げた以上の情報はないんだがねえ」


 リーダーは困ったように頭を掻きながら、偵察で得た情報を語っていく。

 しかし本当に、通信できた情報と、何ら変化はなかった。


「発着場に入っていった飛行物体が、なにを運んできたかの情報がないんだけど、それはどうしてなの?」

「全て建物の中に入っちまうし、出入口はシャッターが閉まるから、外からじゃ見ようがなかった」

「本当に、なんの敵対的な機械はないのね?」

「空飛ぶ機械の中に、何も入っていないのなら、その通りだ。少なくとも、オレたちがここに偵察に来てから、建物の周辺や敷地内にそれらしい姿は見たことがないな」


 『砂モグラ団』リーダーの言葉に、ティシリアは困惑顔になる。


「それじゃあ、発着場は何のためにあるのかしら。あの工場施設みたいに、入ってみたらワラワラと出てくるってことなのかしら?」


 疑問を口に出しながら考えるものの、明確な答えは得られない。

 仕方がなく、ティシリアはその発着場に行ってみることにした。人型機械を連れ立っていくと反応が怖いため、戦闘部隊とビルギにアンリズを連れて、徒歩で行く。




 『砂モグラ団』の先導に従ってたどり着いてみると、飛行機の発着場という建物群が見えてきた。

 砂ばかりの場所に、コンクリートに似た建材で作られた広い基礎の上に、硬質な白色で作られた建物が四棟もあった。一つの建物の上部には尖塔のようなものがあり、それが観測所であると見られる。他の建物は倉庫のような横に長い平屋作りで、出入口がシャッターで閉まっている。『砂モグラ団』の弁だと、この平屋建物の中に飛行機が中に入っているそうだ。

 それら建物に接続する形で、長い滑走路が一つ伸びている。地球の発着場のように何本もないのは、スケジュールがバッティングするほどの数の機体を運用していない証だ。

 この施設の周辺には、なんの柵もない。壁どころか、フェンスや有刺鉄線もない。そのため、外から建物は丸見えになっている。

 そのため、ティシリアたち『知恵の月』の面々は、楽々と建物とその周辺の様子を見ることが出きた。


「本当に、人影どころか、機械一つすら外にはないのね」


 広々とした基礎の上には、動きが全くない。新品のまま放棄された発着場という印象だ。

 しかし、飛行機が飛来してきたり、逆に建物内から出て離陸しようとするときには、自動的に施設に動きが現れるらしい。


「飛んで来るするときも、飛び立つときも、あのシャッターが先に開く。つづいて、あの長い道にポツポツと明るい電灯がつくんだ。しかし、あの尖塔の上にある、ガラス張りの部屋の中には、人影はない。だからオレらは、人型機械の親玉が動かしているんじゃねえかって、勘ぐっているぜ」

「これは、大当たりかもしれないわね」


 あの工場施設と違って、この発着場は完全自動で運用できないと、ティシリアは考えた。

 空を飛ぶ機械を扱うには、事前に建てたスケジュール通りにはいかない。

 砂ばかりの地形では、砂嵐や竜巻など、天候の変化が多いという情報がある。砂嵐は地面を走る車ですら横転しかねない強風だ。事前スケジュールを守るために、空飛ぶ機械をそんな中に突っ込ませようものなら、墜落は必至である。

 そう、この発着場には、少なくとも天候の回復を待ってスケジュールを組み直す存在がいなければならない。


「天候をカメラで確認して自動的に修正を加える人工知能、キシのような培養した人間を使役して作業させている、そして人型機械の親玉が直接変更を加えられるよう通信施設がある。この三つが、可能性としては濃厚ね」


 そう呟きながらも、ティシリアは二番目――培養人間を作業員としている説を切り捨てる。

 人が暮らしていれば、いくら隠そうとも痕跡は出る。それにもかかわらず、発着場は新品のように綺麗なまま。あの様子では、作業員が暮らしているとはとても考えられない。

 ここまでの考えをビルギとアンリズと共有してから、ティシリアは人工知能説と通信設備説の可能性が高まったことで、どうするべきか狙いを定めることができた。


「どちらの説が正しいにせよ、あの尖塔のようなものがある建物を制圧する必要があるわね」

「誰もいなさそうなんですから、制圧自体は簡単でしょう。今回もキシたち、人型機械の運転手に任せますか?」


 ビルギの質問に、ティシリア、続いてアンリズが首を横にふる。


「建物内を調べる必要があるから、戦闘部隊に動いてもらわないといけないわ。可能なら『砂モグラ団』にも人員を出して欲しいわね」

「敵がいないのなら、いっそのこと、運搬機で乗り付けるのもありよ。あれなら、大人数を一気に運搬できるもの。制圧隊が建物に突入した後は、別の建物のシャッターを壊して中に入ればいいわ。あの大きさなら、悠々と入ることができるだろうし」


 二人の言葉に、ビルギはなるほどと頷き、ここまでの案内をしていた『砂モグラ団』団員は男らしい笑みを顔いっぱいに浮かべた。


「うちらとしちゃ、金さえ払ってくれりゃ、危険な場所への同行は構いませんぜ。おっと、値段交渉はリーダーとしてくださいな」

「そうさせてもらうわ。それじゃあ、まずは皆がいる場所まで引き返すわよ。その後で、制圧戦の会議をするわ」


 ティシリアの号令に従って、偵察に来ていた全員が来た道を引き返していく。

 その間、離れつつある発着場は、不気味なほどに静かなままだった。

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